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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第三章 対決・亜人狩り部隊編
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その65 メス豚と救出作戦の始まり

 私の極み(エクストリーム) 魔法。EX点火(イグナイト)・改によって、四つの輜重(しちょう)用テントの一つが業火に包まれた。


「何だ?! 何があった!」

「分からん! 急にテントから火の手が上がった!」


 慌てふためく騎士団員共。


 そうだろうそうだろう。これだけ雨が降っている中、突然物資が燃え出したんだ。

 そりゃあ「何で?」と思うだろう。

 てか、のんびりそんな話をしている余裕はあるのかな?


「喋ってないで火を消せ! 他のテントに延焼するぞ!」


 そういう事。


 誰かの指示で慌ててスコップを手にする男達。

 雨に濡れた土がバサバサと火の中に投げ込まれていく。

 騒ぎを聞きつけて集まって来た者達の手で、火はじきに鎮火するかと思われた。


 周囲にホッとした空気が流れる。 


『ホッとしてもらっちゃ困るのよね。極み(エクストリーム) 魔法! EX点火(イグナイト)・改!』


 ゴウッ!


「うわっ!」

「今度は隣のテントが!」

「なっ?! 一体どうして?!」


 一体どうしてか。それはここに放火犯がいるからなのだよ。


 慌てて火を消し始める男達。

 火勢はみるみる衰えていく。


 ・・・むっ。ヤバイな。

 思っていたよりヤツらの人海戦術が馬鹿にならない。

 残ったテントはあと二つ。

 これじゃロクな時間稼ぎにもなりゃしない。


 私は陽動作戦失敗の予感に、内心の焦りを隠せずにいた。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 転生者ククトは緊張にゴクリと喉を鳴らした。


「い・・・行くか」


 彼は頭の中でもう一度作戦を反芻する。


 自分は見張りに気付かれないギリギリの距離まで野営地に接近する。

 クロ子が騒ぎを起こしたら、その混乱に紛れて敵地に侵入。

 マサさんと呼ばれる野犬の案内で、村人が捕まっているテントを目指す。

 全員を助けたら、そのまま野営地を脱出。山を目指す。

 その後は闇夜に紛れて敵の追手を振り切る。


 ククトは野営地にズラリと並んだテントを見下ろした。

 驚くほどの軍勢だ。


 これだけの数の敵の中に飛び込んで、自分とクロ子の二人だけで村人を救出する?


 あまりに絶望的な状況にククトはめまいがする思いだった。


 やっぱりどう考えても無理だ。不可能だ。

 とても正気とは思えない。


 彼の理性が、知性が、常識が、彼の心を縛り付けた。

 ククトの足は地面に根が生えたようになり、一歩も前に動かなかった。

 呼吸すら困難な緊張感の中、彼はジッと野営地の一角。村人達が連れ込まれたテントを見つめた。


 あの中にはモーナがいる。

 モーナが俺を待っている。


 思い出すのは最後に見た彼女の姿。

 あの時、モーナは茂みに隠れていた自分に気付いていた。

 このまま人間に連れていかれれば、女としてどんな辱めを受けるか分かっていたはずだ。


 なのに彼女は何も言わなかった。


 普通なら泣き叫んでいたっておかしくない場面だ。

 いや。絶対に「助けてくれ」と叫びたかったに違いない。

 けど彼女はそうしなかった。


 それは自分が取り乱すと、ギリギリの所で耐えているみんなの恐怖心が爆発するから。

 そうなれば人間が女達に暴力を振るうのが分かっていたから。


 そして彼女は恋人(ククト)一人では、人間の騎士団相手にどうにも出来ないと分かっていたから。

 実際に声を出していれば、ククトは彼らにあっさりと捕っていただろう。


 だが。それでも叫ぶのが普通だ。

 モーナはまだ15歳の少女なんだから。


 彼女は自分の感情よりも、村の仲間と恋人の安全を優先したのだ。


 ――モーナ。俺は・・・俺はそんなお前だから・・・


 いつの間にか自然に足は前に出ていた。

 ククトは視線の先、村人達が連れ込まれたテントに引っ張られるように、ゆっくりと野営地に近付いて行った。




 野営地のすぐそばの茂み。

 ククトは水たまりの出来た冷たい地面に、先程から腹ばいになって身を隠していた。

 濡れた土は容赦なく彼の体温を奪い、カチカチと歯が鳴るのを止められずにいた。


 クロ子はまだ行動を開始しないのか?


