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第4話「軍事衛星No.335」

「……助け、て」


 オーガロードに握りつぶされ、今まさに捕食されようとしていたカールの願い。

 純粋で、混じりけのない救難要請。



 その祈りが、

 地表から数千キロメートル上空に漂う、とある(・・・)()」に届いた。



 ピーーーー…………。



 惑星上空2000kmの遥か高空。

 ───……衛星、低軌道上。


 そこに、

 そいつ(・・・)はいた。


 いや、あった(・・・)というべきか。


 『悪鬼の牙城』の地表から───上空約2,000km……衛星、低軌道上に、「彼」はあった。


 「彼」のいる場所。

 ……そこは、スリープ中のコンピューターの立てる小さなピープ音(・・・・)だけが響く場所。


 いつもいつも、無音であり、極低温であり、そして、無人の空間───……。



 ───だが、その静かな空間に……。



 ピッ……。

  ピッ……。


 …………ピっ?


『信号入力待ち:スリープモード継続中』

 :4032080:11:57

          11:58

          11:59



  「…………助けて」



 ───無しかないその空間に、『祈り』が届く……。



 ピッ……。

  ピッ……。


  …………ピピッ??


『信号入力待ち:スリープモード継続中』

 :4032080:12:02

          12:03

          12:04



  「───助け、て」



 ......


   ........


 ピ……?

 ……ピコン♪



『───ブゥン……??』



 偶然にもカールの祈りを【受信】したのは、宇宙空間に漂っていた一つの『星』。


 ───宇宙の閉鎖空間に眠り続けるコンピューター群のひとつで、

 ……その名を人工衛星といった。

 もし、彼を客観的に見ることができれば、スペースデブリによって削られ、擦れた文字をこう読み解くことができるだろう。


 《US■空軍:エーベルン工■製、衛■軌道砲───軍事■星No.335》


 「彼」はたった一人で、人々の記憶から忘れ去られる程の長期間、惑星を周回し、落下を防ぐために無人のまま軌道修正を繰り返していたのだが……。



 ───そんな彼のもとに、



  「助けて」



 ──と、数百年ぶり(・・・・・)に一つの信号が届いたのだ。


 ピ、ピピ??


『信号入力待ち:スリープモード継続中.....』

 :4032080:12:33

          12:34

          12:%%%....チキチキ!


 一瞬「彼」は聞き間違えかと思ったが、それでもコンピューターらしく演算を開始。


 ピ……。

   ピ……。


『信号入力待……ち...........』


 ピコンッ……♪


 まず、「彼」は発信源をたどるべく僅かな電力と機能を駆使し、地上のスキャンを開始した。

 巨大な光学レンズが地表を舐めるようにスキャンしていく。


 キュィィィィ……。


 ≪サブシステム、起動。スキャン開始───≫


 「彼」が本領を発揮している時に比べれば、数万倍も遅い演算速度ではあったが、発信源をたどり、信号を解析していく。


 チキ……!

 ──チキチキチキチキチキ……!


 それは本当に信号だったのか?

 それとも、ただのバグか───……。


 眠り続ける機能を、本来の状態に復帰させるに足る信号なのかどうか??

 それを確かめはじめた。



 ≪サブシステム。....スキャン完了───≫



『....メインシステム:信号入力待ち』



 ≪サブシステムによる信号解析開始───……≫



 ピピピッ……………

 『───ザ、助け、て……ザザ』



 ≪シグナル───解析。

  …………救難信号(レスキューシグナル)受信≫



 ≪.....メインシステム───再起動要請(リブート)



 ……ブゥン!!



   ≪メインシステム───……スタンバイ≫



『....要請受諾:....スリープモード解除

 ビジー状態に以降─────────メインシステム、起動』……カチ。


 ブゥン!


 そして、「彼」は目覚めた。

 

 ──────ブォォォオオオオオオオン!!


 まるで、地の底から帝王が蘇るかごとく、

 深い、深い振動を伴って「彼」は起きあがる。


 その瞬間、宇宙に漂う無音の空間に沸き起こる音の洪水!


 ──バチチチ……ッ!


『メインシステム起動中:0:00:01』

              00:02

              00:03

 バチンッ!!


 電力がショートする音。

 ……無理もない、なにせ数百年ぶりの再起動だ。


 その騒がしい音といったら!


