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74.頭が痛い……

今回は頭が痛い人の話です。

 ──帝国・帝都・城内・軍事庶務棟──


「ンガ〜〜〜!」


 奇妙な叫び声がとある部屋の中に響き渡る。


「クソっ!僕が一体何をしたっていうんだ!!」


 その声の主は、総指揮官と呼ばれるユヅルという少年であった。


「いえ、何もしてないからこうなったのではと……」

「えぇい黙れ!僕は何もしてないのではなく何もできなかったのだ!」


 頭を抱えるユヅルに、同室にいたもう一人の男が小言を言うと、ユヅルは素早く切り返す。

 だがすぐにそんな事をしている場合ではないと頭を抱えなおした。


「あれもこれも、全部あの出来損ないのせいだ!アイツさえ帝にならなければ……」

「ユヅル様、今の発言は不敬罪あたりますよ」

「不敬罪にでも何にでもすればいい!どうせこの国は負ける!そうすれば指揮官である僕は死刑だ!」

「……」


 男は何も言い返せなかった。

 当然だ。いざとなれば逃げることができるこの男の立場では、立場上多くの命を背負い、逃げることが許されない彼の感じる重圧など、測る術はないのだから。

 事実ユヅルの考えは、勝つことではなく、帝国に住む多くの命を守る事にシフトしていた。


「王の首をすげ替えて降伏すれば国民の命は助けてくれるか?いや、帝国のしてきた事を考えれば報復として大勢の命が奪われる可能性も……では王国に属国として……無理だな。王国側の背負うリスクが大きすぎる。まず受け入れてはくれまい……」


 八桁にものぼる人名を一身に背負う重圧の中で、彼は少しのリスクも妥協できないでいた。

 ただ刻一刻と時間が過ぎ去っていく。


「情報が足りな過ぎる……。王国の今の国王はどんな人物だ?先代ならばこの国を預けるに値する人物だったが、生憎と世代交代したばかり……間が悪いな……!」


 焦りが、更に彼の思考力を鈍らせる。

 眩暈がする。血の気が引く。呼吸が荒くなる。冷や汗が噴き出す。

 だが、彼は考えるのを辞めない。最後の最後まで、より多くの命を救うために。


「ユヅル様……一度お休みになられては?顔色が優れないようですが。それにかれこれ一日中、一度の休息も入れずに働き詰めじゃないですか」

「バカ者が、休めるわけがないだろう」

「ですが、ユヅル様は謹慎明けの久方ぶりの勤務ですし……ご無理はよくないですよ」

「だからこそだろうが!」


 ユヅルは感情の昂りを表すように勢いよく立ち上がり男を睨みつける。


「僕は一刻も早くこの遅れを取り戻さないといけないんだ!今この国は巨大な秤にかけられている!それもオンボロのな!国民と、国家と、上手く均衡を取らねば容易く壊れてしまう!──ぁ」

「ユヅル様──ッ!」


 憤りのままに叫ぶ彼の膝から、不意に力が抜けた。

 ガクッと座り込んでしまった彼は、近くの机に手をかけて立ち上がろうとしたが、彼の手にはもうそんな力は入らなかった。


「僕は、こんなところで、休んでいる場合では……グッ……早く、一刻も早く打開策を見つけなくては……みんなが……ぼくは……まだ……」


 意識が朦朧としていた。男が何事かを叫んでいたが、その声も頭に入ってこない。

 そして遂に、執念だけで保っていた彼の意識も、深く沈んでいった。


 ──王国・王都近郊の森・一軒家──


 私は最近気になっている事がある。

 それは家の裏に突如として現れた不思議な剣。

 お父さんもお母さんも触っちゃダメだって言うけど、やっぱり気になっちゃう。

 今日はお父さんは用事があるってどっか行っちゃったし、お母さんも暫く前から帰ってこない。その剣を調べる絶好の機会だと思うの。

 思い立ったら即行動!お父さんもそう言ってたし、行くしかないよね!


 てことで家の裏手に回って、現れたるは地面に深く突き刺さった不思議な剣……てあれ?なんか前と雰囲気違う?

 なんだろう。なんか、凄く嫌な感じがする。で、でも、ちょっと触ってみるくらいなら大丈夫だよね?

 そう言い聞かせ、私は剣の前まで歩いて剣の柄を軽く握った。その時だった。

 風が吹いた。

 いや違う。とてつもない魔力の奔流だ。


『さぁ、俺を抜け!』


 頭の中に誰かの声が響く。その声に惹かれるように私は剣を引き抜いた。

 剣を抜いたことで、先程よりも一層激しさを増した魔力の奔流が竜巻の様に吹き荒れる。

 目も開けていられない程の強風に、思わず剣を握る手に力が入る。

 

『フハハハハハハハハッ!!この俺を抜いたか!いいだろう!ならば俺の全てを教えてやる!』


 声が頭の中で響いた直後、途方もない知識が頭の中に濁流の如く流れ込んできた。

 割れるように頭が痛い!

 先程まで轟々と唸っていた風の音も、ガンガンという音に掻き消される。

 私の喉は痛みに呻いていることを告げているのに、その声すらも不思議と聞こえない。

 ガンガンと音がなるほどに頭の痛みは増していき、遂には視覚から与えられる情報すらも認識できなくなる。


 ──ふと、光が見えた。


 突如として私の剣を握っている腕、いや、私の握る剣が浮き上がった。

 そして、金属同士が激しくぶつかった様な、甲高い金属音が響く。

 なぜだか私は、その音を剣戟の音だと理解出来た。

 気づけば痛みは引いていた。辺りを吹き荒らしていた魔力の奔流も、既に感じない。

 涙にぐしゃぐしゃに濡れた顔を空いた手でゴシゴシと拭い、前を見る。


「綺麗……」


 思わずそう呟いた。そこには、美しい白い長髪を陽に輝かせ、綺麗な真っ赤な瞳で私を見つめる、美人な女の人だった。


「剣を回収しに来たのだが……既にこの子の物か。仕方ない、こちらの落ち度だし……」


 何かブツブツ呟いてる……。でも、その姿も様になってて羨ましい。

 あ、またこっち見た。


「お邪魔したね。またどこかで(まみ)えることがあったら、その時に改めてよろしく」


 ……え、行っちゃうの?これでサヨナラ?


「待って!!」

「……何か?」


 私は歩き始めていた彼女の足を止めた。もっとこの人のことを知りたい。そう思うけど、それだけじゃない。

 多分これは、この変な剣に押し付けられた知識から来る考えだけど──。


「わ、わわわ……」

「わわ?」

「……私に、私に剣を教えてくださいッ!!!」


 私はまだ知らなかった。この人との出会いが、私の人生を大きく変えることになるということを──。

ヴァニタスの手記見直してたら三連休溶けた……。

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