4話 呪紋使い(カースメーカー)。
「苛み、縛れ」
まだ夜の明けきらない、朝もやの【妖樹の森】の中ほどにある広場。そして、その真ん中にある泉のたもと。
いまにも食いつこうとダラダラとよだれをたらしながら迫ってくる魔狼の群れ。
そこに向けて、右手を前に突きだした僕よりも幼い少女は、まったく表情を変えずにそう宣言した。
それと同時。ぼろきれのようなマントがぶわりと魔力を含んだ風でたなびき、あらわになったほとんど裸の少女の褐色の肌に刻まれた全身の赤い紋様がいっせいに意志を持ったように動きだした。
少女の体を目にもとまらぬ速さで飛びだし、まるで生き物――蛇かなにかのように地面を這いまわり、
『『『ウォオンッ!?』』』
そして、少女へ向けていまにも襲いかかろうと飛びかかる魔狼たちの体に一匹一匹絡みつき、縛り上げ、そのまま空中に縫いとめていく。
やっぱり間違いない……! はじめて見た……! これが呪紋使いか……!
僕の暗殺者のように生まれながらに特異なクラスへの適正ばかりを得る【闇】属性の中でも一段と特異な、その希少性から幻といわれるクラス。
そして同時に、まるで獣じみたその特性から、嫌われものの【闇】属性の中でも最も忌み嫌われるクラスでもある。
樹上の僕の見つめる下。ぶわりとぼろきれのようなマントがひるがえり、少女のほとんどなにも身に着けていない華奢な体が惜しげもなくさらされていた。
そう。呪紋使いは、その体に刻まれた全身の赤い紋様を動かして戦うその特性から、ほとんど衣服の類を身に着けられないのだ。
その特性がこの発達した文明社会において、どんな意味を持つかは語るまでもないだろう。
加えて、あの特徴的な褐色の肌。海の向こうにあるという未開の国の種族と同じとされるその肌の色は、人々にさらに彼女たちを侮蔑させるには十分だった。
……それこそ、まるで野良犬や獣でもあるかのように。
『『『ウォウウウウッ……!』』』
「くっ、うっ……!」
けど、それはともかくどうするつもりなんだろう?
確かに、あの呪紋の力で10匹以上いる魔狼たちを一度に縛りつけられるのは十分すごいと思うけど、僕の目にはどうもそれで精いっぱいに見える。
このままじゃあ長くはもたないだろうし、このあと一体どうす――!?
「ブフォフォフォフォッ! 撃てぇぇっ!」
ドドドドドドドドドッ!
――僕の疑問に答えるかのように、男の野太い鬨の声が上がる。
そして、呪紋使いの少女のはるか後方から、攻撃魔法と矢の雨が動けない魔狼たちへと一直線に降りそそいだ。
……当然のごとく、その前で戦う少女もろとも巻きこんで。
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