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142話 そのかつて【勇者】だった男の。※

燃料をありがとうございました。

どうかお楽しみください。


※別視点。三人称です。

 暗殺者の少年ノエル・レイスが【闇】の聖剣を手に入れ、勇者として王に認められた現在からその遠くない未来。あるふたりの人物の結末について。


 そのもうひとつの舞台は、遠く王都を離れた王国の最果て。北の地、廃都。


 かつて王国と争い、滅ぼされた亡国の都。かろうじて王国の版図に含まれるも、都市を維持するための主要な魔力機構が壊れたため、いまも放置され、打ち捨てられたままの街。


 統べるものもおらず、細々とした経済活動により、かろうじて生活基盤が成り立つだけの顧みられることのない街。


 必然だったといえよう。この地に逃亡中の犯罪者や、王国で行き場をなくしたものが集うのは。


 ゆえに、その男も。



「ぎゃあああぁぁっ!? あ、足……!? お、オレの足ぃっ……!?」


 男は、いま自分の身に起きたことが信じられなかった。


 ただ因縁をつけただけだ。肩がぶつかった、といつものように。


 自分よりも体格の劣る死んだような目をした襤褸(ぼろ)マントの男に、脅しで刃物をちらつかせながら。


 なのに、なのに……! この男は一切の躊躇すらなく、オ、オレの足を……!


「【聖光十字斬(シャイニング・クロス)】」


 襤褸マントの男の【光】を放つ刃が十字に閃く。


「あぎゃああぁぁぁぁぁっ!?」


「ふっ!」


 叫ぶ男の右腕と左腕がボトリと落ちた。さらには、ついでのように返す刃で残った足までも。


 こ、殺される……! こ、この男はやばい……! やばすぎる……! か、関わるべきじゃなかった……! そ、それにいまのは……!?


 地虫のように這いつくばらされた男によぎるのは、いまさらながらの後悔。失った四肢から大量に流れだす血と気が狂いそうになるような激しい痛みに苛まれながら、自らの死を悟った男は怨嗟の声を上げた。


「て、てめえ……! い、いまの技……! ひ、【光】だな……!? なんだってこんな廃都(ところ)に、そんな見すぼらしい格好でいやがる……!? て、てめえらのせいで、オレは……! オレの家族は……!」


「【光】……? ふっ、はは……! ははははは……!」


「あぎゃっ!? あばあああぁぁぁっ!?」


「ふっ、くくっ……! あははははははははは……!」


 狂ったように高笑いを上げる襤褸マントの男が倒れた男に向けて何度も何度も剣を振り、その赤く染まる刃を突き立てる。


「あははははははははははは……!」


 それは、倒れた男が完全に絶命してからも関係なく、襤褸マントの男の気がすむまで繰り返された。


 そして、血だまりの中に沈むもはや見る影もない肉塊となった男からわずかばかりの金品を奪いとると、襤褸マントの男はこうつぶやいた。


「違うな……! 【光】だとか【闇】だとか、そんな属性(もの)は関係ない……! ただお前が弱いから、俺に奪われたんだ……! 金も……! 命も……! 尊厳ある死すらも……!」


 べっとりと剣についた血を振り払い鞘に納めた男がマントの中、肩口から先がない自身の右腕に左手で触れる。


 それは、自らの弱さにより失ったかつての栄光。かつて手の中にあった、その男のすべて。



 【闇】の聖剣を奪おうとして自らが見下していた暗殺者の少年に返り討ちにあった次の日、その男は逃亡した。


 王が提示した褒賞金も隠棲先もすべてを蹴り、つけられた見張りの騎士さえも斬り殺して。



「そう……! 強者には弱者から、すべてを奪う権利がある……!」


 そして、いまこの王国の澱みの吹き溜まりのような地で、狂気に満ちた笑みを浮かべる。


「はははは……! なあ、お前もそう思うだろう……? 俺になりかわり、すべてを手に入れた男……! 【闇】の勇者ノエル・レイス……! あはははは……!」


 そして、その血走った目をした、かつて【光】の勇者と呼ばれた男は狂気に顔をゆがめたまま、廃都の路地裏へと消えていった。


「あはははははははは……!」


 狂ったような高笑いを残し、深く暗い【闇】の奥へと。






お読みいただきありがとうございます。ブクマ、評価、いいね! などいただきました方、深く感謝申し上げます。あたたかい感想をいただけたら、うれしいです。


そして、まだまだ切実にお願いいたします。どうか燃料をください……!



ということで、完全に【力】の信奉者へと堕ちたブレンでした。もともとの彼の本質でもあります。


次回「とり戻したもの」またノエルたちの話に戻ります。


書ききりますので、これからもどうかよろしくお願いいたします……!

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