5.オオカミさん
どうしたものか。俺は血を吸ったりなどしたことがない。
吸血鬼になった今、血を吸うことで相手がどのような不利益を被るかも不明瞭だ。できればもう少し色々試してからにしたいが……カゲツさんの目がガチだ。
そんな期待に満ちた目で俺を見ないでくれ。正直少し怖い。
「いけませんカゲツ様。見たところ、小娘も困惑している様子。話から推察するに、きゅうけつきとは血を吸う種族なのでしょうが、血を吸われた相手がどうなるかもまだ分からないのです。少なくともそれが分かるまでは我慢していただきたい」
「えぇ〜!」
「よろしいですね?」
「あ、はい」
クロノスさんまじナイス!そろそろ俺が根負けするところだったよ。
「なら、血を吸われた相手がどうなるのか確かめに行きましょう!」
「仕方ありませんね。次からは不用意に未確定のものに手を出すのはやめてください」
「分かってるよ」
「はぁ〜」
そう言ってカゲツさんは遠くに見える森の方へ歩いていってしまった。
クロノスさん、お疲れ様です。
俺はクロノスさんに目線で謝意を伝える。クロノスさんはそれに気づくと、困ったように笑いながら肩を竦めて見せた。
「そうだ小娘。これの血でないとダメ、みたいなものはあるか?」
「ん?いや、多分大丈夫だと思うけど、そこら辺はやってみないとなんとも」
「ふむ、ならあの森にいる魔物あたりで試してみるか」
「魔物?」
「貴様や我のような存在のことだ」
「なんとなく分かった。ていうかクロノスさんも魔物なんだ」
「ああ、我はエンシェントマスターオーガという魔物でな。武と魔術を修めたエンシェントオーガが至れる種族だ」
「へ〜なんか凄そうだな」
などと話している間にカゲツさんと合流し、森に着いていた。
さてさて魔物はいるかなっと。
俺は少し集中して、俺たち以外の魔力がないかを探知する。
「近いのはあっちだな」
「ほう、魔力探知か。ある程度はできるようだな」
「とことん上からだなお前は」
「それが我の唯一アイデンティティだと思っているが故だ」
「うわぁ、タチ悪!ちょっと引くわー」
「カゲツ様!?いや、我の本心がチョロっと出ただけでごさいます。普段は決してそのような事は言いませんよ!?」
「ちょっとズレてんだよなぁ。お、そろそろだぞ、どうする?」
話しながら標的に近づく。血を吸うという話だったがどうするのだろうか。
普通に殺してから吸えばいいのか?いやでも今回はカゲツさんのためのものだし、生け捕りにして血を吸えばいいのだろうか。
魔物はオオカミの様な姿をしていた。強いて違いを上げるならば、毛色が綺麗な純白だということか。
「生け捕りにしろ。そうでなければ意味が無い」
「ま、そりゃそうですよね」
俺はある魔法を想像する。今回は相手を縛り付ける岩の蔓だ。その名も
「岩蔓!」
今回は土属性を表す茶色の魔法陣が現れ、その魔法陣から岩でできた蔓がオオカミを拘束する。
「まんまだな。今度から貴様のネーミングセンスには期待しないことにしよう」
「うるせぇな!これは適当につけた名前だから!本気で考えたらもっとスゲェやつ考えつくんだからな!」
「吠えるな小娘。馬鹿が移りそうだ」
「誰が馬鹿だと!?お前ちょっといい加減にしろよ!?」
「いいからさっさと血を吸え」
「わぁったよ!吸えばいんだろ吸えば!」
「二人ともとっても仲がいいんだね!」
「「よくない!」」
まぁ、いい。気を取り直してコイツの血を戴くとしよう。
……えっとどうやって血を吸えばいいんだ?そのまま噛み付くのか?野生動物の毛皮に?
「どうした、早くしろ」
「いや、どうやって血を吸おうかなぁって」
「なるほど!そのまま噛み付いたら汚いもんね!」
「ム?貴様はそういうのは気にしないタチだと思っていたが」
「いやある程度は妥協するけど限度ってものがあるだろ!お前だってこれに噛み付けって言われてもやらないだろ!?」
「断固拒否するな」
「だよな!お前はそういう奴だよな!」
「二人とも本当に仲がいいなぁ」
「「よくない!」」
まぁこのままじゃ話が進まないので新たに魔法を発動させる。今回は剣を作り出す魔法だ。その名も──
「剣創造」
そして、俺の手には一振の片手直剣が握られていた。
「やはりまんまではないか。貴様には失望した。そして改めて決意したよ。やはり貴様にネーミングセンスは期待しない」
「てめぇ好き勝手言いやがって!このオオカミ斬る前にテメェを斬ってやろうか?」
「貴様は魔術を使う毎に叫ばねばならぬ病気にでも罹っているのか?叫んでないでさっさとしろ」
「んだとこの野郎」
「やっぱり仲良いね二人とも」
「「よくない!」」
デジャブか?このノリもう三回くらいやった気がするぞ?そろそろふざけてないでちゃんとやるか。
俺はオオカミを軽く斬りつけ、出てきた血を指でとって舐めてみる。
「ふむ。以外と美味いな」
「え、本当?私も舐めてみようかな」
「おやめ下さい!変な病気に罹ったらどうするのですか!?」
「えぇ〜」
「よろしいですね?」
「あ、はい」
あ、そうだオオカミの様態は……特に問題無さそうだな。
「オオカミには特に変化無し。血を吸うだけで特に何も無さそうだな」
「ならばもうコイツは用済みだな。……カゲツ様?」
「大丈夫?ごめんね、痛かったよね。もう大丈夫だからね」
カゲツさんはオオカミに回復魔法を施していた。
「カゲツさん、一体何を?」
「吸血鬼さん、魔術を解いてあげて?」
「ああなるほど、了解。やっぱ犬は可愛いしな」
魔法を解くとオオカミは、こっちを、主にカゲツさんをチラチラ気にしながら帰って行った。
「これ以上の検証は出来そうにないな。本来なら仕方ないから我に噛み付いてもらい、安全性をより強固にするのだが、カゲツ様が一番は譲って下さらないらしいからな……」
「当たり前でしょ!こんな面白そうなこと、私が一番乗りに決まってるじゃない!」
「オオカミは?」
「オオカミさんは可愛いからいいのよ」
なんだその謎理論……。
「仕方ない、やるか」
「ああ、ちょっとワクワクしてきたぁ……」
……大丈夫かこの人。
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