60.逃げの一手。これで十分……!!(つーかこれが限界)
前回、文が余りにも滅茶苦茶だったので少しだけ修正。
「防がれただとぉ!!?」
バカがまた騒いでる。いや、これに関しては僕も驚きだ。彼の立場なら僕も同じ反応をしていたかもしれない。
なんたって、あんなイカれた火力を持つイリーナの矢が防がれたのだから。
流石は建国以来無敗を誇る最堅の国、アスト王国。無敗の歴史は伊達ではないというわけか。
「それよりイリーナ貴様!なぜ早く次の矢を射ぬのだ!何をしている!!」
「お言葉だけれど、陛下。いえ、フールィンシュタイン。私は気乗りしないと、そう言ったハズよ?」
「だ、だからなんだと言うのだ!この国の一大事なのだぞ!?命令などせずとも敵を仕留めるのが道理ではないのか!」
イリーナが心底呆れた顔をする。恐らく僕もああいう顔をしているだろう。
そもそも、イリーナにはそこまでする義理は無い。建国当初ならいざ知らず、知り合いは全て土に還り、政治体制が腐敗し始めている今のこの国には、彼女の守護りたいモノなど無いだろうから。
それでも初代皇帝との契約とやらを守り続けているだけ感謝するべきだ。
「一大事?バカバカしい。自分の国のことくらい自分でどうにかしなさいよ。今は貴方がこの国のリーダーなのよ?自覚ある?それに、その一大事とやらを作ったのも貴方なのだし、貴方が解決するべきではないかしら?」
「き、貴様……!貴様!神器の座が惜しくないのか!?朕の命を聞けぬと言うなら貴様の神器の座を剥奪してやる!」
「好きにすれば?別にこんな地位あっても意味無いし」
いや、意味無いなんてことはないだろう。給料もいいし、衣食住も補償されている。それに上級貴族と同等以上の政治的発言力が……どれもイリーナには不要だな。
「ぐぬぬぬぬ……」
「あら、どうしたの?神器の地位を剥奪するんじゃなかったのかしら?」
「グギギギギ……!」
イリーナはそう煽りながら、何もかも上手くいかずに苛立っている陛下に歩み寄る。
そして目の前まで行くと、勢いよく壁ドン……玉座ドン?いや、椅子ドンをした。巷ではああいう告白の仕方が流行っていると聞く。
まさか──!
いやないな。
「ねぇ、まだ分からない?私、貴方の言うこと聞きたくないの。嫌いなのよ、貴方のこと」
イリーナは陛下の耳元に囁くように言葉を連ねる。
「それに私、貴方がリルハルトを殺したこと、全く許してないから」
「ッ!?な、何故それを……」
説明しよう。この国には帝位継承権を持つ者、皇子と呼ばれる者が六人いた。どんな者がいたのかざっくりと。
帝位継承権第一位から順に、第一位、第一皇子リルハルト。頭が非常によく、誰にでも優しく接することのできる、所謂〝いい人〟と言うやつだった。前代の帝が流行病で亡くなられた後すぐに亡くなってしまったが。
第二位、第一皇女ネラミナ。側室の子。正義感、責任感が非常に強く、国民からの信頼が最も厚い人物でもあった。しかし彼女は前代帝の死後、帝位の継承を辞退したとのこと。その後すぐに世界を回る旅に出ていってしまった。様々な見識が必要なんだとさ。因みにリルハルト殿下が亡くなられたのはその後。
第三位、第三皇女ミェラ。最年少(10)。彼女はお父さん子だっただけに、前代帝の患った流行病がうつり、現在は床に臥せっている状態だ。帝位継承なんてできる状態ではない。
第四位、第二皇女シーリャ。とある事件をキッカケに対人恐怖症になってしまい、それ以来ずっと自室に引き篭っているらしい。らしいと言うのは、僕は彼女に一度も会ったことが無いからだ。帝位継承は当然の如く辞退。それと姉妹と、何故かイリーナにだけは心を許しているらしい。
第五位、第二皇子クラヴィス。側室の子。かなりの遊び人。いつもどこかフラフラと遊び歩いている。ただ、今は行方不明。というか遊びに行ったまま帰ってこない。まぁ飽きたら帰ってくるだろう。賭け事にはめっぽう強い。
第六位、第三皇子フールィンシュタイン。愚か者。馬鹿。阿呆。間抜け。無能。クズ。ゴミ。……っと悪口はここら辺にして、評価を下すなら、頭が悪く短絡的で野心家。性格も悪く城の外に出させて貰えなかったほどだ。もともと少し太り気味ではあったが、帝になってからは一層太ったらしい。
……つまり、だ。今フールィンシュタインが帝の椅子に座っているのは数々の偶然が重なって起きた奇跡のようなもの。
「ねぇ、自分のお兄ちゃんを殺してまで座ったその場所で、貴方は一体何を見たの?何を見てきたの?」
「……」
そう、奇跡だと思っていた。確かに、クラヴィス殿下の行方不明やネラミナ殿下の旅などは偶然と言えるが、リルハルト殿下の死は帝になりたかったフールィンシュタイによる暗殺であったらしい。
……いや、あのリルハルト殿下がそのまま殺されたというのは、確かに奇跡かもしれないな。
「そうやってダンマリ決め込んで、貴方はまた逃げるのね」
「また……だと……?」
「そう、貴方は逃げてばっかり。子供の頃から何一つ変わっていない。貴方は自分に不利な状況になるとすぐに逃げる。だと言うのに貴方ときたら自分から不利な状況を作り出す。そしてその状況を打破できる知恵も力も勇気も、人脈も無い。だから貴方はまた逃げるの」
「ゃめろ……」
「そうやって、貴方はどんどん深みに嵌っていって、抜け出せなくなって、でも心のどこかでそれでもいいと思ってる。だって逃げるのは楽だものね」
「ぅるさぃ……」
「だから、また逃げたのでしょ?まだ逃げるのでしょう?ずっと目を塞いで、耳を塞いで、見ないふり聞こえないふり。何も考えずにただ否定から入るの」
「だまれ……」
「ずっと、ずぅっとそんな風に、逃げて、また逃げて、逃げて逃げて逃げて、逃げ続ける。そしてまた坩堝に嵌る」
「ちがぅ……」
「ね?今、逃げたでしょ?何が違うというの?今も逃げたさっきも逃げたその前も逃げたずっと逃げ続けた逃げた逃げた逃げた逃げた逃げてきた」
「ダマレ!」
「ほら、また逃げた」
「ヤメロ!!!」
「前も今もこれからも、ずっとそう。貴方は変われない変わらない変えられない。そうやって、逃げ場所が無くなるまで、無くなっても、ただ逃げる。逃げ続ける。フフ、それはいつかしら?ずっと先?来年?明日?それとも、もうすぐそこ?」
「──ッ!?」
……非道い精神口撃を見た。
イリーナは言うだけ言って自室に戻って行ってしまった。
今回に限っていえば……少し、少しだけ陛下が可哀想に思えた。ただ、失禁するのはやめてくれ……。
人には得手不得手がありますよね。問題はその得手を伸ばすか、不得手を克服するかの二択。中途半端でどっちもできないのが一番ナンセンス。だから速やかに決めないといけないのに、これがなかなか難しい。




