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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第四章 亜人の守護者編
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その93 ~軍師ルベリオ誕生~

◇◇◇◇◇◇◇◇


 圧倒的な軍事力不足を覆す奇計。

 ルベリオはそれを”魔法”に求めた。


「ご存じの通り、我々人間に魔法は使えません。魔法を使えるのは竜と亜人と呼ばれる者達だけです」


 実際は魔法を使える生物は意外と数多くいる。

 しかし、その使用は微小で極めて限定されているために、未だ人類には知られていなかった。

 やがて科学が進み、魔力を検知する観測機器なりが生み出された時、初めてそれらは解き明かされる事になるのだろう。


「確かに。亜人が魔法を使うという話は聞いた事がある。だが、同じ魔法を使うなら竜でもいいのではないか? 実際にロヴァッティ伯爵軍は使っていたぞ」


 先日、イサロ王子が相手にしたロヴァッティ伯爵軍。彼らは新種と見られる竜を集中運用する事で王子の軍を敗走寸前まで追い詰めた。

 王子はその時の事を言っているのだ。


「それですが、今回、カルメロ殿下の魔獣討伐隊相手に使われたという話を聞いていません」

「! 確かに! もし使われていれば、カルメロとエーデルハルトごときの軍が未だに無事でいられるはずがない」


 王子の言葉は辛らつだが、あながち偏見とも言えない。


 あの時、王子の軍の実際の指揮官は名将ルジェロ将軍だった。

 老いたとはいえ、この国の四賢侯の一人として長年軍のトップにいたルジェロ将軍。そのルジェロ将軍が後れを取ったのが例の竜部隊なのだ。

 それを、将として遥かに格下のエーデルハルト将軍程度が、抑えきれるとは思えない。


「新種の竜部隊が野戦で有効なのはロヴァッティも気付いたはずだ。なのに今回使っていないのは、使っていないのではなく、使えない理由があるというのか?」

「おそらくは」


 ちなみにイサロ王子は”新種の竜”と呼んでいるが、あれはロヴァッティ伯爵領の究明館で手術をしたただの地竜であって、決して新種の竜ではない。

 何故今回の戦いで使われていないのかは、単に数をそろえる時間が無かったのと、所長のルゲロニがクロ子に殺された事で、一時的に研究がストップしてしまったせいである。


「私は新しい戦力として魔法を学ぼうと考えました。でも、サルエル先生に聞いても――」

「無駄だったという訳だな。サルエルが知らなくても当然だ。この国では誰も魔法の研究をしていないからな。むしろ魔法研究者を名乗る者のほとんどは詐欺師紛いのいかさま師だ。他国でも魔法の研究をしているという話は聞かない。唯一の例外は――」


 イサロ王子は無意識に胸のペンダントを弄んでいた。

 このペンダントには魔法に反応する希少な物質が封じられている。つまりは簡易な魔法検知器なのだ。

 人間は魔法の発動を察知する事が出来ない。

 王子は魔法による暗殺に備えて、常にこのペンダントを肌身離さず持ち歩いていた。

 そして、このペンダントを作った国こそ、大陸の三大国家の一つカルトロウランナ王朝なのであった。


「――カルトロウランナだ。カルメロの後ろ盾だな」

「はい」


 イサロ王子の二人の兄は、それぞれ三大国家を後ろ盾にしている――と言えば聞こえが良いが、要は上手く利用されているのだ。

 先日クロ子に殺された第一王子アルマンドには、アマディ・ロスディオ法王国が。

 第二王子カルメロにはカルトロウランナ王朝が。

 それぞれに取り入って、虎視眈々と王位を狙う王子達を後押ししていた。


 この理屈で言うなら、第三王子のイサロは大モルトを後ろ盾とすべきだが、大モルトは執権アレサンドロ家を祖とする一族が覇権を握り、さらに各アレサンドロ家がしのぎを削り合う修羅の国でもある。

