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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第一章 異世界転生編
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その7 メス豚、反省する

 村の広場に立つのはパンツ一丁のガチムチだ。

 ムキムキの肉体が暑苦しい。

 そんなガチムチに、これまたパンツ一丁の少年が殴りかかり、頭を張り飛ばされて勢い良く地面に倒れ込んだ。

 うわっ、痛そう~。


「腰が入っとらん! 次!」

「は、はいっ!」


 明らかにビビっている別のパンイチ少年が、若干キョドりながらも前に出た。

 ガチムチに睨み付けられてやけっぱちで殴りかかる少年。

 ガチムチは前に出て少年の体を受け止めると、柔道の払い腰のような要領で放り投げた。


「それで戦場で敵を殺せるか! 次!」


 次に前に出たのは20歳前後の青年だ。やはりこちらもパンイチ。

 てか、なんでみんなパンイチなんだろうな? 乙女としては目のやり場に困るんだがのお。

 まあヒマなんで結局見ちゃうんだけど。


 そう。ここにいる村の男共は全員パンイチの、正に裸祭り状態。

 この世界では、男がパンイチでくんずほぐれつする習慣でもあるんでしょーかね。


 私は柵の外の景色をぼんやりと眺めながらそんな事を考えていた。

 退屈している兄弟豚達がまとわりついて来て非常に鬱陶しい。


 お前は脱柵して村から出て行ったんじゃないのかって?

 そう、今の私は出戻りメス豚。

 結局私は何食わぬ顔で村に戻って、いつもの食っちゃ寝の生活に戻っていたのだった。




 あの夜、野犬の群れを退けた私は、痛む後ろ足を引きずりながらこの村に帰り着いた。

 足を怪我した私にとって、この柵の中以上に安全な場所は考えられなかったからである。

 なにせここは餌を探し回らなくても、三度三度の食事が出て来る文字通りの三食昼寝付き。

 食材として美味しく頂かれる未来さえなければ、ここ程過ごしやすい場所はないのだ。


 いつでも脱柵出来る事が分かった以上、無理をして今、村を出る必要は無い。

 私は遅まきながらその事に気が付いたのである。


 翌朝、怪我をしている私を見付けて、ショタ坊は大慌てだった。

 豚というのはストレスが溜まると他の豚の尻尾や耳をかじる事があるらしい。

 ショタ坊は兄弟豚の誰かが私の足をかじったんじゃないかと考えたみたいだ。


 疑われた兄弟達よ、スマン。お前達は何も悪くないのにな。


 ショタ坊は成分の良く分からない謎治療薬を傷口に塗ると、包帯代わりの布を巻いてくれた。

 ペコペコとガチムチに頭を下げるショタ坊と、そんなショタ坊にここぞとばかりにネチネチと嫌味を言う岩男。


 ショタ坊スマン。お前の監督不行き届きじゃないんだ。

 脱柵した私が悪かったんだ。代わりに謝らせてゴメンな。


 そんなこんなで、私は安全な柵の中でぬくぬくとケガの治療に専念するのだった。




 幸い足のケガは順調に良くなっている。今では痛みを感じる事もなく、こうして普通に歩けているくらいだ。

 しかしあの時は本当に危なかった。

 もしこうして村に戻っていなければ、ひょっとして傷口から炎症を起こして今頃大変な事になっていたかもしれない。


 野生というのは常に命の危険が付きまとう。自由と危険は表裏一体、一枚のコインの裏と表。

 生きるも死ぬも全て自己責任。

 私は手痛い経験をした事で得難い教訓を学んだのである。

 今後はより慎重に行動するとしよう。


 私がそんな事を考えている間も、広場ではガチムチ無双が続いていた。

 てか強いなガチムチ。まさかこれ程とは思わなんだわ。

 お前の強さにドン引きだわ。


 いや、前々から見るからに強そうだとは思っていたけどさ。

 よもやガチムチこの世界最強説?

 あの男にもし正面から挑んだとして、私は勝つ事が出来るだろうか?

 何となくあの暑苦しい肉体には、私自慢の最も危険な銃弾(エクスプローダー)も通じない気がする。


「次!」

「おい、行けよルベリオ」

「あ、は、はい」


 岩男に押されてショタ坊が前に出た。

 実は岩男はさっきから自分の番が来る度に、こうして誰かを人身御供に差し出している。ズルいヤツだよ岩男は。

 ガチムチは自分の息子を腹立たしそうに睨むものの何も言わない。ひょっとして言っても無駄だと諦めているのかもしれない。


 そんなガチムチの苛立ちはショタ坊にぶつけられる事になった。

 見るからにガリでヒョロヒョロのショタ坊は、見ていて哀れなほど綺麗に吹っ飛ばされた。

 さらばショタ坊。

 ハイクを詠め。ナムアミダブツ。



 ガチムチの指示で今度は一対一の組手が始まった。


「おい、ルベリオ。俺の相手をしろよ」

「・・・いいよ」


 岩男はショタ坊をご所望である。ショタ坊さん岩男さんテーブルご指名入りましたー。ショタちゃん飲みたい騒ぎたい! はい!胃腸に関して自信があるある! 漢方漢方一気漢方一気漢方!


