表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第三章 対決・亜人狩り部隊編
71/518

その69 メス豚とパイセンの死

 倒れたままぐったりとして動かない亜人の青年――パイセン。

 そんなパイセンの体に騎士団の男が武器を振り下ろそうとしていた。


 私は頭の中が真っ白になって、魔法を使う事すら忘れて飛び込んでいた。


『やめろおおおおおおおお!!』

「な、なんだ?! うおっ?!」

「野犬?! じゃない?! 何だコイツは?!」


 風の鎧(ヴォーテックス)の魔法で身体能力を強化された私は、さながら黒い弾丸となって男にぶち当たった。

 衝撃で背中のピンククラゲ水母(すいぼ)がどこかに吹っ飛ばされていく。


 私は体がバラバラになりそうな痛みを、歯を食いしばる事で懸命に耐えた。


 バシャン!


 濡れた地面に倒れ込む男。

 私は男の体から転がり落ちると、痛みを堪えながら周囲を見渡した。


 この場に集まっているのは5~6人程の男達。

 彼らに守られるように立っているのは、本部テントで見かけたこの部隊の隊長だ。

 そしてパイセンの恋人、亜人の少女モーナ。

 突然私が飛び込んで来た事にも、驚きを感じていないようだ。

 魂が抜けたように、ただジッと地面の一点を見つめている。


 モーナが見つめるその先。

 そこにはパイセンが倒れていた。


 パイセンは力無くぐったりと横たわっている。

 彼の体から流れ出す血が地面に大きな血だまりを作っている。

 無数の傷口は降りしきる雨に洗われ、断面からは白い骨が覗いている。

 どれも酷い傷だが、中でも頭が割られているのが最悪だ。

 最悪、命も――


 その時、パイセンの目が確かに私を見た!


 その目を見た時、私は背筋が凍った。

 まるで死んだ魚や人形の目のように、まるで生気というものが感じられなかったからだ。


 私が息をするのも忘れて固まっている中、パイセンの口からか細い言葉が漏れた。

 それは鋭敏な豚の聴覚を持ってして辛うじて拾えるような、本当に小さな声だった。


「・・・たすけ・・・て・・・」


 それがパイセンの最後の言葉だった。

 パイセンの呼吸は止まっていた。


 15年前、この異世界に転生して来た私の先輩転生者。

 日本のアニメが大好きな、フランス人のアニメオタク

 念願の日本旅行に来て死んだ大学生。

 彼の心残りは、本物の秋葉原を見ずに死んだ事だという。

 本名ヨハン・ド・プニエ。

 この世界での名前はククト。


 かつて異国の地で命を失った青年は、今度は異世界で亜人の恋人を助けようとしてその命を散らした。


 こうしてパイセンは死んだ。




 パイセンの体からは今もじくじくと血が流れだしている。

 だが、心臓が止まった今、それもじき止まるだろう。


 私は目の前の現実を受け入れられなかった。


 パイセンが死んだ? 本当に? 人ってこんなに簡単に死ぬの?


 いや。人は簡単に死ぬ。

 この世界ではいともたやすく人が死ぬ。


 ――違う。


 日本にいた頃の私が知らなかっただけだ。

 あの世界で私達は死から守られていた。

 だから人がこうも簡単に死ぬという事に気が付かなかったのだ。


 人は死ぬ。生き物は死ぬ。咲きほこる花が枯れるように。冬が来て虫が死ぬように。

 あっさりと、簡単に、人は逝ってしまうのだ。


 パイセンが死んだ。


 私のせいか?


 私がパイセンを焚きつけたから?

 あの時、私がパイセンを煽るような事を言って連れ出したから?

 こんな所にさえ来なければ、パイセンは死なずに済んだのか?


 私があんなことさえ言わなければ。

 モーナが待っているなんて言わなければ。

 彼は今でも村でモーナや村人達の帰りを待っていたのか?


 私は顔を上げると、モーナを見上げた。


 パイセンは最後に言った「助けて」と。

 誰を? パイセン自身を? それとも村の亜人達を? それとも――


 クロ子、モーナを助けてくれ。


 パイセンはそう言いたかったのだろうか?

 だったら私は彼女を助けよう。

 パイセンの命はもう救えない。

 ならばせめて彼の最後の言葉を守ってモーナを助けよう。


 死んだ者の言葉を守る事に、何の意味があるのかは分からない。

 だが、ここに地球からの転生者がいて、そんな彼に同じ地球から転生して来た私が出会った。

 その事実に僅かでも意味を見出すためにも、私は彼の遺言を守ろうと思う。

 私が彼に出来るのはそんな事しか無いのだから。

 彼を死なせてしまった私に出来る贖罪は、そんな事しか無いのだから。

 それすらも自己満足に過ぎないのだろうか? だがそれ以外に今の私に何が出来る?