 まさか見つかったのでは、と、最悪の予感が脳裏をよぎる。

 いや、クロ子がそう易々と捕まる訳が無い。そう即座に否定する。


 ククトの頭の中は、壊れたスイッチのように、同じ不安と否定が何度も何度も繰り返されていた。


 その時、キャンプの一部が明るく染まった。


(クロ子が始めたんだ!)


 この異常に見張りも気付いたようである。


「何だ?」

「誰かが火事でも起こしたのか?」


 いくらか距離を取っているとはいえ、テント自体は可燃物の塊のようなものである。

 野営地にとって火事は天敵とも言えた。


「おいおい、随分と火が大きくないか?」

「物資用のテントがある辺りだな。まさか物資が燃えているのか?」


 訳知り顔で適当な憶測を語る見張り。とはいえこの場合は彼の言葉が正解だ。


 クロ子の陽動作戦が始まったのだ。


 やがてここまで騒ぎの声が伝わって来た。


「おいおい、マジか?! まさか敵襲じゃないよな?」

「それこそまさかだ。こんな場所で一体、どこの軍に襲われるっていうんだよ」


(今しかない!)


 ククトは見張りの気が十分に逸れたと判断した。

 彼はなるべく音を立てないように小走りで走り出した。


 簡易な野営地は柵も堀も作られていない。


 ククトは排水用に掘られた溝を飛び越えた。


 流石にここまで近付けば、見張もククトの気配に気が付く。

 と、思われたその時だった。


「ワンワン! ワンワン!」


 野犬の群れが彼と別の方向から野営地に駆け込んだ。


「クソッ! また野犬共だ!」

「おい、そっちに行ったぞ! 野営地に入れるな!」


 絶妙なタイミングだった。

 野犬達のフォローもあって、ククトは誰にも見つからずにテントの陰に隠れる事に成功した。

 ここまでの成功にひとまずホッと一息をつくククト。


(――油断するな。まだまだこれからだ)


 彼は折れた(げき)をお守りのようにギュッと握りしめると、村人達が連れ込まれたテントを目指すのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 私は最後のテントに火をつけた。

 すでに周囲は黒山の人だかりだ。

 彼らの怒涛の人海戦術で、私の起こした火はあっという間に消し止められてしまうだろう。


 マズいな。これからどうしようか。


 ここで粘るか、それとも別の場所で破壊工作を続けるか。


 候補地としては二つ。

 高級士官用のテントを焼くか、もう一箇所の輜重(しちょう)用テントを焼くか。


 とはいえ、士官用のテントには、傷付いた亜人達が隠れている。

 彼らが人間に見つかっても困るし、想定より火事が大きくなれば、テントの中に隠れたまま焼け死んでしまうかもしれない。

 という訳でこっちは却下で。


 かといって輜重(しちょう)用テントの方も問題が無い訳では無い。

 パイセンが救出した村人は、あっちの輜重(しちょう)用テントのすぐ横を通って、山を目指す事になっている。

 そんな場所にここにいる大勢のヤツらを引き連れて行くのは論外だ。

 あっという間に発見されて、救出作戦失敗である。


 一番ベターなのは、この場で騒ぎを起こし続ける事なんだけど。


 その方法が無くなってしまったから困っているんだよな。

 私は八方塞がりに陥ってしまった。

次回「ククトの決断」

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