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48.規格外な男

んー。自分でもよく分かんないけどもうちょいユリウスよいしょしたいなぁ。

 あれから帝国側の本隊が合流し、数が増えたが、なんか大丈夫そうだったのでユリウスは今、王都に向けて一人全速力で走っていた。

 何故走っているか?そんなのはユリウスの足の方が鉄馬車よりも速いからである。

 ユリウスが限界まで魔力で身体強化をし、筋肉を酷使すれば、鉄馬車で三日の距離を、一日で走破することも可能である。

 そしてユリウスは今、それをしている。凡そ通常では有り得ない程の速度で走るビックリ人間は王都の近くの森まで一日かけて到着した。


「はァ、はぁ、ふぅー……。奴らが来るならここを通るだろ、多分」


 玉のように浮き出る汗を拭いながら、ユリウスは手近な木に身体を預けて座り込む。


(これは、すぐには動けねぇな。ま、まだ日は高い。あと数時間は猶予があるだろうし、少し休むか)


 ユリウスはゆっくりと息を整えた。


───三時間後───


「……ハッ!」


 いつの間にか眠ってしまっていたユリウスは飛び起きる。


「今何時だ!?」


 すっかり日が落ちかけている茜空を見上げて、ユリウスは自分が数時間寝こけていた事を悟る。

 来る前に森中に罠を仕掛けようと考えていたユリウスは、そんな猶予はないと考え、もう近くまで来ているであろう八帝神器を探すことにした。

 ユリウスは森中に魔力を張り巡らせ、人型の強力な魔力反応を探る。


「……見つけたァ」


 そして見つけた。森の中を慎重に進む四人の姿を──。


───一方───


 私たちは今、王国の王暗殺の任を受け、四人のみの少数精鋭で王都近くの森を慎重に進んでいた。

 茜色の空を見上げる。この調子なら今夜にでも作戦を決行できそうだ。

 ──その時だった。


「──ッ!?」


 酷く悍ましい気配を感じて思わず立ち止まった。

 今のは一体何……?


「ん、どうしたアリア?」


 私の異変に気づいた大きな槌を背負った全身鎧の女性──帝槌のレーニアンタさんが私に振り返ってそう尋ねる。それに反応した他の二人──軽鎧に身を包んだ帝剣のアクトさんと鎧を着ていない帝掌のアラタさん──も立ち止まって私の方に振り返った。

 アクトさんが意外そうに話しかけてくる。


「大丈夫かアリアリーゼ?虚なる者(ホロウ)なんて呼ばれてる君がそんなに冷や汗を流して」

「あ、いえ……その……何かヤバいモノに感知されたかも」


 私は帝具のアリアリーゼ。昔から感情を表に出すのが苦手で、特に焦ったりすると表情が動かなくなる体質のせいで、いつの間にか虚なる者(ホロウ)なんて二つ名までついてしまった。

 勿論今の私の顔も見事な仏頂面であろうことは想像に難くない。

 そう、私は焦っている。これは、この気配は間違いなく危険だ。何か、ヤバい……!


「何かヤバいモノ、ねぇ……」

「アリアちゃんが言うんだから間違いは無いだろ。他に何かあったら遠慮なく言ってくれよな」


 アクトさんが私の言葉を反芻し、アラタさんがそう聞いてくる。


「アラタさん、その呼び方キモイからやめて……──ッ!?」

「レーニちゃーん。アリアちゃんが俺に冷てぇよぉ」

「寄るな気持ち悪い」

「みなさん警戒をッ!」

「「「!」」」


 動き出した!気配の主が、こっちに向かって!

