表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/88

78.フォロント領地

ヤバい!

原神のナヒーダで遊んでたら時間が有り得んぐらい過ぎてたw

 ──帝国・帝都・城内・軍務庶務棟──


 私は今、ちょっとした調べ物をしている。


「これとこれと……あとこれも……よく一日でこれだけの量を捌けたわね……」


 ユヅル君に全部私がやると言ってしまって手前、私がユヅル君の仕事を引き継がないといけない。

 そこで気になるのが、あの子が倒れる直前に『帝国が負ける』と確信を持って豪語していた点。

 一体何をもってそう考えるに至ったのか。それが分からないままに仕事を引き継いで、もし重大なミスでもしたら目も当てられない。

 ──ということで、手始めにあの子が閲覧していた資料に目を通して手がかりを探そうと思ったのだけど……これがまた多いのなんの。

 私の処理能力じゃどれだけ早く見積もっても確認だけで二日はかかる。


「けどまぁ、私には暇な時間は多いし、ゆっくり考察すればいいか……」



 ──数時間後。


 確認作業が漸く五分の一程終わったところで、私は気になるモノを発見した。


「あの子が謹慎中だった期間の戦略概要?十二冊も……裏で一体何を──は?」


 それは概要というよりも報告書に近かったが、問題はその内容だ。


「……これは、ヤバいわね」


 そこには王国以外の、隣接している周辺諸国にちょっかいをかけている旨の記載があった。そしてその全てにフールィンシュタインのものと思われる皇家の印が捺されている。

 大国であるアスト王国との一対一だと思っていたけど、予想以上に余計なことをしてくれてるわね。これに全体の半分近くの戦力を割いてるとかバカなの?

 そりゃこの国は色んなところから恨みを買ってるから、アスト王国と戦争を始めたら確実に何処か介入してくると思うし、恐らく一対一じゃ終わらないとは思ってたけど、これはバカ過ぎる……!

 王国は全力を出さずに下せるほど脆い国ではないのよ?このままだと間違いなく、帝国は喰われるわね……。

 

「もう分かったと思うが、このまま何もしなければ帝国は沈む」

「!?……いたのね、気づかなかったわ」


 私が資料を眺めて唸っていると、いつの間にか部屋の中にいたユヅル君に声をかけられた。

 まさか声をかけられるまで気づけなかったなんて、無警戒であったことは否定できないけど、それにしたって感覚鈍りすぎね……。

 感覚はおいおい戻していくとして、今はユヅル君が持ってる資料ね。


「その資料は?仕事は引き継ぐって言ったはずだけど」

「先程僕個人宛に届いた資料だ。まぁ内容は大体察しがつくが……見たら帝国の為に動く気が失せそうだからな。ここに置いておくことにする」

「……?よく分からないけれど、後で目を通しても?」

「勿論だ。それと……」


 ユヅル君は資料の山をゴソゴソと漁り、何十通もの封筒を取り出した。


「これらは各貴族……領主と言った方がいいか。とにかく、そいつらに週に一度連絡を寄こすよう命じて書かせた報告書だ」

「これをどうしろと?」

「一つ一つ見てみろなんて言うつもりは無い。数を見比べて欲しいだけだ」

「数?」

「こっちが先週の分で、こっちが丁度昨日届いた今週の分だ」

「……一つ足りないわね」


 確かに、先週の分に比べて今週の分の報告書は一つ少なかった。


「ただ忘れてただけとかはないの?」

「それはないと思う。すっぽかされたら堪らないから、連絡を怠った者には厳罰が下るようにしたからな」

「なるほど。で、結局何が言いたいの?」

「怠ったら厳罰。なのに怠ってしまうとしたら、原因は何が考えられる?」


 原因として考えられるのは、通達の際のミス。あとは単純に忘れていた。

 まぁこれらの理由は、厳罰をつけられている都合上なかなかないだろう。通達手段だって万全なものを使うだろうし、コチラ側でも認知できるレベルの問題が起こらない限りは大丈夫そう。

