32.喧嘩するほど仲がいい……のか?
18話辺りで主人公の名前ルクスって割といない?変えた方がいいんじゃない?問題につきましては、僕の脳内会議の結果、『別にこのままでいいんじゃないかな』という結論に達しましたので、主人公の名前は変わらずルクスでいくこととします。
二日後の朝。今日はクロノスとの作戦当日だ。
俺はこの家での短い日常を思い返してみた。
といっても、殆どがトレイジディ夫婦の娘自慢なんだが、その中から娘の情報を簡単に並べるならこうだ。
娘の名前はシヴェリー。歳は今年で八歳だという。
茶色い髪に茶色い瞳。頭には大きな赤いリボン。
活発で明るい元気な子。笑顔がとても可愛らしい。
こんなところか。
あとは初めて家事の手伝いをした時に皿を割っただの、転んで泥んこになった彼女が見せた笑顔がめっちゃ可愛かっただのそんなどうでもいい話だ。
いや、一つだけ印象に残っているものがある。
「あの子の六才の誕生日に渡した大きな赤いリボンをいつも嬉しそうにつけてくれて、それがとても可愛くて、嬉しくて……」
そんな風にピアソンが悲しげに語ったことが何故か頭から離れないのだ。
俺は思考を中止してベッドから起き上がり、身嗜みを整えて部屋から出る。
それから朝食をみんなで食べて、みんなで外に出る。
「えっと、念の為聞いておくけど、みんなついてくるってことでいいんだよね?」
俺の問いかけにみんな一様に了承の返事を返す。
では、いざ出発!
しようとしていた俺に、トレイジディ夫婦が近づいてくる。
「どうかしたか?」
「あの、帝国の方に行かれるのですよね?もし……もし娘を見つけたら、どうか──」
娘?ああ、攫われたかもって話が……なんだ?何かを見落としている様な……
「ああ。もし見つけたら、連れて帰ってくるよ」
「よろしくお願いします」
俺は思案に陥りそうになった思考を退けて返事をする。
それに対しトレイジディ夫婦は深く頭を下げた。
俺はそんな夫婦を横目に、転移魔法を展開する。
「この陣から出るなよ」
俺は皆に注意喚起をした後に、転移魔法を発動させて国境付近までトんだ。
転移が終わり、目を開ける。そこは既に、国境付近の洞窟の中だった。
「「さて、アイツを──」」
俺たちは何かを探すように同時に振り向き、互いに硬直した。
「「なぜお前がここに!」」
そして次の瞬間には驚愕の声を上げる。
「「……」」
そして二人して黙り込む。
気まづい。とてつもなく気まづい。
「どうしたんですか?あ、クロードさんご無沙汰しております」
クロノスに気付いたティアは礼儀正しく挨拶をする。そして何事も発さない二人に疑問符を浮かべる。
「コイツ、私たちに転移先を合わせてきやがった。なあどう思う?キモくね?」
「どうと言われましても、別にどうでもよ──」
「我が貴様らに合わせてきただと?合わせてきたのはそちらだろうに」
「は?お前何言ってんの?んなわけないしょ。お前がここに来るって分かってたら別の場所選んでたし」
「我とて同じことよ。何故もっと別の場所を選べなかったのだ」
「えぇ〜?一緒に行動するとか言ってきたのそっちなのに否定するんだ〜」
「貴様のような低脳を単独で行動させたら何をしでかすか分かったものではないのでな。あくまで監視というやつだ」
「うわぁ〜根暗な鬼がなんか言ってるんだけど。私と同じ場所に転移した事がそんな嬉しいの?気持ち悪いからやめてくんね?」
「血と記憶を吸うことしか脳の無い吸血鬼風情が、よくもそこまで自分を過大評価できたものだ」
「私と会えてこんなにはしゃいでる奴がよく言うぜ」
「何を言うか、はしゃいでいるのは貴様の方であろう。全く、カゲツ様はなぜこの様な小娘を……我の方が断然魅力的だと思うのだが」
「魅力ぅ〜?こんな根暗野郎のどこに魅力があるってんだよ、自信過剰も甚だしい。あ、もしかして鏡見たことない?」
「なんだ?自らに魅力がないからと嫉妬しておるのか?みっともないな。もうそれ以上はしゃぐのはよせ。耳が腐り落ちそうだ」
と。そんな風に言い合いをする二人を横目にティアたち三人は話し合っていた。
「やっぱりあの二人は仲が悪いんですかね?」
「そーね〜。あの様子だと相当仲悪そうだよねー。このまま殴り合いにならなきゃいいけど……」
「んーでもさ、こんな言葉聞いた事あるよ?喧嘩するほど仲がいいって」
「ああ、そういえばありましたね。つまりあの二人は仲が良いんですかね?」
「「良くない!」」
「えぇ!?なんかすみません!」
ティアの発言を聞きつけた二人はすぐさま反論する。その勢いに驚いてティアはつい謝ってしまった。
それから暫く、何やかんやあり、一先ず二人の喧嘩は幕を閉じたのだった。
「いつ頃だ?」
「昼頃には衝突するはずだ」
「じゃ、作戦開始は昼過ぎになるのか」
「気取られぬようにと条件がつくからな。多少遅れるのは仕方あるまい」
作戦について二人が話していると、パルが疑問の声を上げる。
「そういえばアンタたちは何をしに来たの?」
「それみんな思ってたけど言わなかったことです。空気読んでください」
ティアはパルを窘めるが言ってしまったものは仕方がない。
「おい貴様、まさか何も伝えず連れてきたのか?」
「あれぇ〜?言ってなかったけ?」
「言ってませんね」
「聞いてないわ」
「何も聞かされてないよ?」
三者の反応を見て、クロノスは溜息をを吐く。
「まあよい、我が説明しよう」
そう言ってクロノスは魔法陣を作り出し、それを三人の前に移動させると、その魔法陣がこの辺り一帯を表す地図になった。
ホログラムのように浮く地図には白い丸、黒い丸、そして赤い線と矢印が追加で描かれている。
「白い丸が王国軍、黒い丸が帝国軍だ」
クロノスがそういうと、白い丸と黒い丸にそれぞれの国の国旗が現れる。
そして白黒の丸は互いの中点、赤い線に向かって動き始める。
「昼頃には、この双方が赤い線──国境にて衝突することになる。故に我らは、昼までに隠密行動、各個撃破に適したこの森まで移動しなければならない」
今度はここから北北西に位置する国境を跨ぐ大森林が点滅し、矢印がその森へ向かって移動する。
「じゃあ今アタシたちはこの森に向かっているわけね」
「左様」
「把握しました。……隠密行動に各個撃破。しかも乱戦に紛れるのではなく、森の中でということは、王国と帝国、双方にバレないよう各個撃破でできる限り殲滅する、と。私の認識に間違いなどはありませんか?」
「ふむ、問題ない。随分と優秀な部下を持ったものだな」
「だろ?何を言われようと譲る気は無いよ」
「それは残念だ」
俺たちは軽口を叩きながら森まで移動したのだった。