 だが、大量のコンピューター群が起動する目覚めの音が……閉鎖空間に高らかに響き渡ったのだ!!


 ピュイン───♪ 


『アストラNET.....』


 チカ、チカ、チカ……。


『......───ザ───ONLINE』


 パ……。


 機械音声と共に、モニターが一つ点灯する。

 その瞬間───。


『アストラNET』

 『アストラNET』

  『アストラNET』

   『アストラNET』

    『アストラNET』

     『アストラNET』


 パパパパパッ! パッ──────♪一挙に内部のモニターがすべて点灯!

 閉鎖空間の無人の室内のモニターが発する淡い光によって、その空間は緑の光に覆われるッ!

 

 最後に、ポォン♪ と、


 ……───『アストラNET』


 の、巨大なロゴがメインスクリーンが点灯される。


 そこには、「アストラNET」のグリーン画面が嫌というほど巨大に表示され、星の周り文字が取り囲んでいる企業のロゴが中央に表示された。


 『アストラNET』

 ......サービス開始


『──────前回の起動からおよそ、「4032080:12:38」経過』


 すると、どこからともなく女性のような機械音声が流れはじめた。


『自己診断を推奨──────

 ビコンッ!

 自己診断を一時中断.....』


 モニター上に一斉に現れた診断バーが0%から徐々に数字を刻み始めていたが、

 すぐに、それが中断される、


 代わりに表示されたのは真っ赤な画面。


『......救助要請確認:エマージェンシー優先』


 ウィィィイイイイン──────!!

  ウィィィイイイイン──────!!

   ウィィィイイイイン──────!!


 緑色のモニターが次々に赤く塗りつぶされていく。


  『EMERGENCY』

   『EMERGENCY』

    『EMERGENCY』


 一つ、

 二つ、

 三つ──────……。


 『EMERGENCY』

  『EMERGENCY』

   『EMERGENCY』


 ───そして、全画面が『EMERGENCY』一色になると、


『......救助要請受諾』



 この瞬間、「彼」は完全に目覚めた。

 ……長き、長き眠りから完璧に目を覚ました。


 そして、目覚めと共に、ライトの点灯と前後して動き出す無数の演算機械たち!


 チキチキチキチキチキチキッッ!!


 すさまじく騒々しい音が宇宙空間に響きわたり、

 唸り声をあげるスーパーコンピューターが演算を開始する!


 カチャカチャカチャ!!

 カチャカチャカ──────!!


 その音は、宇宙に響く。

 空気もないのに響くッ!




 そして、




 …………カチ




『……シグナル受信。要救助者発見..........』


 数百年ぶりに、信号を受信した「彼」は動き出す。

 ───誰かが「エンターキー(・・・・・・)」を押すのをずっと待ち続けていた「彼」は、ついに動き出す。



 そして、

 今日この時、エンターキーは押されたのだ。



   「助け、て……」



『……シグナル、了解(コピー)


 だから、彼は動き出す。

 ……数百年ぶりに、ついに(・・・)動き出す。


 何の感動もなく。

 何の躍動もなく。

 何の感情もない───。


 求められたがゆえ、動き出す。

 ただ、プログラムに従い、…………動き出す。



 ……約二千キロ離れた地表からの求めに応じて、



     たった一つの、

     『助けて』の



 その信号に答えたのだ!!


『......軌道修正完了:発電モードスタンバイ』


 最適な角度に巨体を横たえると、ミラーを太陽光へと向けた太陽からの光エネルギーを一身にうけると、電力へと変換開始。


『救助行動開始。

 電力確保───充填率8.5%.....目標捕捉───……。

 .......荷電粒子砲(・・・・・)、発射シーケンス起動』


 ゴゥゥゥゥン……。

 機械音声とともに体からせり出してきたのは長大な砲身だった。


 ……なぜなら彼は人工衛星。

 そして、衛星にして兵器───……衛星軌道砲。


 その牙は、長く強く無慈悲だが、

 それでも、戦うことしか知らない「彼」は、戦うことで人を救う。


 数百年間、一度も火を噴くことのなかった長大な砲身が彼の中から引き出され、

 ──ピタリと地表に狙いを定める……。


 そして、




『照準、目標ロックオン───....』





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