194話 【蛇刀】。
本日もよろしくお願いいたします。
「「レイス流暗殺術! 【這影】!」」
暮れゆく空の下、王都を一望する高台の上。
まったく同じ技、まったく同じタイミング、そしてほとんど同じ軌道で、鏡あわせのように僕とスライの剣閃が衝突する。
「うおおおおお!」
「ジャアアアアッ!」
レイス流暗殺術、【這影】。
相手の死角である足もとに潜りこむことを極意とする技。だから、より深く沈みこんだ側、つまり僕のほうが技の精度は上だ。
「曲がれや。【蛇刀】」
だが、打ち負けたスライの刃がはね上げられる前に、ぐにゃりとその刀身が変質し、僕に向かって落ちてくる。
「くっ!?」
あわててとび退く僕の腕を【蛇刀】の刃がわずかにかすめた。打ち合うたびに刻まれた腕の切り傷がまたひとつ増え、ポタポタと赤い雫が滴り落ちる。
「いやぁ。さすがやねぇ。ノエルくん。見事な技の冴えやわぁ。いまの【這影】もそうやけど、さっきから全部わずかにぼくの上いっとる。正直嫉妬するわぁ。けど」
ブン、とスライが腕を一度振ると――
「そんなノエルくんでも、さすがにぼくの【蛇刀】にはたいそう難儀しとるようで、なによりやわぁ」
――だらりとぶら下がっていたスライの刀身がふたたびもとの長大な刃の姿をとりもどした。
「……たしかにね。実際に相対すると、話に聞いてた以上に、その衝撃や魔力に応じて変化する刀身はやっかいだよ」
腕の傷をおさえながら、僕はその軽口に応じた。
「あはぁ。【レイス流暗殺術】最強の使い手と名高いあのノエルくんにほめられるなんて光栄やわぁ」
「さすがは奥義をひとつも習得できなかったお前が大金を積んでまでつくらせた専用武器だけあるよ。あ、【左刀】になれたのもその刀のおかげだっけ? ねえ、【蛇絞】のスライ」
「……ホンマけったくそ悪い、口の減らへんガキや……!」
そしてふたたび、僕とスライは互いをにらみつけながら、刃をかまえ相対する。
「にいさま……! ネヤは信じています……! にいさま……!」
背中に、僕を信じるネヤの祈りを一身に受けながら。
たぶん、あと数回だ。それで、僕の……!
「うおおおおお!」
ふたたび僕は、聖剣を手にスライに向かって駆けだした。
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ということで、ノエル対スライその1です。【蛇刀】に苦戦中でした。ですが……?
次回「下衆外道」 別視点。さて、他の戦局はどうなったのでしょう?
では、また明日よろしくお願いいたします。