32話 初めての朝。
「ノエル……。起きて、ノエル……」
「う、うん……?」
ゆさゆさと体を揺さぶられる感覚に、ゆっくりと目を開ける。昨日の夜見たときと同じ姿のロココが僕の上に乗っていた。
そう。つまり、いろいろと目のやり場に困る姿のロココが。
「お、おはよう。ロココ……。よく眠れた……?」
気恥ずかしさから少し顔をそらしながら尋ねる僕に、ロココははっきりとうなずいた。
「うん。よく眠れた。だって、もうお昼だし」
「そっか。よかった……って、ええぇっ!?」
そのロココの言葉に、思わずガバッと跳ね起きる。
「ぴゃっ」
「あっ!? ご、ごめん!? だ、大丈夫だった!?」
「うん。なんとか」
その拍子にごろんとひっくり返りそうになったロココを途中で抱きとめ、同時に僕は部屋に備えつけられた壁掛け時計へと目を向けた。
たしかに時計の短針と長針は、そろってまっすぐに上を指している。
え……? こ、これってつまり……まさか、朝寝坊……!? ぼ、僕が……!?
昔、暗殺者一族の実家で、夜中寝ている間ランダムなタイミングで刺客に襲われるっていう訓練でも、必ず相手より先に起きて返り討ちにしていたこの僕が、こ、こんなにグッスリとお昼まで……!?
「ノエル……」
そんな僕にとってはあまりにも信じがたい事実を受け止めきれないでいると、胸にこてんと頭を預けていたロココが上目づかいに僕の顔を見上げた。
「おなかすいた」
ぐううぅぅぅ~。
ぐううぅぅぅ~。
その拍子にロココのお腹が鳴り、次いでつられたように僕のお腹まで鳴りだす。
「……そうだね。お昼だし、まずなにか食べようか。いっしょに下の食堂にいこう。あ、とりあえずロココは、昨日お姉さんたちにもらった普通の服のどれかに着替えてね」
「うん、わかった。ノエル」
いろいろと考えることはあるけれど、まずはロココといっしょに美味しいもので腹ごしらえだ。
でも、なんだろう?
なんだかロココといっしょにいると、不思議といろんな【初めて】がこれからも待っているような気がする。
たぶん生まれて初めて深い眠りから目覚めた朝、というか昼。
初めての朝寝坊をした日、僕はそんなことを思った。
……そして、もうひとつ。
『にい……さま……』
今回のことに酷似した、けれど決定的に違うあの夜。
そして、その直後。実家を飛び出した初めての朝に感じた、どうしようもない胸の痛みを思いだしながら。
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