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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第一章 異世界転生編
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その8 メス豚と王子様

 はい。メス豚転生ですっかりお馴染み、レポーターのクロ子です。

 本日は深夜の村の中からお送りしています。

 人っ子一人いない静かに寝静まった村。でも時々イビキのうるさい家があって、そこだけは気になります。

 私、気になると夜も眠れずに昼寝しちゃうんですよね。なんちゃって。

 ではカメラを放送席にお返しします。


 私は心の中でレポーターごっこをしながら深夜の村の中を散歩していた。

 自分から村に戻って来た私だが、食肉になる未来を受け入れたという訳ではない。ないったらない。

 今はいつでも村を出て行けるよう、入念な下調べをしている最中なのだ。


 念には念を。安全な村での生活をキープしつつ、探索の範囲を広げていく。

 この間のような痛い思いをするは二度とゴメンだ。

 私は学習するメス豚なのである。


 実はあれから何度か山にも足を踏み入れている。

 慎重に進んでいたせいか、それともこの間は余程運が悪かっただけなのか、あれ以来野犬の群れには全く遭遇していない。


 足のケガの落とし前を付けてやろう、と身構えていただけに、何だか肩すかしを食った気分だった。

 それならそれで別に問題は無いけどね。

 まああの時はリーダーを含めて五匹もぶっ殺してやったからな。

 私の魔法にビビって姿を見せないんだろう、きっと。


 私は気ままに山を歩いては食料になりそうなものを物色した。

 いずれ村を出ても、この山に私の食料となるものが少ないのなら、別の土地を目指さなければいけなくなるからだ。


 今の所、この山には十分な食べ物があるように思える。

 用心しなきゃいけないのはこの間の野犬の群れくらいか。

 とはいえ流石にまだ山の奥には足を踏み入れていない。

 だからひょっとしたら、熊とか虎とか危険な生き物が住んでいる可能性は否定しきれない。

 異世界だからそれよりもヤバいモンスターとかいるかもしれないし。


 ・・・いや、そんなのがいる山のふもとに村なんて作らないか。

 まあその辺はあまり奥に行かない限りは問題にならないだろう。


 私は毎日の日課となった夜の散歩を終えると、誰かに見付かる前に柵の中の寝床に帰るのであった。




 村に仰々しい集団がやって来たのはその翌日の事だった。

 ガシャンガシャンと鎧を鳴らしながら武装した集団がゾロゾロと村に入って来た。

 怯えて家に閉じこもる村人達。そして寝床に隠れて無駄にストレスを溜め込む兄弟豚達。

 ちょっと邪魔。そこ通して。

 私は押し合いへし合いする兄弟豚達から離れると、柵の側に駆け寄って外の様子を窺った。


 武装集団はどこかの兵隊のようだ。

 チラホラと指揮官らしき立派な服装の男もいる。


 おやっ? 良く見ればあれは懐かしの恐竜ちゃん。

 お久しぶりです。あの時はお世話になりました。


 ――などと思ったら同じような恐竜ちゃんが何匹もいた。

 ヤベエ・・・みんな同じに見えるわ。

 恐れていた事が現実に。

 どうやら私には恐竜ちゃんの見分けが付かないようだ。


 兵隊達が道の両脇に寄ると、一台の馬車が村に入って来た。

 なんつーか、馬車なんて映画の中でくらいしか見た事がないけど、案外パッとしないんだな。

 もっと豪奢でピカピカしてるのかと思ってた。

 まあ映画のは撮影用に作ったものだから、実用性よりも見栄えが良くなるように出来ていたんだろうね。

 普段使いの足ならこんなふうになるか。


 いつの間にかガチムチが岩男を連れて家の前に立っていた。

 そういやガチムチはこの村の村長だっけか。

 馬車はそんなガチムチ邸の前に停まる。


 中から降りて来たのは・・・一言で言えば王子様?

 私はガツンと頭を殴られたような衝撃を受けてしまった。


 まだ若い――高校生くらいのイケメン男子だ。

 金髪の緩やかな巻き毛に瑠璃色の瞳。透けるような白い肌。瀟洒な服に洗練された物腰。

 そして何よりも他者を圧倒するカリスマ性。

 生まれてこの方、ずっと他人を従わせていた者の持つ支配者のオーラを備えていた。


 貧相なイメージで悪いけど、こんな村に出向くよりも、お城のパーティー会場でカクテルを片手に微笑んでいるのが似合うような、”ザ・王子様”の姿がここにはあった。


 私は思わずポーっと見とれてしまった。


 ガチムチは片膝を付いて恭しく首を垂れた。


「殿下におかれましては、我が村に足をお運び頂き、恐悦至極に存じます」

「顔を上げろ、鬱陶しい。ここは王城じゃないぞ」


 面倒くさそうに手を振る王子様。てか、さっきガチムチが”殿下”って言ってたけど、本当に王子様だったりするのかな?


「こんな村の事などどうでもいい。それより兵糧の用意は出来ているのか?」

「はっ。先月ご使者からの指示通り。間違いなくそろえております」


 この王子様は見た目は良いのに口は悪いね。

 そして王子様に言われても頑なに顔を上げないガチムチもどうなんだろうね。

 礼儀としちゃあそっちの方が正しいのかもしれないけど、当の王子様は凄くイヤそうにしてるけど?


「ならいい。屋敷に――家に案内しろ」

「はっ。ごゆるりとお休み下さい」


 屋敷と言いかけてガチムチ邸を見て言い直す王子様。

 なんつーか、この王子様は歯に衣着せぬ物言いで敵を作るタイプと見た。

 ガチムチは立ち上がると・・・チラリと私の方を見た。


 私とガチムチの視線が合った。


 その時、私はとてつもなくイヤな予感がした。

 咄嗟に目を反らす私。

 理由は分からない。強いて言うなら野生のカン? 

 野生というか牙を切られた家畜だけど。野性味ゼロだけど。


 ガチムチが私に送った視線は一瞬だった。

 ガチムチは王子とお付きの使用人を案内してガチムチ邸に入って行った。


 何だろう。良くない事が起こりそうな気がする。


 私はうるさい程心臓の鼓動を感じていた。


 この時の私の直感は正しかった。

 ガチムチは王子をもてなすために家畜を一匹潰そうと考えたのだ。

 そして柵の側で様子を窺っていた私とたまたま目が合ってしまった。


 この瞬間ガチムチの中で、私はメインディッシュの食材にされる事が決定されてしまったのだった。




 何だろう、ヤバい気がする。

 野犬の群れに襲われた時のような、命を狙われている予感が私の心を掴んで離さなかった。

 兄弟豚達もいつもと違ってどこか落ち着きが無い。

 周囲の兵隊達の姿に怯えているのか、はたまた私と同じ不穏な空気を感じているのか・・・


 私はこの時、わき目も振らずに逃げ出すべきだったのかもしれない。

 けど、仮に私が王子のメインディッシュの食材に選ばれた事を知っていたとしても、村がこれ程兵隊に溢れかえっている中を逃亡するのは無理だったんじゃないだろうか。


 私の唯一の武器である魔法。

 野犬の群れを圧倒した魔法だが、ここには魔法の師匠である恐竜ちゃんが何頭もいる。

 彼女達に未知の魔法を使われたら私の力で防げただろうか?


 絶体絶命。


 知らない間に檻の出口は閉じられ、私は屠殺の瞬間を待つだけになっていたのである。


 やがて日が傾き、夕食の準備を始めなければいけない時間がやって来た。

次回「メス豚、分の悪い賭けに出る」

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