37話 屈伏。
「あああ、ありがとうございますっ! そそそ、それで条件とはっ!? ささ、さっきもいったとおり、ななな、なんでもしますっ! 土下座でもっ! 靴でも舐めますっ! 金もありったけ払わせていただきますっ!」
『土下座? そんな軽く捨てられる安っぽい誇りなんていらないよ? 靴なんて舐められたって、汚いだけだと思わない? 金? これから【大妖樹】の核を売って大金を手に入れる僕たちに、それを奪おうとしたあなたたちが? それって、なんの冗談なのかな?』
冒険者ギルドの受付の前。
(最初から殺す気はないけど)どうにか自分の命が助かる光明を見いだして血色のよくなったリーダーの男が上げる提案を僕はひとつひとつ理由を上げながら丁寧に潰した。
「な、なら……い、いったいなにをすれば……?」
まだロココの【呪紋】の縛りも解いていないし、恐怖を煽り立てる僕の特殊な話法も続けたままだ。
あいかわらず自分の命が僕たちに握られたままなのをようやく思いだしたのか、リーダーの男の喉がごくりと鳴った。
それを見て頃合いだと僕はひと言で要求を突きつける。
『屈服のあかしとして、武器を差しだせ』
「え? 武器……を? そ、それくらいなら……!」
思ったよりも大した要求じゃなかったと判断したのか、リーダーの男がふたたび血色をとり戻した。
だから、僕は続く言葉でその顔をふたたび蒼白に変える。
『ただし今日だけじゃない。今後僕たちを見かけるたびに即座に武器を差しだせ。未来永劫僕たちにはかなわないと、敵対しないと示し続けろ。絶対の服従を示し続けるんだ』
そこで一度言葉を切り、僕はとびっきりの笑顔をつくった。
『そうすれば、あなたたちの命を僕たち【輝く月】が売ってあげるよ?』
「「「「「ひぃぃぃぃっ!?」」」」
ひとを殺すことをなんとも思っていなさそうな、冷たく酷薄な暗殺者の浮かべる笑顔――かつて常日頃から僕が見てきた笑顔を形づくる。
「「「「すすす、すぐに! いますぐに! 差しださせていただきますっ!」」」」
その効果はてき面で、4人の男たちは異口同音に声高々に宣誓した。
……それにしてもあなたたち、ビックリするくらい息ピッタリだね?
「こここ、これで全部です……! どどど、どうぞ……! おおお、お収めください……!」
『うん』
ロココの【呪紋】の縛りを解かれた3人の冒険者が差しだしてきた武器を受けとり、最後にリーダーの男がおずおずと差しだしてきた長剣を手にとる。
さすがにあれだけ脅したあととあって、期待していた切っ先をこちらに向ける馬鹿はいなかった。
……うーん。ただそれじゃ困るんだよな?
『へえ? いい剣じゃないか。ちょっと試してみようかな? あなたで――レイス流暗殺術【咢】』
「……ぶぇっ? う、うううわぁぁぁぁばばばっ!?」
音もなく鞘から抜き放つと、刃をすばやく二度閃かせる。左と右、ほとんど同時に感じるだろうタイミングでリーダーの首にピタリと刃が添えられた。
それと同時にギルド中にざわめきが起こる。
『うん。やっぱりいい剣だね? はした金にはなりそうだよ』
チンッと今度はあえて音を響かせて剣を鞘に納めると、今度はギルド中が静まりかえった。
ふう。これだけやればよっぽどだけど、僕たち【輝く月】に突っかかってこようって馬鹿はまずいないかな?
このひとたちが気づいているかは知らないけど、僕がこのひとたちに求めた条件って、実質この【リライゼン】を出てけっていってるみたいなものだし。
だって、ギルドや街で僕たちを見るたびに武器を奪われて、そのたび丸腰にされてたら、まともな冒険者活動なんてできるわけがないんだから。
最終的には冒険者引退が嫌なら、この街を出ていく以外に選択肢はない。
そう。つまり【闇】属性の子どもふたりに絡んだだけでいままでの生活基盤をすべて失うことになるというリスク、これが僕の考えた最悪の条件だ。
「「「リ、リーダー!?」」」
『ん……? うわっ!?』
なんてことを考えていたら、ギルドにいる他の冒険者たちへ向けた僕の見せしめとなったリーダーの男が白目をむき口から泡を吹いてひざをついたまま失神していた。
しかも、床の上には生暖かい水たまりをつくって。
え? なに、この予想外の惨状……?
『……要求をひとつ追加』
「「「ひぁっ!?」」」
そんなリーダーをかいがいしくも助け起こそうとしていた3人の男たちへ向けて、僕は告げた。
『掃除と後始末。それと、ギルドへの迷惑料も払っておいてね?』
あえてギルド中へ響く【声】で。
放置なんてしませんよ? って意味をこめて。
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