 迂闊に関われば、この国まで勢力争いが飛び火する可能性がある。いや、確実にそうなるだろう。

 大モルトとは、深入りする覚悟が無ければ手を出さない方が無難な国なのだ。


 話を戻そう。

 現状で魔法を研究しているのは、三大国家の一つカルトロウランナ王朝。そして、イサロ王子達は知らないが、隣国ヒッテル王国のロヴァッティ伯爵領の究明館。


 ルベリオもイサロ王子の妹ミルティーナからカルトロウランナの書物を見せて貰った事があったが、そもそも文字が違っていて読むことが出来なかった。

 だが、仮に読めたとしても、書かれた内容を正しく理解する事は出来なかっただろう。

 それほどこの国の魔法研究は、抜本的な部分から遅れているのだ。


 国土防衛の戦力に魔法を使う。

 このルベリオの試みは挫折したかに思われた。


「そこで思い出したんです。亜人は魔法を使う事が出来るって」

「それは、そうだが。ヤツらは言葉もロクに通じない野人だぞ?」


 王子の言葉は多分に偏見を含んでいる。とはいえ王子を責めるべきではないだろう。

 この国に住む多くの者にとって、亜人というのは原始的な野人そのもの、というイメージなのだ。


「いえ。私の住んでいた村は、メラサニ山のすぐ近くにありました。村の年かさの者の中には亜人を見たという者や、その・・・実際に亜人と話をしたという者もいるんです」

「亜人と?! 話が通じたのか?!」


 イサロ王子は亜人をどういう存在だと思っているんだろうか?

 少なくともルベリオの聞いた話では、亜人は人間と大した違いがあるようには思えなかった。


「実際に魔法が使える彼らなら、我々の知らない魔法の知識もあるに違いありません。彼らの身の安全を条件に協力を願い出れば、きっと応じるのではないでしょうか? その上で彼らの知識で魔法を兵器として利用出来れば、他国に無いこの国だけの戦力になると思います」

「亜人の保護? まあ待て、話を飛躍させ過ぎだ。少し落ち着け」


 思わず前のめりになるルベリオをイサロ王子は押しとどめた。


 亜人を魔法のオーソリティーとして利用する。

 汚らわしい亜人を認めるような考えは、王族という他に類を見ない高貴な家柄に生まれ育ったイサロ王子にとって、大変不快なものだった。


(だが、ルベリオの考えには一理ある)


 元来皮肉屋で、平民のルベリオを側に置くほど型破りなイサロ王子にとっては、自分が納得出来るだけの十分な理さえあれば、その程度の不快感は耐えられないものではなかった。


(問題はアマディ・ロスディオ法王国だ。アマナ教(アマディ)は亜人の存在を認めない。亜人を保護すれば俺に対する法王国の心象は最悪な物になるだろう)


 いつしか王子の心はルベリオの考えを認める方向に傾いていた。


 いや。実際に魔法を使う敵軍に敗れた事のある王子だからこそ、ルベリオの考えに理解を示す事が出来たのだ。

 もし、あの敗戦が無ければ、このような発想をするルベリオに、王子は嫌悪感すら抱いていたかもしれない。




 長い時間。イサロ王子は黙って考え込んでいた。

 ルベリオは辛抱強く王子の考えがまとまるのを待った。


「・・・試す価値はあるかもな」

「! では?!」


 王子はルベリオを「まあ待て」と制すると、顎に指をあてて考えを整理した。


「亜人を認めると言っても、この国の国民とするのは無理だ。だが、メラサニ山から出ないならこちらから干渉はしない」


 要は相互不干渉の取り決めを結ぼうという訳だ。

 国家が亜人に対して結ぶには破格の取り決めと言えるだろう。


「もし、アルマンド殿下にしたように、また法王国が亜人の身柄を求めた場合はどうなるのでしょうか?」

「俺はアルマンドじゃないからな。ヤツらもそこまで強くは出ないだろう。そもそも法王国の軍がこの国を通るのが間違っているのだ。アルマンドのヤツも死ぬ前にいらぬ前例を残してくれたものだ」


