0話 最初から、そこに。
※この話は1話以前の時系列。独立した話【獣魔王】との決戦になっています。投稿したのは103話の後です。
いきなり知らないキャラのバトルから始まります。
最初に読まなくても問題ありません。気が向いたときにお読みいただければ。
1話で完結させる関係上、他の話と比べてやや長めとなっています。
「なっ!? ノエル!?」
『グオオオォォォッ!? キ、貴様ッ!? イ、イッタイ何処カラッ!?』
手の中には、会心の手ごたえがあった。
完全に気配を断ち相手の意識の外から一気に襲いかかる――防御を一切考えずに放った僕の全身全霊をかけた一撃。
暗殺者としての僕の奥義。【虚影零突破】。
「はあっ! はあっ! はあっ!」
その強烈な威力と精密な魔力制御の反動。全身を襲う一時的な強い脱力感に、僕はガクンと膝をついた。
獅子の頭と4本の腕を持った人間をはるかに超える巨躯。
世界に君臨する魔王のひとり【獣魔王】〝蹂躙〟のザラオティガの右上半身が2本の腕ごと吹き飛び、その血まみれの巨体が目の前でぐらりと傾ぐのを見上げる。
「はあっ! はあっ! い、いまだっ! 【獣魔王】の魔力制御が乱れているうちに、一気にっ! ブレン! パラッド! マリーア!」
「君にいわれるまでもない! 聖剣よ! おおおおおっ!」
「はっ! いまのいままで俺たちに戦わせておいて、こそこそ隠れてやがったヘタレ不意打ち【闇】野郎が! えらっそうに命令してんじゃねえぞ!」
「ふん! わたくしは貴方に命じられて動くのではありません! 疾風、剛力、そして聖なる【光】の加護、祝福をいま、彼らに! 【戦女神の祝福】!」
【獣魔王】ザラオティガとつかず離れずの戦いを繰り広げていた勇者ブレンがかまえる【光】の聖剣がその輝きを何倍にも増した。
傷だらけになりながらも大盾で【獣魔王】の猛攻をひとりしのぎ続けていた聖騎士パラッドが右手の突撃槍の先端に【光】の魔力を集める。
そして、そんな彼らの上に金の錫杖を掲げた聖女マリーアの祈り、色とりどりの祝福の【光】が降りそそいだ。
「おおおおおっ! くらえ! 【獣魔王】! 【聖光十字斬】!」
「おおらああっ! 【閃光突貫】! この腐れ獣野郎! くたばれやぁぁ!」
『グオオオォォォァァァッ!?』
聖女マリーアの祝福によって強化されたふたりの攻撃。
勇者ブレンの放った交差する巨大な【光】の斬撃が【闇】の魔力の制御を乱した【獣魔王】の残った左腕を2本とも断ち落とし、聖騎士パラッドの突貫に【獣魔王】の巨体がミシミシと軋みを上げる。
『グウウォォォ……ァァァアアアアッ!』
「ぐうおおぉっ!?」
だが、4本の腕をすべて失って、それでもなお【獣魔王】ザラオティガは倒れなかった。
今もなお全身から強くほとばしる【闇】の魔力を爆発させ、肉薄していたパラッドを大きく吹き飛ばす。
「……まだそれほどの力が残っていたのか。だが!」
『グゥオオオ……! マサカ……! コノ我ガ、タカガ人間ニ……! コレホドマデニ追イツメラレルトハ……! カ、カクナル上ハ……!』
斬撃を放ったあと、油断なく【獣魔王】とパラッドの攻防を注視していたブレンがまばゆく輝く【光】の聖剣をふたたびかまえた。そして、そのまま十字に振り抜く。
「【聖光十字斬】! これで終わりだ! 【獣魔王】〝蹂躙〟のザラオティガ!」
『カクナル上ハァッ! 我ガ命ト引キカエニシテデモッ! 貴様タチヲォォォォォッ!! グガウウォォォ……ァァァガアアアアッ!』
聖なる十字を刻む斬撃がその体に届く寸前、【獣魔王】ザラオティガの体に突如異変が起きた。
断末魔を思わせる絶叫とともに全身をひび割れさせ――その体に内在していた膨大な【闇】の魔力を【獣魔王】が一気に形あるものとして解き放つ。
「ぐあっ!?」 「がああっ!?」 「いやああああっ!?」
それはまるで無数の【闇】の触手。
予想もしていなかったその【獣魔王】の奥の手の前に、ブレンたちが大きく吹き飛ばされる。
『人間ン……! 勇者ァァァァァッ……! 我ハ、我ハモウ終ワリダ……! コノ肉体ヲ構成スル【闇】ノ魔力マデモコウシテ解キ放ッタイマ……! 我ガ
体ハ崩レ、我ガ命ハマモナク潰エルダロウ……! ダガ、タダデハ終ワラセヌ……! 我ガ魔力ト命ヲ……! スベテヲ燃焼シ、爆発サセ! 貴様タチモロトモ、アタリ一帯吹キ飛バシテヤロウ!』
ひび割れた全身から【闇】の触手を生やし、【獣魔王】は大きく吼えた。
『ソレヲ阻ミタクバッ! イマスグニ我ガ命ヲ終ワラセルガイイッ! サァ……! 最後ノ勝負ダァァァァァァッ!』
「くっ……! みんな、いくぞ……! おおおおおっ!」
