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51.こんな職場は嫌だ

あけましておめでとう諸君!

皆はいい事、何かあったかな?ちなみに私は悪いことしかなかったぞ!

てか真面目な話、年末年始ってなんであんな疲れるの?アホなの?

 二人で話を聞いていてもしっかりした受け応えができるか不安だったため、私たちは一度兵舎にこの子を入れて、兵舎内で一番広い食堂を使って、みんなでこの子の話を聞くことにした。


「それで、その……体の想い?を伝えるっていうのは、どういうことなのかしら?」

「それ、は──」


────


「──体の記憶……スライムって本当に不思議ね」


 彼女の話の内容をまとめるなら多分こう。


 彼女はもともと知能をもって生まれたスライムだった。


 巨大な魔力反応を察知し、好奇心でそこに向かうとそこには季節外れの霜と何かの残骸があり、その残骸を取り込んだら自然と今の姿になっていた。


 その体には強い記憶が残っていた。これが彼女が想いと言っていたもの。


 そしてそのあまりの想いの強さに、彼女はその想いを届けたくなったらしい。


 頭に入れておくのはこんなところかな。


「それで、その想いを伝えたい人って誰なの?」

「このからだ、の、りょうしん」

「両親?名前は分かる?」

「え、と……とれいじ、でぃ」

「トレイジディね。……゛うーん、どこかで聞いたような……」


 私が記憶を辿っていると、食堂の扉が勢いよく開いた。


「遅れてすみません副隊長!少々お腹の調子がわる……く…………」

「……どうかした?」


 勢いよく扉を開き、皆の注目を集めながら入場した男──トーマスは遅刻を謝罪し、そして私の隣にいる女の(スライム)に目を止め、瞠目した。

 私が声をかけたが、聞こえていないのか返事もしない。


「ちょっと、本当に大丈夫?腹痛が悪化した?」

「──まさか、シヴェリーちゃん……なのか?」

「「「「「?」」」」」


 私たちは漸く口を開いた彼の言葉に揃って疑問符をうかべる。

 だが、隣のスライムは違った。この子もトーマスと同様に目を見開いて彼を見つめていた。


「えっと……知り合い?」

「はい。私の生まれの村に住んでる友達の一人娘です」

「そのご友人の名前は?」

「ピアソンです。ピアソン・トレイジディ」

「分かった……」


 この子の体の知り合いがこの隊にいたとは。

 にしても、ピアソン・トレイジディ……思い出した。確か元ゴールド級の一流冒険者だったっけか。今はもう引退したと聞いていたけど、まさかトーマスの知り合いだったとは。


「確かトーマスの出身はノッコ村だったはずよね。王都の東門を抜けた先にある」

「はい。春夏秋冬沢山の野菜や果物が収穫されますが、中でも秋に採れる甘い品種の芋がとても美味しいのですよ」

「ロイヤルポテトね。見かけたら買ってる……てそうじゃなくて、トーマス」

「な、なんでしょう」

「落ち着いて聞いてね──」


 遅刻して聞きそびれたトーマスにもちゃんとこのスライムのことを説明した。


「──シヴェリーちゃんじゃ、ない?」

「えぇ、正真正銘この子はスライムよ」

「なら、本物のシヴェリーちゃんは何処に……」

「さっき言ったように、このスライムは残骸を食ってこの姿になった。つまり、そういうことでしょ」

「そう……ですか……」


 トーマスは完全に意気消沈してしまった。多分、トレイジディ夫婦に合わせる顔が無いとか思ってるのだろう。

 シヴェリーという娘を守れなかったことを責めているのだ。それは私も同じ。不審な者の侵入を許し、あまつさえ子どもを攫われた。これは偏に、軍及び騎士である我々の怠慢が招いた事態だからだ。それも騎士団本部のある王都の目と鼻の先にある村ならば尚更。


「落ち込んでるとこ悪いけど、あなたに一つ任務があるの。但し、受けるも受けないもあなたの自由よ」

「任務、ですか?」

「このスライムの想いを伝える為に、このスライムをトレイジディの家まで連れて行って欲しいの。受けてくれる?」

「やります!やらせてください!」

「じゃ、決まりね。移動は鉄馬車を使っていいから」

「え、いいのですか?」

団長(あのバカ)が好き勝手使ったんだし、今更私がどう使おうと問題ないでしょ。どうせ予備機だし」


 ま、こんなテキトーな理屈を言ったところでこの国に三台しかない貴重な物だという事実は変わらないんだけどね。


──────


 私アリアリーゼ。今帝都のお城の中にいるの。


「それで?」

「だから、ヤバいのがいたんだって!」

「は?だから何?任務は?」

「任務は……」

「……え?何?嘘でしょ?まさかお使い一つこなせなかったワケ?」

「面目ない……」


 アクトさんが深々と頭を下げた。

 重い。怖い。申し訳ない。

 帝杖のカリアミレスタさん。彼女の転移魔術のおかげですぐに戻ってくることができたけど、できれば会いたくなかった。カリアミレスタさんは性格が、その、よろしくないので。

