2歩 三柱
「痛っ!」
手の甲に爪が刺さり、不意の刺激に力が緩む。
その隙を狙って、猫は体を激しくくねらせ拘束から脱出すると、スタッと豆腐台に四つ足で着地した。
「だって全然決まんないじゃんか!」
「それは……えぇぃクソッ! 既にしてしまったものは仕方ない」
と、毛皮の下の眉間に皺を寄せたような表情の猫が、横目でこちらを見上げる。
「まぁ、最低条件は満たせているようだが……お前、殺し合いは平気か?」
「いや……無理ですが」
現代日本人にそれ聞きます? ゴキブリとネズミとムカデにですら「ごめん!」って言いながら対処してるレベルだぞ。
「だろうな……」と小さな口から溜め息が漏れる。
「でもでも! ゲームは好きなんでしょ? 今の日本人ってそうなんでしょ?!」
「日本人だからと言って誰も彼もが好む訳ではない! 頼むから、考えて行動してくれ……」
背中を丸め、涙ぐみそうな声で「ハァ~…」と頭を下げる猫。
胃を痛めていそうな後ろ姿に、少し同情した。
てか、なんなんこれ。
夢、だよな? 明晰夢ってのはこういうものなのだろうか。
勝手に状況が進んでいるようで、全く話は進んでいない。
かと言って、夢相手に真面目な顔して「どうして俺を召喚したのかを、本題はよ」なんてのも……痛々し過ぎる!
ただの夢なら、何の疑問も抱かずにこんな状況ですら受け入れられていたのだろうけど。
……そうだよ。 今まで夢の中じゃ、急展開でもそういうものだと認識していて、疑問にも感じなかったのに……
「だって、早くしないとまたいっぱい死んじゃうじゃん!」
「焦るな、そうさせない為の準備だったんだろうが」
「強くしながらでも出来るって!」
「育つ前に死ぬ! 魔法を扱える地元の者でも、運が悪ければ1日ともたんのだぞ」
どんな人外魔境に放り込む気だこいつら!
嫌な流れに戦慄する。 このままだと訳も分からず色々持たされて「いってら~♪」される不安しかしない。
目覚めて脳が痒くなる程度の黒歴史で済むのなら、万が一にでも、死地に転送させられる可能性よりは遥かにマシだ。
「っぁぁあの! 先に言っときますが魔王討伐とかなら無謀ですからね?! 俺より適任な人、他に腐るほどいるでしょうからそっちに求人依頼してください!」
不慮の事故で死んだ人とか、チート持たせてあげればきっと大喜びですよ!?
なんて訴えながら両者の間に割って入ろうとしたまさにその時、左手の壁際からこの問いへの答が返ってきた。
「魔王は既に討伐されております。 あなたにお願いしますのは、散り散りになってしまった魔王軍の残党。 その中でも、こちら側の者達だけではどうしても手に余る『悪魔』、1体の討伐です」
黄色の巫女服に身を包んだ、こっちの2匹とは空気からして違う女神様が現れた。
3歩目も既に書いてあるので、次話更新は一週間後の予定です