4歩 過保護
千数百年にも及ぶ魔王軍との戦争は、たった1組の勇者パーティーの働きによって終決した。
しかし残された魔王軍は、頭を失った生き物とは訳が違う。 その大半が統率という鎖を失った無法者と化し、各地で被害を齎し始めた。
とは言え、人族も愚かではない。 事前に対策を講じていた国家群の壁は分厚く、被害は想定内に留まっている。
今は、
俺がここまでを理解できているか確認する素振りすらないまま、シチシさんが忌々しそうに顔を歪ませて続ける。
「あんのクソ野郎は1度、キッチリ倒せたと確信してたんだがな。 どう逃げたのか、残党を集めて魔王の真似事をし始めやがった」
その時の苛立ちまでも蘇ってきたのか、ドスの利いた声とカエルが硬直しそうな鋭い視線が、向かいに座るスイハの背後を睨む。
真っ白い障子に穴が空きそうだ。
と、そこまで黙って静観していたアマノさんが口を開いた。
「シチシさん、余計なお節介かとは存じますが、せめて今だけでも神格っぽく振る舞えないものでしょうか……」
「ん~……?」と、目付きの戻ったシチシさんが、アマノさんから俺に向く。
「その方が、良いでしょうか?」
まるでアマノさんの真似事のような声色・口調・表情に、腕や背中が鳥肌とは言えない程度で、ゾワワッときた。
「……俺に聞くんすか。 えっと、その気も無いのにボディータッチを繰り返してきた気さくな人から、突然距離を取られたような薄気味の悪さなら感じました」
見た目的にも、サバサバした男勝りキャラの方がお似合いな気がする。 なので、今更キャラ変されるのは何か違う。
なんて思いも込めて伝えてみたところ、シチシさんは満足気にアマノさんへと視線を戻した。
「だってさ♪」
「ハァ……お気遣い、痛み入ります。 それと、ここで見たこと聞いたことは、どうか胸の内にのみ留め置き下さい」
心苦しそうな面持ちで頭を下げるアマノさんに、慌てて頷き返す。
「安心してください、そのつもりでしたので。 てか言ったところで誰も信じないか、虚言癖呼ばわりされるだけですけどね」
それ以上に、軽い気持ちで口にし、いるかも知れない信者さん達から敵認定だけはされたくない。
これはアレだ、清純派アイドルの本性みたいなものだ。 誰にでもある裏の顔ぐらいでドヤれる程、俺は他人の私生活に興味なんて無い。
アマノさんが「ありがとうございます」と頭を上げ、話を本題に戻す。
「えー……現在、我々は対象の潜伏場所を特定するまでに至り、残すはそちらの世界の人々から、特に適性の高い方へと協力を仰ぐべく、下準備をしていた。 まさにその最中だった訳です……」
「そこの阿呆が留守を狙って、勝手に召喚しよったんだ。 本来なら3人がかりで行い、極限まで条件を絞り込まねばならん儀式をたった1人でな! おかげで狙っていたガチ勢か格闘家のサイン貰い損ねたわ!」
「最後だけおかしくないか!?」
私情駄々漏れの憤怒に、ついタメ口でツッコんでしまった。
いやでも、この人相手ならこんな態度で充分だろうて。
ツッコミ所しかないのだもの!
「巻き込まれ地球人としてこれだけは言わせていただきますが、んな理由で誘拐間違いされた挙げ句、命懸けの異世界バトルになんて使われたくないですよ! てかガチ勢ってなんすか! 自衛隊員とか傭兵ですか?!」
「いや、探せば1人くらいいるだろ? 自キャラで転移無双みたいな良い意味で頭おかしいゲーマーとか」
「ヲタク!?」
確かに、ポ◯モンで現実に打ちのめされ、神技動画を見てる方が好きだと悟った俺よりは適性クッソ高いけど……。
などと言葉を失っていると、アマノさんに申し訳なさそうにフォローされた。
「勿論、全て我々の都合ですので、可能な限りのサポートは惜しみません。 電子ゲームの付喪神監修の元、死んでも記憶は保持したまま事前に記録しておいた時間軸までなら戻れるよう手配致しましたし」
「セーブ&ロードな♪ 時の神様を説得するの本当苦労したわぁ」
「条件付きではありますが、その他多くの神々からも、加護や能力をお貸し頂ける事に相成りました」
「因みに、これらは借りるだけだからな。 この件が終わり次第、ステータス欄諸とも回収されるのを忘れんように」
「向こうに行った後も、1人では何かと不便ですので、信頼の置ける協力者を手配させて頂きます。 日本語の通じる方ですから、きっとお役に立てる筈です」
「戦闘以外でな。 こっちにも一応、期間限定でステータスやらを使わせてやる予定だが、シスターだから回復特化になるだろうなぁ~」
「そうそう! 最後にもう1つ。 この度は完全に無関係なあなた様を我々の都合で一方的に巻き込み、多大なご迷惑をお掛けしてしまいますので……地球へのご帰還の際には、召喚された日と全くの同日同時刻へとお送り致します。 ですので、こちらでどれだけ経とうと、ご家族やご都合に影響が出ることはありません」
「まぁ、さすがに十数年も待ってらんないけどな。 なるべく、アレが本格的に動き出す前には叩きたいし」
「と、いうところなのですが……いかがでしょうか」
恐る恐る、といった上目使いで俺の反応を窺うアマノさん。
そんな、たまに仕草の可愛らしくなる彼女に、俺は第一印象を素直に伝えた。
「過保護」
この話は、現在投稿の滞っている『サキュバスお姉ちゃんとの異世界村興し録』と同時に執筆しているので、更新が遅れる可能性があります。
中途半端に終わらせる気はありませんが、あっちに力を入れているので、興味があればあちらも覗いてみてください。
そして感想を下さい。