頭脳を担当しますⅡ
屋敷へ戻るとすぐにサービス担当がこちらへ向かって駆け込んできた。
「遊戯担当!なんですかその袋は!?」
見るからにお怒りのようだ。
「急にどうしたんですか?ただの塗料ですよ」
「屋敷のお金を勝手に使うの違反行為になると伝えたはずでしょう?」
とぼけた表情をする遊戯担当に彼女の怒りはさらに増した。
「そういえばそうでしたね。すみません」
遊戯担当は申し訳ないと言わんばかりに頭をさげた。
「次同じことをしたらクビにしますよ。話は以上です。仕事に戻りなさい」
彼女が去っていく私とと遊戯担当は厨房へ食材を運びに向かった。
「ありがとうございます。先程力担当さんが戻ってきたら中庭の畑に来てくださいと仰っていました」
私は箱から全ての物を出し終えると彼女の方へ向き直った。
「畑なんてありましたっけ?」
「宜しければ案内しますが、、、」
私は料理担当に案内されて畑に向かった。
「あちらです」
場所を伝えると彼女は仕事に戻っていった。
噂には聞いていたがまさかこんなものがが畑だとは思わなかった。
野菜なんて調理されたものしか見たことが無いので分からない訳だ。
「買い出しお疲れさん。今から収穫をするから手伝え」
声を掛けてきた力担当は何故か長い刃物を手に持っていた。
悪い意味で似合っているな。
「そろそろ休憩したいのですが」
「情けねぇな。後で特製ブレンドを作ってやるからもう少し頑張れや」
特製ブレンドって野菜を混ぜ合わせたあれだよな。
ビタミンは疲労回復に聞くとは言うが僕にとっては毒にしかならない。
「別に特製ブレンドはいりませんが、、、」
お嬢様が屋敷の窓から見ているのに気づいて元気を少しでも分けてあげられればいいなと思った。
「まずはこのハサミを使って野菜を収穫してくれ」
私は収穫したトマトを見つめた。
これがトマトか、、、。
日光を浴びて美しく輝くそれはまるで宝石のようであった。
私は唾をゴクリと飲み込んだ。
朝食が野菜ばっかりだったからあまり食べられてないんだ。
「どうだ?美しいだろ?」
力担当は自慢げだ。
「とても素敵です」
彼は2、3度共感するように頷いた。
「そりゃそうだろうが。仕方ねぇ特別に1粒だけ食わせてやる」
私は再び手に取ったトマトを見つめた。
今なら、、、今なら克服することができるかもしれない。
その瞬間何かが頭の中を過ぎった。
「大丈夫だよ。少しくらいなら食べられる」
「無理に気遣っているのでしょうセリウス。全ては料理人が悪いのです」
これは私が幼い頃、ユージュア家の料理人が手違いでスープにキノコを入れてしまった時の思い出だ。
お母様、あの後料理人のほとんどを解雇していたな。
「申し訳ございません!」
食卓に集まった料理人達が一斉に頭を下げた。
「お母様、許して上げてください。それに私が野菜を克服するチャンスではありませんか」
「いいや、克服する必要はない。現に私も野菜が苦手だからな」
これは父の言葉だ。
「はい、、、」
私は彼らにスープを下げさせた。
お母様、お父様。あの時は私を気遣っていただきありがとうございます。
もう、甘やかされて生きるセリウス・ユージュア・バージンとはおさらばだ。
私は数年ぶりに食べるそれをしっかりと味わった。
「やはり特製ブレンドも頂くことにします」
「あぁ。最高に美味いやつを期待しておけよ」