46話 甘いにおい。
「どうせ今夜の歓迎イベントのための景気づけなんだし、パーッと決めて、パーっとやっちゃえばいいんだって! ったく! なにをトロトロしてやがんだと思ったら!」
「う、うん……。ごめん……なさい……」
冒険者ギルドのクエストボードの前。
冒険者パーティー【最高に自由】のリーダーの男の怒声を受け、あからさまにしゅんとするディシー。
それを見たリーダーは「しまった」とでもいいたげな顔でバツの悪そうにポリポリと頬をかく。
「あーいや、ディシーちゃん? そうじゃなくてさぁ……えーっと、そう! 思い出なんてこれからいくらでもつくればいいじゃんってことだって! だからさぁ、そんなしょげないでよ! 今日の夜はみんな集めてディシーちゃんの歓迎イベントだよ? ね? みんなで最高に自由に、最高の思い出つくろうぜ!」
「う、うん……!」
「よっし! そうと決まればお前ら、行くぞ! 今夜の本番の前の景気づけだ!」
少しだけ盛り返したディシーを見て、【最高に自由】のリーダーは満足そうにこっくりとうなずいた。
後ろに声をかけながら、受付に向けてすたすたと歩きだす。
「へーい」「はーい」「う、うん!」
やる気のなさそうな返事をした、リーダーの男と同じく軽薄な印象を受ける男女ふたりがぞろぞろとついていく。ディシーもあわててその最後尾に混じった。
これが【闇】属性でも関係ないって、深い絆で結ばれた真の仲間……?
そんな釈然としない思いを抱えながらもただのパーティー内の問題に当然僕は声をかけられるわけもなく、ただだまって彼らが去っていくのを見送るしかな――
……ん?
――甘い、甘いにおいがした。僕の横をすれ違い、去っていく彼らの体。ディシー以外のふたりからも、リーダーの男と同じ甘ったるいにおいが。
なんだ……? これ、どこかで嗅いだことがあるような……? 香水かと思ってたけど、なにかもっと、違う……?
なにかが僕に警告をする。このままだまって彼らを行かせてはならないと。
「感覚強化」
その直感に従って僕はその情報をしっかりと確認すると、今度こそ彼らの背を見送った。
それから、クエストボードをちらりと確認し、めあての数枚の紙をすばやく引きはがす。
「ロココ、行くよ」
「うん、ノエル」
そして、受付のフェアさんのところへと、ロココを連れて戻った。
「ごめんなさい。ノエルくん……。まさか、あの娘……ディシーちゃんが入れ違いでパーティーに入っちゃってたなんて……。しかもあの【燃え上がる自由】なんかに……」
「いや。フェアさんのせいじゃないよ。それより急いでこのクエストを――ん? 【燃え上がる自由】?」
「あれ? 違った? あ、【究極の自由】だっけ? それとも今回は【至高の自由】だった? あー、もう! 【自由】って名前のつく似たようなパーティー多すぎ!」
今回は……? 似たようなパーティー……?
「ねえ、フェアさん? それ、どういうこと? ちょっとくわしく聞かせてくれる?」
それは、予感だった。
なにかが僕に警告をする。いまも鼻に残るあの甘ったるいにおいとともに。
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