『サセヌゥゥゥゥゥゥゥゥッ! ガァァァァァァァァッ!』
一度は倒れ伏した勇者ブレンたちが立ち上がり、一丸となって【獣魔王】に向かっていく。だが、執拗に【闇】の触手に阻まれて、一向に前へとは進めない。
「がああああっ! くそっ! 届かねえっ!? こ、こんなところで終われるかぁっ! あんなクソったれな【闇】の獣野郎なんかにぃっ!」
「こんな……! こんなことがあっていいはずは……! わたくしたちは、すべての人々の上に立つべき、至上の【光】なのですよ……!?」
「ふたりとも! 弱音を吐いているヒマがあったら、手を動かせ! 前に進め! あと少しなんだ……! あと少しで、俺たちは【英雄】に……!」
あせりと、絶望の混じるブレンたちの声。それを僕はひとり、遠く離れた場所で聞いていた。
……そう。【獣魔王】ザラオティガのすぐ目の前でひざをついた姿勢のまま、いまもじっと息を殺しながら。
奥義を放った直後から発動させ続けていた、暗殺者として鍛えた僕の【隠形】。
加えて、混乱の中立て続けに起きたブレンたちとの激しい攻防。それによって、いまや僕の存在は【獣魔王】からも――そしておそらくは、ブレンたちの意識からも完全に忘れさられていた。
……それは、彼らにとっての僕の存在の軽さをしめすものでもある。そう自覚する僕の顔に、思わず自嘲めいた笑みが浮かんだ。
けど、これですべてが変わるはずだ。いま【獣魔王】に届くのは――とどめをさせるのは、じっとその前で次の攻撃の機会をうかがっていた僕だけなのだから。
もう奥義を放ったあとの反動の一時的な硬直はとっくに解けた。手に握った愛用の黒刀には、【獣魔王】に気づかれないように慎重に溜めた魔力が十分にのっている。
……さあ。あとはこの刃を届かせるだけだ。【獣魔王】を倒して、僕の存在を、価値を、みんなにしめすんだ。そして、みんなと真の仲間に――
「【星光烈矢】!」
「え?」
――そのとき、一条の【光】がひざをつく僕の真上を通りすぎ、まっすぐに【獣魔王】の胸に突き刺さった。
『ガアァァッ!? オ、オノレ……!? 他ニマダ仲間ガイタノカ……!? グッ……! 見事……ダ……! 【光】の勇者……! ソシテ、ソノ仲間タチヨ……! グガァァァァァァォォォォォッ!?』
そして、文字どおりすべての魔力を解き放ち、もはやその巨体の構成すら維持できず命の灯の消えかけていた【獣魔王】〝蹂躙〟のザラオティガは、その【光】によってあっさりと砕け散り、塵へとーー魔力へと還った。
「か、勝った……? お、俺たち、や、やったのか!? おい!?」
「ああ……! もう、もう駄目かと……! 神よ、感謝を……!」
そして、戦いの終わった戦場。
満身創痍になりながらも、僕を除くみんなに安堵の空気が漂う中、現れたその少女が颯爽と、呆然と立ちつくすブレンに向かって歩きだす。
「君は……? も、もしかして今の【光】、君が……!?」
「はい! まにあって、本当によかったです! 【獣魔王】討伐に向かったという【光】の勇者パーティーの噂を街で聞いて私も力になりたくて、いてもたってもいられずに追ってきちゃいました! あ、ごめんなさい!? 私興奮して、まだ名前もいってませんでしたね!?」
「いや、あぶないところを助けてもらったんだ。むしろ先にこちらから名乗るのが礼儀だろう。あらためて、俺は【光】の勇者ブレン。俺たちが【獣魔王】を倒せたのは、まちがいなく君のおかげだ。ありがとう。君さえよければ、これからもどうか俺たちの力になってほしい」
「へっ! ブレンに賛成だぜ! 俺は聖騎士パラッド! ホンットおかげで助かったぜ! これからもよろしくな!」
「聖女マリーア。ここで貴女と出逢えたのは神のお導きですわ。どうぞよろしくお願いいたします」
「みなさん……! わ、私は星弓士ステアです! これからよろしくお願いします!」
……その光景は、どこかとてもしっくりと来ていた。
【光】の勇者パーティーの絶体絶命の窮地を救って現れた【光】の星弓士ステア。ブレンたちの輪の中で談笑する彼女は、心から彼らに受け入れられているように見えた。
そして一方、振り上げる先を永遠に失ったまま、ひざをつき、刃を握りしめてただ虚空を見上げるしかない僕は、だれの目にも映っていなかった。
……まるで最初から、そこに存在しなかったかのように。
※というわけで、【獣魔王】との決戦でした。このまま1話の内容につながります。また103話と104話の内容の補足になっています。
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