 上の方から微かに葉の擦れる様な音が聞こえた。


「上!」


 上を見た三人は私と同じ様にすぐにその場から距離をとる。

 何枚もの紙が落ちてきていたのだ。勿論ただの紙じゃない。特殊なインクで魔術陣が描かれた、所謂魔術紙(スクロール)と呼ばれるものだった。

 そして紙に描かれた魔術陣一斉に輝きを放ち、私たちが距離をとると同時に大爆発を起こした。


「みんな無事か!」

「問題ない」

「こちらも異常無し」

「うわっペッ!巻き上げられた腐葉土が口の中に……うえぇ、ネバネバしやがる……」

「何故口を開けたし……」


 アクトさんの呼び掛けにレーニアンタさんと私が答え、アラタさんが口に入った腐葉土を出そうとしている。思わずつっこんでしまった。

 そんな事よりも目の前の相手だ。

 爆発により拓けた空間のど真ん中で茜色の光を浴びる男は、何をとっても異常だった。異質な気配、一瞬でここまで来るスピード、滅多に市場に出回らない貴重な魔術紙を初手で惜しげも無く大量に使ったこと、そして何より、煙の中から現れたその男の顔が、布で隠されていた。

 異様、異質、異常。三拍子そろって最凶に見える。


「この前は遊び過ぎて左手を持ってかれたからな、今回は少し控るか」


 布面の男が意味の分からない事を言うと、男の体から濃密な何かが溢れ出す。

 目には見えないが、確実に何かを放出し始めたのは確かだ。

 男の装備は片手直剣と円盾をそれぞれ片手に、そして背に弓を装備している。一般的な王国の騎士団の格好。

 顔を隠しているためによく分からないが、これだけの気配。さぞ名のある騎士であろう。

 となれば、相手は限られてくる。王国の有名どころでいえば公爵騎士ルゼル、王宮近衛騎士長ガンド、そして王国騎士団副団長フィーネと最強の剣士と名高い王国騎士団団長のユリウスなどか。他にも名のある戦士はいるが、騎士の装いをしているならばこの四人が濃厚。

 更にいえばフィーネは女性という話だからありえないし、ガンドの可能性も、近衛騎士がここまで離れるとは思えないので低いだろう。そして公爵騎士ルゼルだが、彼は公爵家の者だと言う話だ。ならば本人の意思に関わらず、他の騎士たちよりも装飾の凝った装備をさせられているはず……だと思う。

 となると、相手は王国最強の騎士ユリウスということになる。

 最強の騎士……。


「……!」


 その肩書きと、息が詰まるような圧迫感に一歩、私は後ろへとさがってしまった。そしてその瞬間、私は自らの失態を悟った。

 私の後退りを彼が見過ごすとは思えない。彼はこの中で私が一番弱いことと、私が一番勘が鋭いことに勘づいたことは想像に難くない。

 この間、時間にすれば数秒の静寂の中で、私は彼に……負けた。


 先に静寂を破ったのはユリウスだった。

 その、布で顔を隠した不審な男は、トンッと軽く地面を蹴ると、その姿が視界から消えた。


「──アリアッ!」


 直後に響くレーニアンタさんの声。そして、その声で気付く。ユリウスが、居合切りの構えで私の懐に入り込んでいることに。

 彼は私の視界から超スピードや魔術などで消えた訳じゃない。そもそも消えてすらいなかった。

 私にそう見せただけ──私の、私たちの意識の間隙に入り込んだ。ただ、それだけ。だが、それがどれだけ有り得ないことかを理解しているからこそ、私は硬直する。

 だってそうでしょう?油断なく彼を見ていた四人を、彼は一斉に虚を衝いてみせたのだから。

 一瞬が何秒にも引き伸ばされる。硬直している私は、引き伸ばされた時間の中で、彼の剣が私を切断せんと鞘から徐々に刃を露出させていくのを、黙って見ていることしか出来ない。


 ──動いて……──動いてよ……私……!──……死ぬ……?ここで終わり?──……死ぬのは嫌……終わりたく……ない……!嫌だ……死ねない……死にたくない……!──動いて…!動いてよ!


 彼の剣が切っ先まで鞘から抜かれる。


 ──ごめん!ごめんみんな!私を信じてくれたのに……私、ここで──ごめん……。

最近夜長持ちしない……

すぐ眠くなってかなわん

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