31話 あったかい。
「ノエル……。いっしょに、寝ていい……?」
暗殺者として夜目の効く僕には、はっきりと見えた。
薄闇の中、潤んだ青い月のような瞳が真上から僕を見つめている。
銀色の糸のような長い髪が首筋をくすぐった。すぐ近くで感じるのは花のようなにおい。華奢な幼い体の重みと体温が軽装に着替えた僕の上にまたがる彼女の存在を実感させる。
赤い呪紋の刻まれた艶めく褐色の肌の上にまとうのは、透けるように薄い胸元だけで留められて股下まで大きく開かれた黒のナイトドレス一枚。
知らず、僕の喉はごくりと鳴っていた。
「ロ、ロココ……!?」
「だめ……?」
「ひうっ!?」
つう~っと僕の首筋を細い指が撫でる。その拍子に肩ひもが片方落ち、わずかに胸もとをはだけさせた。
さっきからずっと、心臓がうるさいくらいに鳴っている。
もし、いま僕が「うん」と言ってしまったら、いったいどうなるんだろう……?
この神秘的なまでに美しく生まれ変わった女の子と、僕が……?
「う、うん……。い、いい……よ……」
「よかった……」
僕が絞り出した答えに、ロココが蕾がほころぶような笑顔を見せる。そのあどけない顔がどんどんと僕の顔に近づき――そして、ぽすっと体を倒し胸にうずめられた。
「え……? ロ、ロココ……?」
「な……に……? ノエル……?」
あきらかに眠そうなロココの声に、いやでも僕は思い違いに気づいた。
ど、どう考えても全然そんな雰囲気じゃない……!? それに、そもそもロココはまだ僕よりも幼い子どもじゃないか……! いったい僕はなにを……!? いくらロココが綺麗で魅力的だからって……!
ただそれはそれとして、どうしても気になることがあった。
「そ、その、えっ……、き、綺麗な下着って……どうしたの……?」
言いかけた言葉を一度飲みこんでから、僕に体をあずけるロココに尋ねる。
「娼館で……もらった……。ロココが……ノエルといっしょに……寝たい……っていったら、なんか……がんばってって……。これを着てせまれば……イチコロ? だって……。よく意味は……わからなかったけど……」
うとうとしてたどたどしいロココの言葉。なかなか要領をえないそれを何度か頭の中で反すうして、ようやく僕は答えにたどりついた。
『いい? ロココちゃん! わたしがあげたとっておきのアレは、さっそく今夜にでも試してみるのよ! 応援してるわ! がんばってね!』
『……うん。ありがとう』
あああ!? あ、あのときのお姉さんとの内緒話!?
つ、つまりそういうこと……!? 娼館のお姉さんにとっては職業柄、【寝る】っていえば当然そういう意味で、だからそういう応援をしたつもりで……!?
でも当然ロココにはそんなつもりはなくて……!?
結局は、僕がひとりで勝手に右往左往してただけ。
事の真相を理解した途端になんだかどっと疲れてしまって、強烈な睡魔が襲ってきた。
もう朝までたぶんそんなに時間はないだろうけど、もういいや。なにも考えたくない。目を閉じてしまおう。
「もう……いい……? おやすみ……。ノエル……」
「うん……。教えてくれてありがとう……。おやすみ、ロココ……」
上に乗った華奢な幼い体をそっと腕に抱きながら、あ。ひとの体ってあったかいんだな。そんなことを思いながら、僕の意識はすぐに沈んでいった。
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