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100話 気に病むことはない。※

※この章は基本的に別視点。三人称でお送りします。

「本当にこれで……よかったんでしょうか……」


 腹心たる【死霊将軍(デスジェネラル)】を討伐し、行く手を阻む死霊系(アンデッド)魔物を蹴散らしながら、【死霊魔王】〝玩弄〟のネクロディギスの待つグランディル山の頂へと向けて進む道中。


 少し開けた場所で点在する岩に腰かけ休息をとる【黎明の陽(デイブレイク)】の面々のうち、星弓士(せいきゅうし)の少女ステアが手に湯気の立つカップを抱え、うつむいたまま口を開いた。


「あのとき、私たちが矢面に立ってパラッドさんの【光】の盾やマリーアさんの【光】の壁で冒険者(あのひと)たちを守っていれば……。あ……あんなに犠牲がでたりすることは……!」


 まだあどけなさの残る顔を悲痛にゆがめる緑色の短い髪の少女ステアの脳裏によぎるのは、恋人の死体にすがりつく、自分とさほど歳の変わらない少女の姿。


 あの場を去る前にはふたたび気丈に戦う意思をとり戻していたその強さを思うからこそ、なんとかしてあげられなかったのか、ステアはそう思わずにはいられなかった。


「ああ。そのとおりだろうね。ステア」


 カップの中身を飲んだ【光】の勇者ブレンがそのステアの発言を静かに肯定する。


「だ、だったら……!」


「はあ……。ステア、貴女もわかっているでしょう? わたくしたちが真に戦うべきは【死霊行軍(デススタンピード)】の元凶たる【死霊魔王】〝玩弄〟のネクロディギス。あのような腹心程度に力を尽くすべきではない、と」


 勇者ブレンの肯定を受けてさらにいい募ろうとするステアを、あきれたように息をついた聖女マリーアがたしなめる。


「へっ! そうだぜ、ステア! ていうかよ! 本来なら、力を温存するために全部冒険者(あいつら)にまかせてもいい場面だったんだ! なのに、ブレンがよ!」


 干し肉を豪快に噛みちぎりながら、聖騎士パラッドがブレンにギロリと視線を向けた。ブレンは軽く肩をすくめてそれを受け流す。


「それもしかたないだろう? パラッド。【死霊将軍(デスジェネラル)】の強さは俺たちの想像を超えていた。あのままでは冒険者(かれら)の全滅もありえたからね。だから、あの場面では俺たちが出張ることが最善の選択だった。ただ、それだけのことだよ。……そして、ステア」


「は、はい! ブレンさん!」


 【光】の勇者ブレンの煌々と光る金の瞳に見すえられ、ステアがびくりと体を震わせる。


 そんなステアから視線を外すことなく、ブレンは右こぶしを高々と突き上げた


 先ほど死屍累々と犠牲者たちの転がる戦場で、生き残りの冒険者たちを熱狂の渦に巻きこんだときと同じように。


「あのとき、冒険者(かれら)にいったとおりだ。俺たちは死んでいったものたちの思いもこめて【死霊魔王】に戦いを挑む。彼らの犠牲はけっして無駄にはしない!」


「ブ、ブレンさん……!」


 真剣な眼差しで熱く語るブレンの言葉に、ステアがいだいた罪悪感に似た感情が、すっと薄れていく――だが、そこで終わらずブレンはこう続けた。


「それに、気に病むことはないさ。どうせ次の戦いで冒険者(かれら)()()()()()()からね」


「……え?」


 ――いつもどおりの人あたりのいい朗らかな笑みで。

お読みいただきありがとうございます。ブクマ、評価などいただきました方、深く感謝申し上げます。 


あたたかい感想をいただけたら、うれしいです。




※というわけで、【黎明の陽(デイブレイク)】の面々の本音でした。見てのとおり、最後に加入したステアだけは、実はちょっと毛色が違います。


次回、「当然、そして楔」。本音後半。さらにあきらかになる【光】の勇者パーティーの実態。そして、【死霊魔王】側にも動きが。



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― 新着の感想 ―
[一言] こんな屑共が光の勇者達なのか・・・、正直言って、確かに強いとは思うけど、闇の「輝く月」には、遠くおよばないな。 更に言うと、こんな奴らは、自分達の力が通じないと、とっとと逃げ出すタイプ。 …
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