41.酒は飲んでも飲まれるな?
前話で書いたことへの意見ありがとうございます。先ずは次の大まかな方向性を決めてみようと思います。
「──て感じだな」
「へぇー、そのティアちゃんって子面白いね」
「ははは。あげないよ?」
「分かってるよ。ルーちゃんのモノを勝手に取るわけないじゃん」
宴の当日。俺は今、クロノスが言っていた城に来ていた。とは言っても、皆で共通で使っている異空間の中だが。
城に入るやいなや、見たことも無いメイドさんにこの部屋まで案内された。
廊下もとても豪華に見えたが、部屋の中は綺麗で高そうな調度品が丁度いいバランスで置いてあって、なかなかに豪華に感じる。
そこは客室か何かなのだろうか。テーブルを挟んで向かい合うようにソファが置かれており、その片方にカゲツが座っていたので、俺は反対側のソファにカゲツと対面になって座った。
そしてそれから二人で色々と思い思いに喋って、イマココ。
「でもルーちゃん。それだけじゃないよね?」
「……何がかな?」
「今の話だよ。ルーちゃんとピアソンとかいう子の間にティアちゃんが立ち塞がった後、何かあったんじゃない?」
「……なんもないよ?」
「嘘は良くないよ〜」
「ホントになんもないって……」
「じゃあそのアザは何?」
「……」
今の俺の顔には、左目の周りに殴られたようなアザが残っていた。
「……殴られた」
「誰に?」
「……誰でもいいだろ」
「ティアちゃんとか?」
「……っ」
「あら図星?フッフッフ、私に見通せないものはないの!分かったら洗いざらい白状なさい!」
「はぁ……わかったよ。話せばいんだろ話せば」
話せば色々と面倒な絡み方をされそうだから黙っていたが、このままだとめっちゃ執拗いだろうし、話した方が今後のためだと思い、俺はあの後のことを話すことにした。
「そう、あれはティアが俺の前に立ちはだかった時──」
──────
「貴方がその拳を握る限り、私は決して退きません!」
俺の前には、ティアがピアソンの前に勇敢にも立ちはだかっていた。
「頼むよティアネスちゃん、分かってくれないか?そいつは、僕があの子の分まで殴らなくちゃならないんだ」
「これ以上続けるというのであれば、私は貴方に容赦はしません!」
流石に娘と同じ年頃の女の子に乱暴なことは出来ないのか、彼はティアを無理矢理押し退けたりする様な気配はない。
「ティアネスちゃん。これは僕からの忠告だ。そんなやつに着いて言っても絶対に碌なことにならない。君がソイツから離れてくれるなら、僕のとこに住んだって構わないよ」
「いいえ、結構です。そして私から一つ警告です。その拳を収めてください。さもなくば、私が全力で御相手することになります」
ティアも彼が自分に危害を加えようとしないことを知っているのだろう。自分を盾にして俺への攻撃を止めさせている。
「なんでティアネスちゃんはそんなクズを庇うんだ!ソイツは、嫌がるあの子を無理矢理殺した!きっとソイツは、他人の命なんてどうでもいいんだ!そうだよな!他人であるあの子の命なんてどうとも思っちゃいないんだろ!?なあ!」
違う。どうでもよくなんてなかった。確かに、他人の命なんて俺にとってはどうでもいい。だけど、あの瞬間においては、あの子は他人なんかじゃなかった。どうでもよくなんかなかった。俺だって本当は助けたかった。でも無理だったんだ。俺の力が、足りないばかりに……
「貴方にこの方の何が分かるんですか!」
「「──ッ!」」
ピアソンと俺は驚いた。こんな不甲斐ない俺を、それでも擁護してくれようとするティアに。ピアソンは多分、ティアから反論されるとは思っていなかったから。
「貴方が、この方の何を知っているって言うんですか!?この方がどれ程の苦悩を背負っているかも知らないくせに!この方がどれ程の想いを持っていたのかも知らないくせに!どうしてそんな勝手なことが言えるんですか!!」
「それでも、僕はソイツに娘を殺されたんだぞ!?それだけで、ソイツを殴る理由には十分だろう!」
「確かにこの方はあの子を殺しました。ですが、貴方が娘を殺されて怒るように、この方にも色々な思いがあったはずです!」
「だからなん──!」
ピアソンが驚いた様に言葉を詰まらせる。
ティアが泣いていたのだ。その目から大粒の涙を零して、涙声になるのも気にせずに、ティアは言葉を紡ぐ。
