35話 芝居。
『……ロココ。ちょっと頼める?』
冒険者ギルドの受付の前。
暗殺者一族の僕の実家に伝わる特殊な発声方法でとなりのロココにだけ聞こえるようにぼそぼそとささやくと、ロココはだまってこっくりとうなずいた。
「おいおいおい!? そこのイモくせぇ受付の姉ちゃんよぉ! まさかその劣等【闇】属性どもの言い分をそのまま信じようってのかぁ!?」
「てめえ! 【闇】のカスガキ! さっさと吐けや! いったいどんな汚い手を使ってその【大妖樹】の核を手に入れやがった!」
「へっ! そんなの決まってんだろーが! 大方ほかの冒険者が【大妖樹】と相討ちにでもなったところをかすめとったんだろーぜ! ……いや、待てよ? それどころかその冒険者を口封じしててもおかしくねーんじゃねーか!?」
たぶんパーティーなんだろう。いかにもガラの悪い4人の冒険者の男たちが僕とロココ、おまけに受付のフェアさんにまで芝居がかった調子で難癖をつけてくる。
なんのかんのと理屈をつけてはいるが、要は高値で売れるこの【大妖樹】の核を僕とロココから奪いたいらしい。
ただ、いくら僕たちが【闇】属性だからってこのまわりにひとの目のある中では、そう問答無用に奪えるわけもない。どうやら、そのための大義名分をいま即興でつくりあげているようだ。
「おうおう! なんてひでえ話だ! それじゃあ魔物とかわりやしねえじゃねえか! 本当に【闇】属性ってやつは血も涙もねえ! ならせめてよぉ! オレたちがそのかわいそうな冒険者の無念ってやつを晴らしてやらねえとなぁ?」
「「「おお! そうだそうだ! こんな【闇】属性なんてやっちまおうぜ! 正義の敵討ちだ!」」」
欲深にギラリと光る4人の男たちの目がいっせいにこちらを向いた。
どう考えても無茶な理屈だけど、どうやら男たちのなかではそれで十分なようだ。
いや、もしかしたら本当に信じているのかも?
だって、この男たち程度の実力なら、少しでも僕たちが【大妖樹】を倒したって思ってるなら、怖くてとても向かってこようとは思わないだろうし。
……まあ別になんでもいいんだけどね? だって、もう終わってるし。
「さあ! というわけだ! そこの薄汚え【闇】のカスガキ! おとなしく俺たちの正義の鉄槌を受けやが――はっ!? な、なんだこれ!? う、動けねえっ!?」
「苛み、縛れ」
こぶしを振り上げた体勢のままで一番近くの大柄の男の動きがピタリと止まる。
この4人の男たちがわざとらしい長い芝居をしている間に僕がロココに指示して、服を破かないように袖口からこっそりと【隠形】つきで床の上から張り巡らさせた赤い【呪紋】の縛りによって。
「ふっ!」
「ひ、ひぃぃっ!?」
間髪入れずに、僕は鋭い呼気とともに大柄な男の首筋へ向けてビッ!と貫手を刃物の代わりに突きつける。
「「リ、リーダー!? うっ!?」」
「て、てめえ!? い、いったい俺たちになにをしやがったぁぁぁ!?」
「苛み、縛れ。尽く」
当然、このロココの【呪紋】が縛ったのはリーダーの男だけじゃない。
図体に似合わない情けない悲鳴を上げたリーダーに駆けつけようとした3人の男たちの動きも、その場でビタッと次々と止まる。
さて。こんなものかな?
じゃあ場も整ったみたいだし、始めようか。悪いけど……いや、別に悪くないか。
まあ、なんにしても僕たちの今後の円滑な冒険者生活のために――
『はは。僕たちがなにをしたって? そんなこと、もうどうでもいいと思わない? どうせあなたたちは、これからここで死ぬっていうのにさ?』
――あなたたちには見せしめになってもらう。
口の端をつり上げ、酷薄な笑みを形づくる。同時に行使するのは、あの高級食事処でブッフォンに使ったのと同じ、恐怖を煽り立てる独特のリズムと声色を使った話法。
そして、僕のその宣言に、冒険者ギルド中が波を打ったように静まり返った。
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