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180話 【花】・3。

本日もよろしくお願いいたします。

「なんだぁ? いま、オレたちはこのガキに当主としての心得を教えこんでるところだぁ! 【花】はすっこんで――」


「【右刀】のバーリオ……! 【左刀】のスライ……! 当主に侍り、次ぐ権を持つ【真花】として命じます……! いますぐ立ち去りなさい……! この扉の前にひかえることも許しません……!」


 その震える声は、いまにも噴きだしそうな膨大な魔力と、それ以上の激情をはらんでいた。


「――っ!」


 気圧され、おしだまった大男と、狐のように目の細い男が顔を見あわせる。


 それから、肩をすくめると、まずは狐目の男がゆっくりと開け放たれた扉からでていった。


「じゃあ、【兄妹】水入らずでごゆっくり。ネヤさまぁ」


 ニイイッと粘つく、口が裂けたような笑みを残しながら。


「ちっ!」


 次に盛大な舌打ちとともに外にでた大男の手で横開きの扉が乱暴に閉められると、部屋の中に静寂が訪れる。


「ネヤ……。話って……」


「にいさまぁ……!」


 それと同時、もう一秒たりと我慢できないというように、ぽろぽろと涙を流すネヤが座りこんだままの僕の胸に飛びこんできた。


「母さまが……つい先ほど……! 身まかられました……!」


「え……?」


 それは、ゆさぶられつづけていた僕の頭と心を真っ白にするには、十分すぎるほどの、衝撃。


 固く、震えながら握られていたネヤの手が開かれる。そこには、【母さま】がいつも身に着けていた青の装飾具(ピアス)があった。


「ノエルにいさまを呼びにいくいとまもなく……これを形見分けにと……! 最期に……母さまは……にいさまと、(わたし)に……こう遺されて……!」


『ふたりとも……【レイス家】を……。いえ……、どうか……ノエル……。ネヤ……。幸せに……なって……』


「【母……さま……】!」


 胸によぎるのは、三人で過ごした幸せな日々。まだ自分の出生の秘密も現実もなにも知らず、ただ【家族】でいられた幸せな時間。


 それはもう、どこにもないのだと、終わったのだと、いやがおうにも、悟る。


「だから、にいさま? 母さまのいうとおりに、ふたりで、幸せになりましょう?」


「ネヤ?」


 僕の胸で泣きじゃくっていたネヤがすっと音もなく立ち上がる。


 その言葉に一種異様な雰囲気を感じ、見上げたときには、もう遅かった。


 しゅるり。


「お慕いしております……! にいさま……! ずっと、ずっと前から……! だから、どうかネヤをおそばに……!」


 夜の闇の中。白く幼い裸身が浮かび上がっていた、ふわりと帯を解かれ、手首にわずかにひっかけただけの黒の衣装をまるで羽のように広げて。




お読みいただき、ありがとうございます。


ということで、脱ぎました。

次回「終わりと始まり」 では、また明日。

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