13.俺氏、無能すぎ!?
これは修行中の話である。俺とカゲツとクロノスで、とある会議を行った。
「赤の魔王の設定?」
「そうだ。いざと言う時に緻密な設定がないとボロが出そうだからな」
そう、赤の魔王の設定作りだ。ま、これに関しちゃすぐに終わった。
「私から案があります」
「どうぞ」
「では──」
「──採用」
「やった!」
てな感じ。まさかカゲツさんから小一時間赤の魔王の設定を語られるとは思いもしなかった。
修行が終わった後、クロノスがその設定を裏付ける証拠を作るために、未だ攻略されていないという古代遺跡に細工をしに行った。
カゲツは冒険者として活動する。余談だが、カゲツの冒険者としての設定は、極東の国から来た刀術の達人だそうだ。ノリノリで着物と刀を用意してたな。
……なんかみんな楽しそうだなぁ。
「よし!俺も仲間集め頑張るか!」
俺はカゲツの提案した設定に沿うように姿を変えて、仲間集めの旅に出た。
──オペレーションMAO開始から四ヶ月──
それから数ヶ月、俺は様々な場所を飛び回ったが仲間に相応しいキャラは未だに見つかっていない。それどころか、勇者候補すら見つけられないでいた。
俺氏無能すぎでは!?
「いやまだだ!まだ、まだ俺は諦めてないぞ!」
おっと、俺じゃなくて私だったか?ボロが出ないよう気をつけないとな。
そう言って更に一月後。
「マズイ。全然見つからん」
どうしよう、俺魔王なのに何にもしてないじゃん!
「いっその事俺が勇者やろっかな」
なんか自分でも何言ってるか分からなくなってきたぞ。もう盗賊でもいいからスカウトするか?
そう思い、俺は夜の森の中に入っていった。
暫く森の中を進んで行くと、森の中が騒がしいことに気がついた。いつもなら森に入った段階で気づけたが、今回は少々焦っていたために気づくのが遅れた。
「なんか面白そうな予感」
俺は騒がしい方へと迷わず進む。そしてその先にあったのは、まだ年端もいかない少女を複数人の男たちが取り囲んでいる光景だった。
アレらをスカウトするか?でも明らかに少女が怯えてるんだよなぁ。いや、悪党の方が魔王の仲間っぽいか?
少し迷った挙句、俺は木の枝の上で少し様子を見ることにした。
「アッツ!このクソガキが!」
「ガッ!」
暫く様子を見ていると、男の一人が少女を蹴り飛ばした。どうやら火の魔法で少し手を炙られたようだ。少女が蹴り飛ばされているのを見ている俺の顔が強ばるのが、自分でもよくわかった。
そして少女は何度がバウンドした後、俺のいる木にぶつかって止まった。その少女は、暫く身体を洗っていないのか、とても見窄らしく、破けた服の隙間から見える彼女の体には、森を走り回っている最中に付いたと思われる生傷の他に、痛々しい傷跡や青痣が見て取れた。
少女はもう息も絶え絶えで、今にも死んでしまいそうだ。だが、そんなことなど気にする様子もなく、男たちは少女に近づいてくる。
その時、少女から小さな呻き声が聞こえた。最初はただの呻き声だと思ったが、違った。そしてもう一度、少女から今度は明確な言葉となって声が紡がれる。
───助けて──と。
そして男たちはそれを聞いて言った。
───これは高く売れそうだ───と。
俺は青筋が立つのを自覚する。無意識に手を強く握りしめていた。
「嗚呼、やはり汚いな」
そう、無意識に呟いていた。
コイツらをスカウト?そんなのこっちから願い下げだ。
男がその汚らしい手で少女を掴む。俺にはそれが、どうしようもなく許せなかった。
その汚い手が、少女の綺麗な心を汚しているようで。
その汚らしい笑みが、少女の思いを嘲っているようで。
なにより、そうなるまで黙って観ていた俺が、どうしようもなく許せなかった。
ああ、こんなにも惨めな思いをしたのは久しぶりだ。
