45.事後()報告
今のうちに色々伏線を貼っておきたいなぁ。と思い、回収出来るかはともかくとして、頑張ってそれっぽい事を前回してみたんですが、なにぶん疲れていたものでどうなるかは分かりませんね。
一夜明け、俺は今、城の自室の椅子に座って一人頭を抱えていた。
「やってしまった……」
なんで断らなかったんだ。なぜそこで日本人を発動した……!?
「あぁ、死にたい……誰か俺を殺してくれぇ……」
そもそも日本人とかどうこうではなく、俺の好奇心があんな奇行をとらせたのだ。
好奇心猫を殺すとは言うが、まさか吸血鬼にまでも致命傷を与えるとは、なんと恐ろしいことか……。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
俺は絶叫した。絶叫しながらあの出来事を思い返していた。
そう、あれはカゲツが子作りしようと言った時からだ──。
─────
「はぁ?」
それは、カゲツの言葉の真意をまるで理解できなかった俺が、辛うじて声に出せた言葉だった。
「折角だからこの機に魂の生まれるとこでも見せようかなって」
「お、おう……?」
「興味あるでしょ?魂が生まれるとこ。一緒に色々試してみようよ」
「ほぉ」
確かに、そこは物凄い気になる。うん、やってみてもいいかもな。
─────
「やってみてもいいかもな。じゃねえぇぇよぉぉぉぉぉぉおお!!!」
アホか?アホなんか過去の俺!
「あぁあ馬鹿馬鹿ばかばかバカバカ!俺のバカぁ!」
もし過去に戻れるのなら、あんな選択をした過去の俺を縊り殺してやりたい!
なぜ俺がこんなに嘆いているのか、もう分かったことだろう。そう、できちゃったのである。
「何をそんなに騒いでおるのだ」
「!?……なんだクロノスか。驚かせるなよ」
「ノックはしたはずなのだが……それより、カゲツ様が何やら上機嫌だったのだが、何かあったのか?」
「色々あったのさ……」
そうか、あの時クロノスはいなかったのだったか。用事があるとか言ってどっかいったんだった。
「用事とやらはもう終わったのか?」
「昨日のうちにな。貴様の方こそ、魂の生成は上手くいったのか?」
「あぁ……上手くいってしまったよ……」
「あぁ、道理で……何故その様な悲しげな顔をする?」
「色々あったのさ……」
俺が達観した顔でそう呟いていると、部屋のドアが勢いよく開かれる。
「ルーちゃん!私たちの子どもを見に行こうよ!」
カゲツだった。
「その言い方はやめてくれ。間違ってはいないが、俺はお前と子を生した現実に打ちのめされている」
「えっと、どういうこと?」
「あぁいや、気にしなくていい。こっちの話だ」
俺は一度深呼吸をした後、手で膝を打って立ち上がる。
「よし、行くか」
現実はいつも非情である。ならばいつも通り受け入れるしかあるまい。
俺は覚悟を決めてカゲツと共に、地下に作られていた部屋に移動する。
「……」
「なんでそんな神妙な顔してるの?」
そこにあるのは大きなカプセルだ。中はよく分からない液体で満たされており、その中に人の子宮の様な何かが一つポツリと浮いていた。
色々と話し合った結果、この液の中で破水するまで育てようということになったのだ。
「なんかちょっと張ってないか?」
「カプセル内の時間を四ヶ月進めたからね。大きくなったんでしょ」
「なんでそんなことしたし」
「待ちきれなくて……」
憂鬱な気分だ。ため息が出そうになる。
「いっそのこと私のお腹の中に移しちゃおうかしら」
「やめてくれ。お前のそんな姿を直視できる自信が無い」
「じゃあルーちゃんのお腹の中」
「なんで俺が妊娠しなきゃいけないんだよ」
「じゃあティアちゃんとか?」
「絶対やめろ」
俺はため息を吐きながらティアのその姿を想像しようとして、やめた。きっと気分が悪くなる。
「てか待ちきれないなら産まれるまで時間を進めれば良かったんじゃないか?」
「魂の生成が始まるのが着床から四ヶ月。これ以上進めたら抜け殻が産まれちゃうよ」
「それはまた何とも、ゾッとしない話だ」
産まれてきた赤ちゃんが抜け殻だったらトラウマになる自信がある。
「そう言えば、アレはいつ頃産まれるんだ?」
「アレ……あぁアレね。多分二週間くらい先じゃないかな」
「そうか。じゃあ俺はもう行くよ」
「そ、何かあったら言霊石で連絡するかここに戻ってきてね」
「了解」
そうして俺はティア達を拾ってこの異空間を出た。
─────
ここはアスト王国の帝国との国境付近にある大きな街の宿。そこで俺は、少し考え事をしていた。
魂の生成は、自分とパートナーの二人の魂のごく一部を触媒に作られた、魂の種とも呼べるものが発芽することによって成される。
男は精子に乗せて女性の子宮に魂の一部を運び、女はそれにより出来た受精卵に自らの魂の一部を篭める。
男は快楽と共に魂を移し、女は胎内でそれを自分のものと混ぜて魂の種を作るわけだ。なんとも合理的なやり方である。
自らの魂をほんの一部であろうとも切り離すことはそう簡単な事ではない。もしやろうものなら耐え難い苦痛に苛まれる。本当に辛かった。
だがそれを射精という快楽を伴う行為に置き換えたり、自らの体の中で完結させたりすることで回避しているとは、合理的としか言わざるをえない。生物の進化というものは実に素晴らしいものだ。
「先程から何を考えているのですか?」
「フッ、生命の神秘についてさ……」
「何カッコつけてんの?」
「パルは黙ってようか」
水差しやがって。
「まぁいい。そろそろここから移動するか」
「分かりました」
「了解」
「はーい!」
俺の言葉にそれぞれの返事を返した三人を連れ、俺はこの街を後にした。
さて、次回はユリウスくん(騎士団長)の話でも書こうかな。