「何だこの豚。頭に変な角が生えていないか?」

「誰かのイタズラか? 全く訳の分からない事をするヤツが――」

極み(エクストリーム) 魔法。EX点火(イグナイト)・改!』


 私に手を伸ばした男を、私は極み(エクストリーム) 魔法で人間トーチにした。

 突然燃え上がった仲間に、男達は声も出せない。

 このド派手な光景に、さしものモーナも思わずギョッと目を見開いた。


『モーナ! 聞こえる?! モーナ!』

「ク・・・クロ子ちゃん?!」


 モーナは初めて私の存在に気が付いたみたいだ。

 驚きに目を丸くしている。


『ここから逃げて! 早く! 村の人達は全員逃げ出している! 私の群れの野犬が彼らの場所に案内するから! 急いで!』

「で、でもククトが――!」


 私の言葉は人間には聞こえない。

 彼らは子豚と話を始めたモーナを不審そうに見た。


 むっ。男の火はもう消えているか。

 発火自体は魔法だが、発生した火、それ自体は物理現象だ。

 極み(エクストリーム) 魔法でも雨の中、濡れたマントを燃やし続ける程の火力は無かったらしい。


 ならばこれだ。


最も危険な銃弾(エクスプローダー)!』


 不可視の弾丸がモーナの腕を掴んだままの男の顔面を捉えた。


 パンッ!


 破裂音と共に男の顔に血の花が咲いた。


「キャアアア!」

「うおっ! 何だ?!」

「まさか魔法か?!」


 悲鳴を上げるモーナ。

 混乱する男達。

 中には察しの良いヤツもいるみたいだ。次々と起こる怪現象を私の魔法だと見抜いたようだ。


 私の声を聞いて若い野犬が駆け込んで来た。

 マサさんの息子のコマだ。


「ワンワン! ワンワン!」

『コマ! モーナを頼んだ! モーナ! この子が案内してくれるから! 行って! お前らは動くな! 最も危険な銃弾(エクスプローダー)乱れ撃ち!』


 パパパパパーン!


 牽制に放った私の魔法を食らって、男達が膝を付く。

 しかし、最も危険な銃弾(エクスプローダー)は彼らの装備に阻まれて致命傷を負わせる事が出来ない。

 かといってEX最も危険な銃弾(エクスプローダー)は、ため(・・)が必要な上に連打が利かない。

 広範囲の複数の敵を制圧するのには向かないのだ。

 私はもどかしさに歯噛みした。


 モーナの視線は、おろおろと私とパイセンの間を行ったり来たりしている。

 てか、まだいたのかよ。

 私の頭にカッと血が上った。


『いい加減にしろよお前! そこにいると邪魔なんだよ! いいからとっとと逃げろや! お前を助けに来た恋人の覚悟を無駄にするつもりか!』

「――!」


 ようやくモーナに私の言葉が届いたらしい。

 彼女はキュッと口を引き絞ると、それでもこちらを何度も振り返りながら走り去って行った。


 ――行ったか。よし。

 これでようやく(・・・・・・・)自由に戦える(・・・・・・)


「一体何事だ!」

「待て! うかつに近付くな! そいつはただの豚じゃないぞ!」


 騒ぎを聞きつけて、騎士団員達が集まって来た。


「気を付けろ! 魔法を使う可能性がある!」

「まさか! コイツひょっとして新種の竜なのか?!」

「分からん! だが仲間がそれでやられた!」


 十重二十重に私を取り囲む男達。

 絶体絶命。逃げ場は無い。

 彼らの殺気で息をするのも苦しい程だ。


 だがそれでいい。


 私はパイセンの死体を背に立ちはだかった。

 パイセンの死体をコイツらから守るように。

 コイツらに、自分達がしでかした過ちを見せつけるように。


 見るがいい。お前達は取り返しのつかない事をした。

 その罪を――私の怒りをその身に受けて死ね。

次回「メス豚、哭く」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 穏やかな心を持ちながら激しい怒りによって目覚めた伝説の豚「パイセンのことか~」 [一言] パイセンの死はピットの死とともにクロ子のこれからの豚生に大きな影響を与えそうな感じですね…。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