8歩 ステータス確認(初期値)
ただ歩く。 たったそれだけでとあるクソ強超能力みたいなスキルを獲得出来るとなれば、確かにバランスブレイカーな神チートだろう。
ぶっちゃけ今すぐ出立したい。
しかしだ、そうなれるまでには幾つもの段階を踏まなければ辿り着けない訳で……。
魔物の蔓延る異世界で、いったいどれだけ歩き回れば安定して生き残れるようになれると言うのか。
取り扱い説明は続く。
「『ことふみ』をずっと持ち歩けというのは邪魔だろ? 落とすかも知れんし。 なので、なろう系あるある『アイテムボックス』みたいな機能も付けてみた」
「アイテムボックス?」
マイクラの木箱を想起したが、多分こっちではないのだろう。
『なろう系あるある』と言うからには、あの、亜空間へと無限に収納出来る四次元ポケットみたいな超便利スキルの方だ。
なんて考えていると、シチシさんがことふみを閉じて片手に持った。
「慣れれば必要無くなるが、それまではこう言えば良い。 『行李』」
と、まるで瞬間移動の手品のように、ことふみが音も無く一瞬にして消えた。
目の前で起きた種も仕掛けも無い超常現象に、ぞわわっと鳥肌が立つ。
「おぉ~! ……氷?」
「こ・う・りだ。 知らんのか行李。 旅行用にも使われる葛籠の一種だうが。 飛脚が使っとったりもした」
「何時代の常識ですか」
ジェネレーションギャップが日本史レベル。
因みに、「ことふみ」と言うと空中からことふみが手に落ちてきた。
HUNTER×HUNTERのグリードアイランド編みたいなシステムしてんのな。
表紙を開き、1ページ目のステータス欄に視線を落とす。
「上のここに名前を書け、すると今のお前のステータスがLv1で表示される」
シチシさんが指した空欄に名前を書きながら、俺は疑問を口にした。
「今の?」
今のステータスをLv1として、とはどういうことだろうか。 そもそも自分のステータスなんてもの自体、今から初めて作ると言うのに。
しかしそれに対するシチシさんからの答えは、「見れば分かる」というシンプルなものだった。
何だろう、その『謎は解けました、後日説明します』みたいな、いや勿体ぶるなよ感。
なんてモヤモヤしている内に名前を書き終わって数秒、空欄だった下の枠に次々と数字が現れ始めた。
「おぉ~」
アニメの世界に入り込んだかのような機能に思わず唸っていると、シチシさんに覗き見られた。
「ふんふん、これがお前の初期値か……」
【花緒 結拾】Lv.1
【歩数】0歩
シチシさんが困惑の眼差しで顔を上げる。
「お前……どっちだ?」
「何を今更」
確かに男の娘と苛られるくらいには中性的な容姿や声や名前と自覚しているが、あんだけ猥談しておいてそれは無い。
もし百合なら、迷わずシスターさんに手を出していただろう?
「にしても、そうは読めんだろ!な名前が多いのは分かるが、流石に『ゆかり』は女性名じゃないか?」
「『ゆかり』と『えにし』で迷ったそうですが、結拾は決定していたとかで、『ゆかり』に決まったそうです」
「……良かったな、女顔で」
「太りたくなくて必死でした」
おかげで運動神経はそこそこある。
【HP(体力)】D.247
【MP(魔力)】E.0
【ATK(攻)】C.86
【DEF(防)】E.35
【MAT(魔攻)】D.19
【MDF(魔防)】E.0
【AGI(敏捷性)】B.318
【LUK(運)】E.45(+225)
HPとAGIだけ高いのは、必死に走り続けてきた成果だろう。
今のステータスをLv.1でってそういう事か。 いやまぁ、生まれたてのようなオール一桁とか、無いわな。 どこでレベリングする気だって話しになる。
にしても……
シチシさんが眉を顰めて呟く。
「やっぱ低いなぁ~……」
「あの、何故にここだけ英語表記なんです?」
「ん? あぁ、ゲームっぽくな。 好かんなら慣れ親しんだのに変えても良いぞ、『HP・こうげき・ぼうぎょ・とくこう・とくぼう・すばやさ』とか『ライフ・こうげき・かしこさ・命中・回避・丈夫さ』とか」
「最近ポケモンとモンスターファームの動画見てます?」
思考が読めるのかってくらいピンポイントで提案された……そうしようかな。
それともう1つ。 数値がクソ雑魚なのは仕方ないとして。
「このDとかEって?」
「あぁ、成長適性な」
A~Fまであり、Aが最も伸びやすく、Fは成長しないという意味らしい。
となるとこれは……いや、ゲームの主人公基準で考えるな。 リアルな人間の18歳なんてこんなものだろう。
「ん? だとすると、魔法適性はあるんですね」
日本人なのにFじゃない。 さっきは産まれてくる子供の心配までしていたのに。
「少なからずはな。 言っとくが向こうの平均はCだぞ」
なら確かに、Eなんて遺伝子、足を引っ張るだけでしかないか。
「この、MATだけDなのは?」
「ん~……アニメやゲームの影響じゃないか?」
「そんな理由で?」
「知識としてな。 あと、本気でかめはめ波を練習しておれば或いは」
「或いは有り得ると!?」
かめはめ波は無駄じゃなかった?!
