3歩 クソ野郎
「ア~マノ~!♪」
青おかっぱが、ダボダボの袴で器用に走りながら、黄色い巫女さんの下半身に抱き着く。
近所に住む大好きなお姉さんに駆け寄る小学生そのものだ。 顔の位置が羨ましい。
アマノと呼ばれた、羽毛のようにゆるふわな金髪ボブヘアーのお姉さんは、青おかっぱの頭を優しく撫でると、「チッ」と舌打ちする猫に視線を向けた。
「シチシ、遅れてごめんなさい。 交渉は上手くいったから、あまりスイハを叱らないであげて」
「そういう問題では……ハァ~」
腹の奥底から込み上げてきたかのような深い溜め息を吐き、猫がザワザワと音を立てて巨大化していく。
「うおっ!?」と後退る俺の目前でみるみる人型へと変化していき、毛が引くと、その下からはスポーツ選手並みに肉付きの良い、朱ポニーテイル褐色肌の美女が現れた。
全裸で。
クールビューティーな切れ長の目が俺に振り向く。
「ん? あぁ、すまん、驚かせ「シチシさん!」たかぁあ!?」
俺と向かい合おうとした元猫女を遮るように、瞬間移動してきたアマノさんが両手に持った赤い巫女服を広げて裸体を隠した。
その素晴らしく無駄のない手際に驚いたのは、どうやら俺だけではなかった様子で。
「なっ、何だ急に!?」
「なっななっ何してるんですか!? 何だはこっちの台詞です何してるんですか!? 男の人の前ですよ!?」
涙声で詰め寄るアマノさんに、シチシさんが困惑の表情を浮かべながら1歩たじろぐ。 シチシさんの方が頭1つ分長身なのが、年下から怒られるだらしないお姉さんに見えた。
「えぇ? ……だから?」
「こちらの方は我々や上位神様達とは違うんです! 今すぐどうこうという訳ではありませんが、神格としての品や外聞等にもご留意ください!」
「ぉぉぉおう、すまん」
漸く理解出来たらしく、シチシさんが巫女服を手に取り、その場で着始めた。
アキラ1◯◯%のような素早さでアマノさんが巧みに振り返る。
「あの……お見苦しいものを見せしてしまい、大変申し訳ございませんでした」
笑顔で誤魔化しつつも決して頭は下げない姿に圧を感じ、俺は即座に視線を合わせた。
「お構いなく」
・ ・
「改めまして、我々はこちらの世界で、境界守の任を務めております付喪神にございます。 私の事は『アマノ』とお呼びください」
「酒盛り? 宴会会場の男手に欠員でも出ましたか」
「境界を守護する者と書いて境界守と呼称しているのです。 紛らわしいとは存じますが、ご理解ください」
1トーン低くなった声で真面目に対応された。 神相手に臨時アルバイトをする職業系ルートではないらしい。 クソッ!
シチシさんが巫女服を着終えたのを確認し、俺達は和風な別室へと転移していた。
一目で質の違う、我が家より数ランク格上な空気に自然と背筋が伸びる。
新品同然の香り高い畳。 木目の綺麗な焦げ茶色の柱。 襖。 上座には何処かの風景を描いたらしき金縁の掛け軸。
見れば見る程、触りたくないものばかりだ。 指紋を付けただけでも今後の人生が吹き飛びそうな。
そんな和室の中央、樹齢数100年の大木を輪切りにでもしたかのようなテーブルに着き、給仕さんらしき女性が淹れてくれた暖かい緑茶を一口飲んでから、俺は気持ちを切り換えた。
本当はもっと現実逃避していたかったんだけど……今のアマノさんでは怒られそうなので、ここは一旦、話に合わせるとしよう。
「分かりました……なんとなくですが。 それで、『魔王』じゃなくて『悪魔』ってのは一体」
普通……この状況が既に異常極まりないのはさて置くとして……テンプレ的には、勇者の適正を持つ選ばれし一般人(自称)が神様チートを授かり、魔王討伐の冒険に出る。 って流れがベースだ。
てかまさに今がその導入に当たる。
なのに初手魔王不在とか。 ……いやいらんけど。
対象が魔王軍残党の悪魔1体だけだなんて、神が無関係な異世界人を召喚してまで警戒すべき強敵とは思えない。
そんな心境を汲んでくれたのか、俺の右側で胡座をかくシチシさんが「あ~、誤解があるとマズいから言っとくけどな……」と口を挟む。
「お前にも分かりやすいよう『悪魔』としてるが、実際には『呪病』『混沌の魂』『不可知の厄災』って感覚に近い。 神界とも向こうとも地球とも違う、地獄みたいな世界から零れ落ちて来た存在だ」
……ん〜、違いが分からん。 つまりは何だ、少なくともゲームやアニメの知識で対処できる相手とは思えないし、呪術(殴り合い)とは別物と言うことか?
『ターンアンデッド!』『ぎゃー』とはならないと。
「お前に頼みたいのは、そんな悪魔な上に、神に次ぐ力まで持っちまったクソ野郎の封印だ」
感想……求めるには何も始まっていませんよね。
実験のついでとは言え、頑張ります。
次回、未定
思い出した時にでも、また来てください。