「分かってあげろとは言いません。ですが、なぜ聞いてあげないのですか!なぜ知ろうとしてあげないのですか!あの子の悲痛な叫びを終わらせた時、泣いていたんですよ?とても辛そうな顔で、とても悔しそうに泣いていました。なぜ自分の痛みばかり押し付けて、この方の痛みを知ろうとしてあげないのですか?」
「……もういい。帰ってくれ」
ティアの言葉を聞いて、ピアソンは拳を緩める。勢いが削がれたのだろう。
ピアソンの言葉が聞こえなかったのか、尚も言い募ろうとするティアを後ろから抱きしめて落ち着かせる。
「もういい。もういいんだティア。一緒に帰ろう」
ティアを連れてこの家から出ようとした時、ピアソンから言葉が聞こえた。
「僕は一生、君を赦さない」
「あぁ、それでいい。邪魔したな」
ピアソンにそう返し、今度こそこの家を後にした。
暫く二人で何も話さず静かに歩いていたところ、ティアが口を開く。
「心配したんですからね」
「ごめん。私が不甲斐ないばかりに、君を泣かせてしまった」
「そうですよ。ですから、後で一発殴らせてください」
「ティアは優しいな」
「そうですよ、私が優しくなかったら一発では済みませんよ?」
イタズラっぽくそう言うティアに、口許が弛む。
そこからどちらからともなく笑い合い、パルとミリアのもとに戻ったあとで妖力の篭ったキツいのを一発顔面にもらった。
───────
「──てわけだな」
「アッハハハハハハ!」
「笑いすぎたろ……」
事の顛末に腹を抱えてゲラゲラ笑うカゲツに俺は呆れたような視線を向ける。
「いやぁ、ティアちゃん可愛いねぇ。で、どう?嬉しかった?嬉しかったんでしょ?」
「……」
俺は語りながらチビチビ飲んでいた弱い酒の入ったグラスを置いて無言でそっぽを向く。
「もー、ツレないなぁルーちゃんは……顔赤いよ?」
「るっせ!酒のせいだろ」
「もうルーちゃんは可愛いなぁ」
「おまっ、いつの間に!っておいやめろ!抱きつくな、おい!お前もう酔ってんのか!?」
一瞬にして俺の座っているソファに来たカゲツは俺に抱き着いてきて、そのままソファの上に押し倒される。
カゲツは俺の静止も聞かず脚から下腹部、臍から胸、鎖骨から顔に至るまで、撫でるように俺の全身を触る。そんなことをしているカゲツの顔は赤く紅潮し、息遣いも荒い。目も凄い危ない目つきをしている。
「おい止めろ!戻ってこい!」
「いい匂い」
「嗅ぐな!」
「このサラサラの髪、羨ましいわ」
「鬱陶しいだけだ」
「このスベスベの肌も嫉妬しちゃいそう」
「お前も同じようなもんだろ」
「この形の良い大きな胸も、とっても綺麗」
「邪魔なだけだ」
「こんな可愛い娘、私が犯し尽くしてあげたいわ」
「……俺は犯す側じゃないのか?」
「それは前の話でしょ?今はぁ、おんなのこ」
カゲツが俺の胸をむんずと乱暴に掴む。
「ひうっ!?」
変な声出た!?マジでこれ以上はなんかヤバい!
「おい、いい加減にしろ!さっさと離れやがれ!」
抱き着くカゲツを無理矢理ひっぺがそうと全力で顔をグイグイと押しやる。
「やーんルーちゃんのイジワルぅ〜」
「何なんだよ今日のお前なんか変だぞ!?」
その時、部屋の扉がノックされる。
「ちょ、ま!」
「失礼します」
俺の静止は無情にも間に合わず、部屋に入ってきたメガネのメイドさんに、俺たちの激闘を当然見られてしまったわけで……
ピシッとメイドさんのメガネに罅が入る。
「これは……」
「あ、えっと違うんだ!これはその……」
メイドさんはそこで綺麗なお辞儀をした。
「?」
「大変失礼致しました」
「あ、いや違うの、謝らないで?」
「それではごゆっくり」
メイドさんは部屋の扉を開ける。
「あ、あのメイドさんちょっと待って……」
「それでは、失礼します」
「あの、ちょっとメイドさん!?メイドさあァァーーーん!!!」
メイドさんは気まづそうな雰囲気漂わせながら退場してしまった。
「行ってしまった……」
「隙あり!」
「しまっ!ちょ、止めて!脱がさないで!あ、ダメ!なんでパンツまで脱がそうとしてんの!?ちょっとマジで止めて!ヤメロォォオオオッ!!」
それから暫く、俺の悲鳴が部屋中に響き渡ることになるのであった。
そろそろ説明回を入れたい!という思いから今回の宴ということになりました。
頑張って説明書くかぁ……




