11.オペレーションMAO
それから数年、地獄の様な修行の日々が続いた。今まで幾度となく弱音を吐きかけたが、一緒に修行しているカゲツが一度も音を上げていないので、俺も情けないところは見せられないと奮起し、なんとか今に至る。
思い返せば、色んなことがあった。カゲツが力を取り戻して極眼を見せてもらった時はそれはもうスゴかった。
種族も進化して【夜の王】になった。それに伴い、新たな特性【夜の支配者】、【死を告げる者】、【悪食の王】を手に入れた。これにより、夜の間は強くなれるし、血とともに相手の記憶も奪うことができるようになった。
そして俺の邪眼にも名前がついた。
あとは魔法や眼の扱いは勿論のこと、体術を完璧にこなせるように地獄の特訓をした。
それが終わったかと思うと、剣術や槍術を始めとして、様々な武術を叩き込まれ、修めるまでに至った。もう、ゴールしてもいいですか?
そんなことを涙ながらに考えていると、俺の前にクロノスの野郎が現れた。いや、感謝はしてるよ?実際強くなったわけだしね。でも、今まで課せられた地獄を思い返すとちょっっとだけ?イラつくというか?
「さて、今の貴様の力は我々を除けば最強レベルだろう。神にすら勝てるぞ?」
「マジ?神に勝てちゃうの?」
「無論だ。あの様な低脳な奴らなど恐るるに足らん!」
そんな罰当たりなこと言っちゃって大丈夫?
「いやでも神って全能だとか言うじゃん?」
そう言うとクロノスは笑いだした。
「全能だと?違うな、あれは器用貧乏というのだ」
「お、おう」
「まぁともかくだ。貴様は神にも勝てる力を手に入れた。今こそ貴様の魔王道を歩み始める時だ。神をも畏れぬ赤の魔王、カッコイイだろう?」
「……確かに」
その時、上空から物凄い魔力反応がこちらに向かってくる。まぁカゲツなんだけど。
「親方、空から女の子が!」
俺の声が聞こえたのか、カゲツの降りてくるスピードが急激に下がり、仰向けでゆっくり降りてきた。
俺はそれを受止める。
「クロとなにを話してたの?」
腕の中のカゲツがそんなことを言ってきた。
「そろそろ魔王として活動を始めてもいいんじゃないかって話」
「おぉ!遂に始動するんだね、オペレーションMAOが!」
「そんな名前初めて聞いたんだけど!?」
「だって今思いついたからね」
「オペレーションMAOの第一段階として、まずは部下を増やすのはどうだ?」
「お前もそれでやってくのかよ!」
いつも俺のネーミングセンスがどうこう言っているクセに……!
まぁ色々言いたいことはあるが、クロノスが言うことは尤もだ。魔王として色々活動するにあたって、仲間及び部下の存在はとても重要になってくるだろう。
「問題はどうやって増やすかだが」
「心配には及ばん。我に考えがある」
お、重要なところではとことん頭が回らないクロノスに珍しく妙案があるらしい。
「おい貴様。今思ったことを正直に言ってみろ。怒ったりなどせんから」
「絶対ウソだね!お前絶対怒る気だろ!」
「ほう?我に怒られるような事を考えておったのか」
「あ、やべっ」
「本当に仲良いね。もう結婚しちゃえば?」
「「断固拒否する!」」
全く同じ反応をする二人を見てカゲツはクスクスと笑っている。
最近……いや、最初会った時からずっとか。クロノスとは変なところでハモる。
「ま、まぁクロノスくん。君のその考えとやらを聞こうじゃないか」
「そうだな。それはズバリ、我の散っていった同胞たちを復活させ、従わせるというものだ」
「復活?」
「所謂アンデット化だ」
「却下!」
「クロサイテー。ないわ〜。ひくわ〜」
「グッ、何故だ。我はこれ以上無い妙案だと思ったのだが」
「自らアンデットを作り出すとか嫌すぎるわ!しかもそれがお前らの昔の仲間とか趣味悪すぎんだろ!」
「そーだそーだー!」
「我の趣味が悪い……だと……」
なんかクロノスが意気消沈してしまった。さすがに言いすぎただろうか。
……ま、いっか。
「まぁ仲間を集めるのは急務ではないし、ボチボチやっていけばいいだろ」
「じゃあまずは何をしよっか」
「そうだな……あ、そうだ。魔王をやるのなら勇者が必要だよな。ということで勇者を探そうと思う」
「勇者……」
「お前がやるのはナシだぞ」
「うぐっ」
そんなにキラキラと期待の眼差しを向けておいて、バレない訳が無い。
「じゃあ私は何をすればいいの?魔王はルーちゃんがやるし」
「そうだな。勇者探しと仲間探しは並行して行う予定だが、勇者を探すと言っても情報が足りない」
「つまり?」
「つまり、だ。カゲツにはたくさんの情報が入ってくるような立場になってもらいたい」
「情報が入ってくるって、商人でもやればいいの?」
商人?なんの知識もないカゲツが商人として成功できるとはとても思えない。
ハッキリ言おう、やるだけ無駄だと。故にカゲツに商人をやらせるつもりなど毛頭ない。
「いや、カゲツには冒険者になってもらう」
「冒険者?」
「そうだ。お前の戦闘力を活かせるし、有名になれば色んな人とコネクションが持てるだろう。冒険者がよくある異世界モノであるようなものであるのなら、だがな」
「その手があったか!私も冒険者に興味あったし、早速行ってきまーす!」
「その眼は使うなよ」
今にも近くの街に飛び出そうとするカゲツの背中にそう言うと、カゲツはピタリと動きを止めて振り返った。
「なんで?」
「カゲツがあまり力を示しすぎると、勇者の代わりに俺と戦う羽目になるぞ」
「あぁ〜確かに、人間ならそうするよね。私もルーちゃんを倒すのはやだしなぁ」
「ならば魔眼は隠し、魔力の使用は必要最低限だ」
「うん」
「よし、行ってこい!」
「行ってきます!」
よし、カゲツが行った。あとは俺も行動をしなくては。
……っとその前に
「おいクロノス。いつまでそうしているつもりだ。俺たちも行動を開始するぞ」
「あ、あぁ。すまない、少し、ほんの少し、大分少しショックだっただけだ。もう、大丈夫だ」
クロノスに声をかけると、クロノスは幽鬼のように虚ろな顔で立ち上がった。
……本当にコイツ、大丈夫なのだろうか。