 今は片腕を失ってるアクトさんを見たカリアミレスタさんに事情を聞かれ、そのままの流れで何故かアクトさんだけ片膝立ちでお説教タイムに突入している。


「ありえない。神器として恥ずかしくないの?」


 やめて、そのセリフは私に効く。


「だ、だが、撤退していなければ今頃は……」

「撤退?撤退ねえ。いかにも作戦のように言ってくれるじゃない。要は片腕を切り落とされておめおめ逃げ帰ってきただけでしょ?」

「ぅぐッ……」

「こんな事を先代の帝剣が知ったらさぞ哀しむでしょうね。今代の神器はダメだって」

「グハァッ!」


 ああ、そんな!アクトさんがとうとう言葉に詰まった!

 もうダメ。私たちはもう、この気まづい空気の中で延々と彼女の愚痴を聞くハメに……!


「こんな夜更けに何を騒いでいるの?」

「あらイーリ。ご機嫌よう」

「ご機嫌ようカリア」


 げっ!イリーナさんも来てしまった。いや、好都合かも。

 帝弓のイリーナさん。誇り高きハイエルフ。帝国建国当初から神器として活躍し続けているすごい人。

 イリーナさんは怖いし未だに苦手だけど、カリアミレスタさんよりかはマシ。だと思う。


「なんでアラタとアクトは揃って片腕を負傷しているの?アリアちゃん、説明お願い」

「は、はい」


 私は若干ビビりながらも事情を説明した。


「ふーん。馬鹿なの?」

「「「「……?」」」」

「あなた達二人の片腕を奪っておいて、余力が残っていたとは思えないのだけれど」

「けど、ものすごい速さで追ってきてた……」

「アリアちゃんは対人戦等に慣れてないから仕方ないわ。それよりも、撤退の指示を出したのはアクト、貴方よね?その男の魔力の流れは?呼吸は?筋肉の動きはどうだったの?」

「それは……」

「見てなかったの?そんなのも見ずに撤退を決めたの?なんで見ようとしなかったの?貴方は今まで何を学んできたの?」

「……」


 ああ、イリーナさんが怒ってる!前言撤回!カリアミレスタさんより怖い!


「レニー、なんで槌を持っていったの?」

「アクトの指示だ。今回の作戦のリーダーはアクトだったからな。万一見つかった時の予備プランだと言っていたが」


 帝槌としてのレーニアンタさんの異名は『悉壊悪鬼(デストロイ)』。帝国における破壊の象徴。それが示すところはつまり……

 

「あら、たった一人にも勝てなかったくせに随分と攻撃的な予備プランね」

「……」


 イリーナさんはしゃがんで顔を突き合わせるようにアクトさんの顔を覗き込む。


「ねぇ、聞いてるの?貴方に言っているのよアクト。さっきからだんまりだけれど」

「……」


 アクトさんは目を見開いて、青ざめた顔で冷や汗を流している。可哀想に。


「貴方がアリアちゃんを使ったのは彼女の気配操作が今回の任務にお誂えだと考えたから?アリアちゃんが今殆どの魔導具をメンテナンス中だって知ってたわよね?私言ったはずだもの。なんでたった一人に負けるような貴方が、十全に戦えない状態の子を連れて行こうと思えるのかしら」

「……」


 イリーナさんがアクトさんの耳をグイッとつまみ上げ、そして──


「何とか言えよ」


 そう、囁いた。

 怖すぎる!見てるだけで涙が出てきそう。


「……面目ない」

「……はァ」


 イリーナさんは口を開くなり謝罪の言葉を口にするアクトさんにつまらなそうな視線を向け、その後に呆れた様にため息を吐いた。


「カリア、治してあげなさい」

「え、いいの?」

「えぇ、勿論よ。明日もっと痛めつけるから。だから覚悟しててね、二人とも」

「「……ッ!」」


 ついにはアラタさんにまで飛び火した……!


「私はもう寝るから、みんなも早く戻りなさい。あ、アリアちゃんは私の部屋に来てね」

「……え?」


 私はレーニアンタさんに助けてと目で訴えるが、レーニアンタさんは無言で視線を逸らした。

イリーナさんは現代社会だと絶対訴えられますね僕には分かる。

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