17.精霊王の居場所
昨日面白い話が聞けたので、今日はその精霊王とやらに会いに行こうと思います!
だがカゲツが封印される前の時代では精霊王など居なかったらしい。それどころか、精霊すら滅多に人前に姿を現すことがなかったらしい。
では精霊王とは一体何なのか。それを確かめるために、今回はその精霊王とやらに会って直接話しを聞こうと思う。
「ルクス様、今からお出かけですか?」
寝ぼけ眼のティアがベットから身体を起こして聞いてくる。
「ああ、ちょっと色々聞いておきたくてな」
「そうですか。お気をつけて」
そう言うとティアはまたベットに潜ってしまった。いつもより寝起きが悪いな。まぁ今ティアは弱ってるから仕方ないか。
昨日聞いたのだが、どうやらここはこの国、サハランド王国の都らしい。随分と小さい都があったものだな。
まぁ確かに言われてみれば街の中心に城っぽいのがある。そこまでの存在感はなかったので、よくて領主の館ぐらいに思っていたが、アレが王城とは……この国の衰退具合が見て取れる。
さて、昨日の話では精霊王の正確な場所までは分からなかったので、丁度いいからこの国の王に聞いてみよう。手当り次第探すよりかはいいはずだ。
という訳で城内に侵入してる訳だが、王はどこにいるのかな〜。
「探知魔法でも使うか」
探知魔法はその名の通り、周りにあるあらゆるものを探知することが出来る。オアシスや街を見つけるときに大いに役立った魔法である。
俺は探知魔法を使い、この城の設計や人の配置などを探る。
「お、これかな?」
地下に一人だけでいるヤツを確認した。探知した感じがコイツだけ少し違うし、もしかしたらこう、王特有のオーラ的な何かを感じ取ったのかもしれない。
探知魔法で設計は把握しているので、そのまま地下へと向かう。
地下は真っ暗だった。いや、燭台とかはあるのだが、一つも火が灯っていない。まぁ吸血鬼の俺にはなんの関係もないのだが。だけどこれは、本当に王がいるのか不安になってくる。
そのまま地下を歩いていくと、通路の左右に鉄格子が並ぶようになった。
これって地下牢ってやつだよな?こんなとこに王はいるのだろうか。まぁここまで来てしまったし、今さら戻る選択肢はないのだが。っと、着いたか。
「ホッホ、ここに足を運ぶ人間がいるとは、珍しい」
そこにいたのは一人の男だった。見た目は大分若く見える。だが、一目見て分かった。いや、正確にはこの男の纏うオーラで、といったところか。この男のオーラ、龍に似ている。
「私も今、とても珍しいモノを見たよ。まさか、世にも珍しい龍人とこんなところで会えるとはね」
「ホッホ、その呼び方をされるのは久しいの」
「ん?じゃあ今はなんて呼ばれているだい?」
「仙人だと。ただ長生きしているだけの老耄が、仙人とな」
そう言うとその男はカラカラと笑いだした。見た目は若いのに喋り方が老人みたいだから違和感が半端ない。
「たかだか二、三百年の時を生きるだけで老耄か?なら私は老耄どころのはなしじゃないな」
そう言って俺も笑う。笑う俺を見る男の目が鋭くなる。
「して、お主は何者だ?」
「ん?ルクス・テネブリスだ。封印される前は、私の名前を聞くだけでみんな震え上がっちゃってさ、仲間以外とまともに人と会話したこととか滅多にないんだよね。そっちは?」
「グラミア=アステリア。名前を聞いただけで震え上がるなんて、お主はいったい何をしたのだ」
「別に何も?周りが勝手に魔王だなんだって脅えてただけだよ」
「魔王だと!?」
急に反応したな。魔王だとしたら何なのだろうか。
「お主今、魔王と言ったのか?」
「言ったね」
「龍魔王を知っているか?」
「知らんな、誰だそいつ。私が知っている魔王は私以外に五人しかいないが、その中に龍魔王なんてのはいなかったよ」
「そ、そうか。取り乱してすまんかった。して、何用でここへ来たのだ」
「精霊王の場所が知りたくてね。王に聞こうと思ったんだけど、どうやら君は王じゃないらしいし」
「国王を探してるのか?この国の王なら、三階の一番端にある執務室で仕事をしているはずだ」
「なるほど、感謝するよ」
「ホッホ、感謝ついでに儂をここから出してくれてもよいのだぞ?」
「勝手にしろ」
ということで牢屋の鍵を開ける。グラミアはまだ気づいていないようだが一々教えてやる必要もあるまい。どうせ後で気づくだろ。
俺は執務室に向けて歩きだす。
執務室の前まで来ると、執務室から誰かが出てくる気配があった。俺は急いで魔法で姿を消すと、扉が勢いよく開かれる。中からはそこそこ身なりの良さそうな若い男が出てきた。俺はそれを尻目に扉が閉じる前に室内に身体を滑り込ませる。
執務室の中では、細身の男が一人ため息を吐いていた。
「はぁー。私はどうしたら良いのだ。どうしたらこの国を救える」
ふむ。砂漠化の事で悩んでいるのだろうか。ここは俺の魔王ムーブの魅せどころかな。
俺は彼の背後に回り透明化を解除すると、彼の耳元に後ろから囁きかける。
「何かお困りかな?」
「な!?」
彼は驚いた様子だったが、硬直するだけでこちらに振り向こうとしない。
「懸命な判断だ」
「お、お前は一体何者だ。いつからそこにいた」
「私?私は赤の魔王と、そう呼ばれていた存在だ。いつから、という問いには答えづらいな」
「赤の……魔王?」
「その通りだとも。神をも恐れる赤の魔王さ」
そして俺は彼の頬から顎へとゆっくり指でなぞっていく。
「代償を払えば、君の願いを叶えてあげよう」
「願い……だと?」
「そう。どんな願いでもいい」
「そ、それは……国を救ってくれという願いでもいいのか?」
「勿論だ。だがその分、代償は高くつくよ」
「代償とは、なんだ?」
俺はそこで彼の首筋を舐め、わざとらしく舌なめずりをする。……これはちょっと汚いな。
「血と記憶さ。君の血と記憶を私に献上すればいい。それで私は、君の願いを叶えてあげよう」
彼の喉がゴクリとなる。
「本当に、叶えてくれるのだな?」
「勿論だとも。血の契約は決して違えることは出来ないからね」
「……分かった、代償を払おう。それで、国が救われるのなら」
「君の願いは精霊王の打倒かい?なら精霊王のいる場所を教えてくれると、こちらも少しやりやすくなる」
「あ、あぁ。奴の居場所はここから西に四十キロ先だ。特に目印とかはないが、これでいいか?」
「うん。交渉成立」
それから血を致死量にらない程度に吸って、妻に関する記憶を全部奪ってやった。
彼は今頃、執務室で倒れているところを見つかってベットに運ばれているところだろう。