 だとしたら、正直これが一番確率が高いと思うのだけど、向こう側で何かがあったという場合。


「つまり、この報告書を出してないヤツのところで、何か問題が起こったと言いたいの?」

「あくまで可能性だがな。それでも警戒する方向を限定できる」

「それで、その問題が起こっていると思われる場所は?」

「帝国の北西端に位置する辺境。フォロント伯爵の領地だ」

「そこには何があるの?」

「何も無い。……強いて言うなら、森がある」


 私はユヅル君の付け足したようなその言い方に違和感を抱いた。


「森?」

「……毒物ばかりで人が寄り付かない森と……比較的温厚な生物が生息している安全な森がある」

「それが?」

「毒物ばかりの森には恐らく竜の縄張りが──」

「そっちはどうでもいいわよ」

「……」


 黙ってたら何も分からないわ。


「何を渋ってるのか知らないけれど、早く言わないと無駄に時間を浪費するだけよ」


 私が少し圧をかけながら言葉をかけると、ユヅル君は迷いを吐き出す様に深く息を吐き、話し始めた。


「今から約五年ほど前だったか。さっき言った安全な森を無理やり帝国の領土にしたんだ。そしてそこには、多くの村が存在した。帝国への出入りでその森を使う旅人を宿泊させる、中継地点の様な役割でその村々は生計を立て、発展していたらしい。稀に旅人から稼いだお金で近くの街に買い出しにでるだけで、殆どが村の中で完結していた彼らの生活は、帝国の領土になった事で一変した」


 帝国の領土に入るだけで生活が変わる?領土に入るだけじゃ殆ど変わらないと思うのだけど……。

 まぁ、続きを聞けば分かる事ね。


「当時のフォロント伯爵からすれば、突然自分の領地が大きくなって新たな稼ぎ口が出来たように見えたのだろう。伯爵は彼らに民税を貸すだけに飽き足らず、その村々が宿泊地として商売している事を知り、そこらを通る旅人からも交通税を設けて税金を取り始めた」


 その村々が宿泊地として商売している事を知り?フォロント伯爵は、今までその森を使って帝国を出入りする旅人のことを知らなかった?

 それを知ったから交通税を設ければ自分だけの収益が入ると考えたのかしら。でも、そんなことをしたらそこを使う旅人の足は遠のくだけだろうし、森の村々の人だって収益がなくなって寧ろフォロント伯爵に払う税金が減るだけでは?


「まぁそんなことをすれば当然旅人はいなくなり、村の収益も無くなった。そして村の払える税は大幅に減り、その結果に納得いかなかったフォロント伯爵はさらに税を重くした。そして、とうとう生活の立ち行かなくなった村の住人は……」

「身売りを始めた?」


 私の問いに、ユヅル君はゆっくりと頷いた。


「話しは分かったわ。とても悲惨なものね。そして同時にとても杜撰だわ」

「……」

「でもまだ分からないことがあるわ。ユヅル君、なんでこの事を言い渋る必要があるのかしら?」

「それは……」


 言い淀むユヅル君。まぁ何となくだが、理由に予想を立てることは出来る。

 多分だけれど、と前置きをして私は自分の推理を語ってみる。


「辺境を任せられるってことは、それ相応の信頼があったって事じゃないかしら。辺境って、言い換えれば国境を任せている訳だし。んで、信頼を得てる訳だから、伯爵以下の立場の者じゃ下手に手を出せなかった。そして伯爵より上の立場の者も特に気にすることも無く、皇帝も信頼して任せた手前、下手に領地を取り下げられなかった」

「……まぁ大体合ってるな。いつからかは知らんが、『皇帝の言うことに間違いは無い』と言わんばかりに無茶な蛮行を通してきた帝国の皇帝は、自分が間違ってましたと素直に認めることが出来ず、ズルズルと引き摺ったまま他界した。更にこの国の貴族共は上に上がることしか考えられず、下々の民を歯牙にもかけていない。まして、辺境の森の住民など知ったことではなかった。結果、彼らは死を待つ哀れな奴隷に成り下がった。これが事の顛末だ。酷いもんだろ?」

「それで、どんな風にユヅル君はこの件に関わったの?」


 勿論ユヅル君もこの件に関わっているはず。じゃなきゃ言い渋る必要は無い……はず!


「……情報の隠蔽」

「あぁ〜……」


 そりゃ言い渋るわけね。

 それにしても、大の大人が、子供になんてことさせてんのよ。この国の大人はみんな自分のケツも自分で拭けないのかしら。

 ……今更終わった事に対して憤慨しても仕方ないわね。今後はこういった事は無いようにしないと。

 でも、このことを私が知らなかった理由も、納得がいった。ユヅル君は私のような部外者に、情報を悟らせるようなヘマは普段なら絶対にしないもの。


「はあ〜、いっそ叛乱でも起きて、この国の頭の挿げ替えとか起こらないかしら」

「おい、縁起でもないことを言うな。僕もそっちの方が楽で助かるけど。取り敢えず、僕はもう寝る」

「おやすみ〜」


 私はユヅル君が部屋から出ていくのを見送った後、ユヅル君宛の資料を手に取った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