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22.ここは俺に任せて先に行け

 さて、さっき聞きそびれた事を聞くとするか。


「それで、仮称自然エネルギーの塊……面倒臭いからエネ剣と呼ぼう。エネ剣をぶつけた事はあるんだっけ?」

「ああ」

「で?どうなったのかな?」

「あの時は確か、糸を切られた糸吊り人形……パペットだっけ?の様に突然ポックリ逝ったと思う」

「ポックリ……」


 そんな抽象的な擬音を使われるとアホっぽく見えるのは俺だけだろうか。


「なんの前触れもなく死んだって感じね」

「まぁ何が言いたいのかは理解出来る。パルの言葉から連想するに、恐らく身体を操作する、或いは生命を維持する何かを直接破壊、若しくは通信を切断したんじゃないかな?」

「で、その身体を操作したり生命を維持したりする何かに心当たりは?」


 まぁ、ある。カゲツとクロノスがちょくちょく言葉にしていたが、ちゃんとした説明もされなかったモノ。それは──


「──魂」

「たま……え、なんて?」

「魂だ」


 最初は脳を考えたんだが、エネ剣は俺の頭部や中心部に当たった訳じゃない。それなのに脳にダメージが行くのはおかしな話だし、あの時の何かが揺れた感覚は頭部からではなかった。これだけでは証拠に欠けるかもしれないが、今までの結果を総合してみると、それが魂である可能性は高いのではと考えている。


「タマシー?誰それ」

「人の名前じゃないよ。生物の中に宿るとされている……生物の根幹を成す……精神を司る概念的存在……かな?」


 タマシー、ゲンゴカ、ムズィ。


「なんで疑問形?」

「何となくは分かるんだけど、言葉にするとなるとどうにも……」

「まあ何はともあれ、仮に自然エネルギーがそのタマシー君に直接攻撃できるとして、なんでそれで精神的なあれこれを治療できることになるの?」

「これも仮説の域を出ないのだけれど、仮称自然エネルギーがしているのは魂の破壊じゃなくて、魂への干渉なんじゃないかと思っている」

「と、言うと?」

「要は仮称自然エネルギーの本質は無形で触れられない魂という曖昧な概念に触れること。あと、君のエネ剣が対象の魂を攻撃したのは、『剣』という形を取っていたからじゃないかな」

「形?」

「剣ですることといったら?」

「何かを斬ること?」

「その通り、剣の使用用途はモノを斬ることだ。だから魂への干渉が『触る』ではなく、『斬る』になったのではないかと考えられる」

「つまり、タマシーへの干渉を『治す』とかそんなのに変えられれば、ミリアを救える?」

「そういう事」


 にしても、文献に書かれているようなことをカゲツらが知らないはずないよな。それでも俺に伝えなかったということは……何かあるのか?

 後で聞いてみよ。


「まあ何にしても、先ずは魂への干渉を『治す』に変換するにはどうすればいいかを考えなければね」

「でも治すって言ってもそうなる様な形が思いつかないんだけど。包帯とか?」

「まぁそこはノリと勢いでどうにかするしかないか」

「アタシの親友の治療をノリと勢いに任せないでくれる!?」

「それはそうと、パル、ミリアーネ嬢の居場所を教えてくれないか?」

「グレーミア帝国のアメリヤって街の近くに封印しておいたはずだけど」


 封印。恐らくは植物状態のミリアーネ嬢の身体の劣化や損傷を抑えるには封印という手段が一番合理的だからだろう。


「分かった。じゃあパルとティアは先にアスト王国に向かってくれ。地図の見方は分かるか?」

「はい、勿論です。お任せ下さい」

「え?ちょ、ちょっと待ってよ!」


 ティアに地図を手渡しながら話していると、急にパルが大声を上げる。


「なんでアタシを連れてこうとしないの!?ミリアはアタシの親友よ!?」

「時間の節約だ。私がミリアーネ嬢を治して君たちに合流すれば、移動の時間を短縮出来るとは思わないか?」

「効率とか時短とか、そういう問題じゃないでしょ!?アタシがあの子の親友で、あの子を助けられるかもしれないって言うのに、なんで──!」

「じゃあ君はティアを一人で行かせるのか?」

「そうじゃないでしょ!そもそもなんでアナタはティアちゃんと一緒に行ってあげないのよ!」

「言ったはずだ。時間の短縮だと」

「納得できない。なんで時間を短縮しようとしてるの?最低でもそれを言ってもらわなきゃアタシは納得しないわ」


 なんで、か。


「そうだな。確かにその通りだ。なら言わせてもらおう。私たちが今向かっているアスト王国は、あと数日もすればグレーミア帝国と戦争になる」

「戦争ですか!?」

「戦争……?」


 二人の反応は全く異なるものだった。ていうかもしかしてパル、戦争というものを知らない?ティアがあんなに驚いているのになんでお前は一人疑問符浮かべてんの?


「まさかとは思うけど、もしかしてパル、戦争って知らない?」

「マ、マママンママ、ママママサカ!そんな訳あーりませんよー」

「まぁいい。戦争については道すがらティアに聞くといい。だがこれだけは言っておく。戦争が始まれば、グレーミア帝国もアスト王国もただでは済まない。勿論、君の親友もね」

「ッ!?でも、ミリアの危機だって言うのならそれこそアタシを連れて行ってよ!」

「出発を遅らせる選択肢はない。君が私の方へ来るというのなら、ティアが一人でアスト王国まで行くことになる」

「それは──」

「君には有事の際に備えてティアと同行してもらいたいんだ」

「……分かった」



 これで納得してくれただろうか。戦争については俺も今さっき知ったところだ。実は詰所から蜜壷亭に向かう途中、クロノスから連絡が来て、そこで聞いた話なのだ。


「今日はもう暗いから、移動は明日になるかな。もう寝て、明日の早朝に出発するよ」

「分かりました」

「了解」


 皆が眠りについた頃、俺はクロノスに明日からアスト王国に向かって移動する旨を伝えた。

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