 岩男は鍛えていないのが丸わかりの豚のような体だが、それでもガリのショタ坊よりは明らかに力がありそうだ。

 体もデカいしね。


 ちなみに私はさっき”豚のような”と言ったけど、実は豚は見かけによらずいい体をしている。

 その体脂肪率はなんと15%を切る程だ。

 ちなみに女性の体脂肪率は平均で20%を超えるので、世の女性の多くは豚よりも豚な体をしているということになる。

 豚は意外と筋肉質(マッチョ)なのだよ。

 全然鍛えてないのに不思議だね。


 岩男はショタ坊を捕まえると地面に押し倒した。そのまま馬乗りになると顔面にパンチの雨を降らせる。

 ショタ坊はなすすべなく防戦一方だ。

 格闘技の試合だったらレフリーストップが入りそうな場面だけど、ガチムチは黙って見ているだけで何も言わない。

 岩男は殴り疲れたのか、じきに拳が止まってしまった。


 こうして殴っていた方も殴られていた方も疲れ果て、肩で息をしながらの膠着状態となった。

 まあ何というか泥仕合?

 ここで初めてガチムチが二人に近付いた。

 どうやらガチムチは最初からこうなる事が分かっていたみたいだ。


「そこまで! 二人共元の場所に戻れ」


 ガチムチの指示でフラフラと立ち上がる二人。

 顔面を殴られたショタ坊の方は鼻から血を流している。


「では始め!」


 まだ続けさせるのかよ。スパルタだな。

 せめて治療くらいしてやればいいのに。

 しかし、さっきの攻防で息が切れている二人は、じりじりと動くだけで中々攻撃を仕掛けようとはしない。


「どうした! 見ているだけでは相手は倒せんぞ!」


 ガチムチにはっぱをかけられて、ショタ坊が攻め込んだ。

 ショタ坊のパンチを岩男は腕でブロック。腕の痛みに一瞬怒りの表情が浮かんだものの、疲労の方が上回ったのかそのまま掴み合いとなった。

 二人の少年がもみ合うのを見届けると、ガチムチは別の組を見に行った。

 その途端、岩男の腕から力が抜けた。


「おい、適当にやろうぜ。もういいって」

「でもホセさんがやれって」

「うるせえな。俺がもういいって言ってんだろうが」


 岩男は露骨に手を抜き出した。戸惑うショタ坊。


「けど、いつか戦場に行った時のためにちゃんと鍛えておかないと・・・」

「はんっ。どうせお前みたいなチビは何をやったって戦場ですぐに殺されるに決まってるさ。それとももう一回さっきみたいに殴られたいのかよ」


 岩男にドスをきかされてキョドるショタ坊。

 もう鼻血は止まっているみたいだけど、流石にまた同じ目に会うのは嫌みたいだ。


 結局二人は組手の時間中、適当にお茶を濁して過ごすのだった。




 ようやく訓練が終わったのか、三々五々に散って行く男達。

 奥さんや親のいる人は家族が迎えに来ている。

 ショタ坊もお婆ちゃんに連れられて行った。ショタ坊はお婆ちゃんっ子だったのか? 全然知らなんだわ。

 というか、何で急にこんな事を始めたわけ? ガチムチが自分の腕力を自慢したくなったから?

 何ともはた迷惑なヤツだなコイツは。


 ガチムチ親子も家にお帰りである。

 家の外におばちゃんが出迎えに出ている。

 前々からガチムチの奥さんにしては地味な人だと思っていたら、どうやら家政婦さんだったらしい。

 ついこの間、ガチムチ家のオジサンと仲良く一緒に歩いていた。

 どうやら夫婦そろってガチムチ家で働いているみたいだ。

 ガチムチの奥さんはどうしちゃったんだろうね。まあガチムチ家の家庭の事情なんてどうだっていいけど。


「ご苦労様でした」

「うむ」


 ガチムチはおばちゃんの言葉に不機嫌そうに答えた。

 君子危うきに近寄らず。岩男は可能な限り存在感を消した状態で父親の後ろに続いている。


「今まで俺は村の男達を甘やかし過ぎたかもしれん。明日からは毎日今日のような鍛錬の時間を作ろう」


 ガチムチの言葉に岩男が露骨にイヤそうな表情を浮かべた。

次回「メス豚と王子様」

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