いや、かめはめ波の練習はしたことないけど。
「魔力が無いから使えんだけで、所謂イメージトレーニングの類いだからな。 書物には、読者に登場人物の経験を疑似体験させる効果があるし、ゲームとて模擬戦に近い。 使い道は無くとも、探れば適性Aが見付かってもおかしくはない」
「中二病を助長させそうな情報ですね……」
なろう系主人公にオタクが多いのも納得できる。
【スキル】
【加護】
・守護霊×5
「守護霊!?」
しかも×5。 スキルが空欄なのは納得だが、まさか加護があったとは。
驚き言葉を失っていると、シチシさんに笑いながら「生き霊も含めてるからな」と解説された。
「お前の家族と……これは幼馴染みか? 少し異質な生き霊がおるぞ」
「あぁ~……」
どれとは分からないが、心当たりに気が萎える。
恐らく、保育園から中学までは仲が良かった女友達3人の誰かだろう。
それぞれが俺を妹のように溺愛しだし、遂には喧嘩別れ。 俺の、女子という幻想を粉々にまで踏み荒らしてくれた、生き霊としてまで纏わり憑いていそうな3人だ。
おかげで男友達を作る間も無く、精神的に疲れて座っているだけでもイキリ扱いされて辛かった。
毎日目の前でギスギスされる身にもなってほしい。
それはさておき、今肝心なのは加護の効果だろう。
想いが重過ぎて怖くとも俺にだけは好意的ではあったため、凄い効果を齎してくれるのではと期待が膨らむ。
「【加護】守護霊って、どういう効果があるんですか?」
「そうだな……守護霊は基本、不慮の事故や怪我等から身を守ってくれるから、1体につきLUKを1.2倍上昇と言ったところか」
「少なっ」
「で、計算が面倒なんで、守護霊×1.2倍としていく。 なので5×1.2で?」
「……6倍?」
んで、45×6=270だから、45(+225)になる、と。
結構有能だった。
そして想いの重さとか関係無かった。
【装備品】
・ことふみ(«ユニークスキル»行李を限定的に使用可)
ステータス欄はここまでだった。
行李はユニークスキル扱いなのか。 てか限定と言うことは……
「おう、歩け」
「デスヨネー」
行李の付喪神にさえ認められれば、アイテムボックスとして使わせてくれるそうだ。
何歩必要になるのかは、見る気も起きない。
多分これ、1話は異世界で戦ってる所とかみたいな見せ場からスタートすべきでしたかね?
そこまで設定作ってない思い付きの行き当たりばったりなので、虚無が続いていたらすみません。
まぁ、更新遅いから続き催促されるよりは気軽かもですね。
これからどうするか考えたのですが…本当、短編で実験してれば良かった…
いえね、他にも書きたいのがありまして、なのにこれ長編になりそうな予感がしてて;
文才が無いので短く纏められるかどうか……レベリングシーン(旅路)をざっくりカットしてアニメ12話くらいで終わらせようかな。
下手にスローライフしてると虚無ですよね。
もしよければ、このままな流れが良いか、少しダイジェストしていくべきか、感想ください。
参考にさせていただきます。