決めたよ。
貴様ら全員───皆殺しだ。
俺は木から降りると同時に、少女を掴んでいた穢らわしい腕を木っ端微塵に消し飛ばしてやった。
そして俺は少女の方を向き、よく頑張ったと褒めてやると、少女は何故か安心した様に眠りについた。
少女が眠った事を確認した俺は、男たちの方へ向きかえった。男たちがなにやら喚いていたがどうでもいい。
汚物は消毒だ。
────────
……少々カチンときていたとはいえ、やり過ぎた。調子に乗って邪眼まで使ってしまった。
まぁやってしまった事は仕方がない。取り敢えず今は、死体から血を頂いておこう。
死体に俺が手を翳すと、死体の傷口から血が出てきて、翳した掌に集まっていく。俺がそれをグッと握り潰すように手を閉じると、集まった血は手の動きに合わせるように掌に吸収されていった。
「ふぅ。ごっそさんっと」
さて、後はこの少女をどうするかだが……どうしようか。
今、俺の目の前には先程助けた少女が眠っている。治癒魔法で傷は全て治しておいた。
それと、さっきはよく見てなかったので気づかなかったが、この少女にはケモ耳ケモしっぽがある!尻尾や耳の形から考えるに、恐らくは狐だろう。
これは、獣人か?この世界にもやはり獣人はいたのか!
いや、そんなことは今はいい。とても重要なことではあるが、今考えるべきはそこじゃない。
そう、今考えるべきはこの少女をどうするかだ。この少女に行く宛てがあるのであればそれでいい。俺がそこまで送ってやろう。
だが、行く宛てがない場合、俺はどうすればいい?少女をここへ置いていくか?
流石にそれは俺の良心が痛む。
「うーむ、どうすれば……」
暫く考えた末に、俺は良案を思いつく。この少女をスカウトすればいいじゃんと。
さて、ならば次はどのように少女に話しかけるかだな。
────────
それから数時間後。朝日が昇り始めた頃、少女が目を覚ます。
少女は寝ぼけ眼で辺りを見渡す。そして自分に何があったのか思い出したのか、キョロキョロと何かを探す様に辺りを見渡す。
(助けてくれた人、まだいるならお礼言わないと!)
そして少女は目的の人物を見つけた。その人物は目の前の木の枝の上で、幹に背中を預けて座っていた。目を閉じているのでまだ寝ているのだろうか。
「あ、あの!」
少女は自分を助けてくれた人物に話しかけてみる。するとその人物は、目を開いてこちらに目を向ける。
「目が覚めたか、狐の少女よ」
「え?えっと、あっはい!」
コチラから話しかけたというのに、急に声をかけられ驚いてしまう。
「え、えぇっと、ありがとうございました!」
少女が礼を言うと、彼女は少し驚いたように目を見開いたが、すぐに柔らかい笑みを見せた。
「どういたしまして」
彼女はそう言うと、木から降りた。
「実は余計なお世話だったのかもと少し心配してたんだ」
「そんなことない、です。あの、た、助かりました」
そこで彼女は白々しくも、あたかも今思い出したかのように言う。
「そうだ、何処か行く宛てはあるのか?あるなら私が送っていくが」
「あ、いえ。その……ありません」
少女は彼女の質問に暗い顔で答える。
「ん?お父さんやお母さんはいないの?家族じゃなくてもいい。信頼出来る友人とかそういうのは?」
そう彼女が聞くと、少女は益々暗い顔をしてしまう。彼女が内心焦っていると、少女が口を開く。
「わ、わたしのパパとママは……わたしの……う、うぅっ」
遂に泣き始めてしまった少女に、彼女は慌てふためく。
「え、えっと……飴ちゃん舐める?」
取り敢えず異空間収納の魔法から暇つぶしに作ったべっこう飴を取り出す。だが、少女はその飴には見向きもせずに泣き続ける。
「ど、どうしよう」
彼女は少女を泣き止ませる方法を考えるのだった。