 他国の軍が通るのを許せば、周辺国からはサンキーニ王国はその国の属国になったと映ってしまう。

 そうなれば周辺国からの侵略の口実を与えかねない。

 アルマンド王子の軽率な判断が国を危険に晒す所だったのである。


「しかし、それも亜人に利用価値があると分かった時の話だ。もし、ヤツらの魔法とその知識に見るべき点が無い場合、当然何一つ約束する事は出来ん。つまりは今まで通りだ」

「それは・・・分かりました」


 厳しい言葉のようだが、王子にとって亜人はこの国に勝手に住み着いている異分子に過ぎない。

 税金も払って無ければ、この国の生産にもなんら寄与していないのだから当然だ。

 当然、亜人にも彼らなりの理屈はあるだろうが、王子も国の支配者としての立場がある。

 この件に関しては、亜人の言い分を聞いてやるつもりは一切無かった。


「ならお前には俺の名代として役職が必要だな」

「は? 僕が? 名代とは?」


 王子の言葉にルベリオはポカンと口を開けた。


「相手が亜人とはいえ、使者にはその権限に相応しい役職が必要だ。さて、この場合はどういうものが相応しいか――」

「ちょっと待って下さい! ひょっとして僕が亜人と交渉するんですか?!」


 ルベリオは仰天してイサロ王子に詰め寄った。


「当たり前だ。お前が考えた計略だし、そもそも俺の配下には貴族しかおらん。ヤツらに亜人と交渉しに行けなどと言えるか? 絶対に失敗するに決まっているだろうが」


 それは――確かにそうだ。

 まともな貴族なら、亜人と交渉の席に着こうなどとは思わない。

 こんな策を取り入れるイサロ王子の方が破天荒過ぎるのだ。


 ルベリオにもそれが分かったのだろう。それでもどうにか大任から逃れようと「あうあう」と言葉を探している。


「そうだな。何か希望する役職はあるか? 今なら考慮するぞ」

「そんな! 滅相も無い!」


 ルベリオはワタワタと手を振るが、イサロ王子は逃がしてくれない。

 どうやら王子はルベリオをからかうのが楽しくなって来た様子だ。


「家令やサルエルからは何か言われていないのか? 妹でもいいぞ」

「サルエル先生ですか? 先生は殿下の軍師を目指せとおっしゃっていました」


 軍師という聞きなれない単語に王子の眉がピクリと跳ねた。

 ちなみにこの国には軍師という役職は無い。カルトロウランナ王朝の大昔の文献に記された単語を、サルエルは知っていたのである。


「軍師とはどういう役職なんだ?」

「サルエル先生が言うには、戦の時には策を献上し、平時には(まつりごと)を指揮し、君主を支え、君主の意に沿うように国を創る、もう一人の君主とも呼ぶべき国家の重鎮の事を言うそうです」


 どうやら多分にサルエルの理想が強く出ているようだ。

 だが、そもそも軍師という言葉自体が存在しないこの国で、彼の勘違いを正せる者はいなかった。


「そうか。それはまた志の高い稀有なる者だな」

「は、はい。それを理想に頑張れと――」

「ならお前の役職はその”軍師”だ」


 あっさりと言われてルベリオの目が点になった。

 王子はハンサムな顔に良く似合う爽やかな笑みを浮かべて告げた。


「軍師ルベリオ・ラリエール。俺に代わって亜人との交渉、任せたぞ」

「ええ――――っ!!!」


 ルベリオの絶叫は王城の廊下まで響き渡ったのだった。

次回「メス豚と人間の使者」

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― 新着の感想 ―
[一言] 言い出しっぺの法則は覆らない、まぁ先入観が薄い人物がやらなきゃ成功する物も成功しないのは事実だからしゃーない
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