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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第三章 対決・亜人狩り部隊編
62/518

その60 メス豚、襲撃計画を練る

 山がすっかり薄暗くなった頃。

 ようやく私達は、アマディ・ロスディオ法王国の騎士団のキャンプ地を見下ろせる場所まで到着していた。

 時刻としてはまだ夕方のはずだが、分厚い雨雲のせいで周囲はすっかり薄暗くなっている。


『ちょうどヤツらも山から下りた所か』


 キャンプの中は人でごった返している。

 思っていたよりもかなり大きなキャンプだ。

 雨の中、雨具代わりのマント姿の男達がひしめいている。


 丁度、本日分の給与が渡されている最中のようだ。

 何か所かある大きなテントに人が集まっては、パンと何か良く分からない塊を手渡されている。

 あちこちで鍋を火にかけている所から、スープの具材か何かなんだろう。きっと。


『ここにいるのは騎士団員達だけみたいね。猟犬がいるって聞いてたけど』


 後で分かったが猟犬は――というか、雇われた猟師達は、騎士団のキャンプ地から離れた山の中にテントを張っていた。

 彼らに支給されたのは三角の布を二つ折りにするだけの簡易テントだったらしい。

 そんなものでは濡れてしまうので、彼らは雨を避けて、山の大きな木の下でキャンプをしていたというわけだ。


『猟犬がいないのは好都合だわ。問題はとらわれた村人達がどこにいるかね』


 外で柵にでも入れられていればここからでも見えたかもしれないけど、流石にそんな事はないみたいだ。

 雨ざらしにして病人でも出たら、3密状態にある村人達に一気に伝染し兼ねない。

 それでは誘拐犯達も困るのだろう。

 

 大きなテントがいくつか見えるから、多分あの中のどれかに連れ込まれていると思うんだけど・・・


 想像していたよりも、かなりキャンプ地が広い。

 調査するにしても、私一匹の手には余るかもな。


「どうするんだ? クロ子。お前の計画だと、お前が騒ぎを起こしている間に、俺が村人達を解放するという流れだったが」

『――それは変更なしで。ていうか私らだけで取れる作戦なんて他にないし』


 これが物語なら、商人にでも変装して敵のキャンプに潜り込むんだろうな。

 それでもって兵士に酒を振る舞って、彼らが酔い潰れた所でコッソリ村人を助け出す。

 あるいは油断した敵の隊長を人質に取って、村人の解放を要求する。

 てな所なんだろうけど。


「俺達にそれが出来ると思うか?」

『まあ無理だよね』


 パイセンは亜人で、私は子豚だし。


「ワンワン!」

『黒豚の姐さん。でしたらアッシらにお任せを』

「クロ子。コイツらは何て言っているんだ?」


 ぶち犬マサさんと、その息子犬コマが偵察任務に立候補して来た。

 ちなみに私とマサさんはこうして普通に会話を交わせるが、パイセンとマサさんの間では言葉が通じない。

 翻訳(トランスレーション)の魔法を使っているのは私だから、当たり前っちゃあ当たり前なんだろうけど、こんな時にはちょっと不便だね。


『私の群れの野犬達が村人の居場所を捜して来てくれるってさ』

「ワン!」

「そうか・・・ 頼んだぞ」


 パイセンは半信半疑の様子だ。

 まあ、相手はただの野犬だからな。どこまで信用していいか分からないんだろう。

 私? 私はメス豚だけど、転生者だから。

 魔法も使えるしな。


 パイセンはコマのほっぺたに手を当てた。

 コマは嬉しそうにパイセンに体をすり付けた。


「お、おい、まいったな・・・」


 人懐っこいコマに思わず苦笑いするパイセン。


『じゃあアンタ達頼んだよ!』

『お任せを! 行くぞお前達!』

「ワンワン!」


 元気よく駆け出す野犬達。

 というか、人に説明するときに”私の群れの野犬”って言うのもどうかと思うな。

 今更だけど何か名前を付けた方がいいかもしれない。


『鉄華団とかどうかな?』

「いいんじゃないか?」


 いやいや、ダメだろ。思いっきりガ〇ダムネタだっつーの。

 ボケたつもりがパイセンには通じなかったようだ。

 そういやパイセンはアニメオタクだけど、15年前にこっちに転生してるから、古いアニメしか知らないんだっけか。


『パイセン、シ〇クロ召喚とか知ってる?』

「いきなり何の話だ? いや、知らないが」


 ファイブディーズ時代は分からない、と。


『今は先行ドロー禁止になってるって知ってた? 後、”カ〇ス・ソ〇ジャー 開〇の使者”って、今は制限カードじゃないから』

「だからさっきから何の話をしているんだ?」


 どうやらパイセンはカードゲームは守備範囲外だったらしい。

 なんだよそれ。オタクのくせに。


 私達が微妙に噛み合わないオタク話で暇を潰しているうちに、騎士団のキャンプは大騒ぎになっていた。


「ワンワン! ワンワン!」

「うわっ! どこから入り込みやがったこの野犬共!」

「おい、そっちに行ったぞ!」

「クソッ! アイツら俺のメシを盗みやがった!」

「待てこの野郎! ぶっ殺してスープの具にしてやる!」

「ワンワン! ワンワン!」


 ・・・本当にアイツらに任せて大丈夫なのか?




 10分ほどでマサさん達野犬の群れは戻って来た。


『亜人の連れ込まれたテントを発見しました』


 流石はマサさん。キッチリと任務を果たしてくれたようだ。

 私は微塵も疑ったりしていなかったぞ。うん。


「なあ、あっちでケンカしているヤツらを止めなくてもいいのか?」


 騎士団の食事を失敬して来たヤツがいたらしく、仲間内で食事の奪い合いが発生していた。


「ウー、ワンワン!」


 おおっ。コマが怒って彼らに飛びかかっている。

 いつも自分がパパに叱られてばかりじゃないんだな。

 やるじゃんコマ。見直したぞ。


 しかし、コマがカッコ良かったのはここまで。

 彼は戦っている間に、自分がなぜ彼らに対して怒っていたのか忘れてしまったようだ。

 今では普通に食事の奪い合いに参加している。このおバカ犬め。

 水母(すいぼ)がコマの頭からずり落ちて、地面でフルフルと震えている。


『はあ・・・そんな事より、村人のいるテントってどこ?』

『はい。小さなテントに囲まれたあの大きなテントになります』


 くそっ。よりにもよって一番面倒な場所にあるヤツじゃないか。




 亜人の村人達が連れ込まれたテント。

 それは騎士団員達のテントにぐるりと囲まれた真ん中にあるテントだった。

 キャンプの端っこにある、あっちのテントだったら楽だったのに。


『あれは食料等が置かれているテントですね』

輜重(しちょう)用テントか。なるほど・・・』


 輜重(しちょう)は食糧や武器、装備等の軍需品の事を言う。


「相手の物資を燃やして陽動にするか?」

『やっぱそう思った?』


 映画や漫画なら定番の方法だよね。

 定番って事は有効って事でもある。有効だから広く使われて、広く使われるから定番になったってわけだ。


 山側を上としてキャンプ地を見た場合、輜重(しちょう)用テントは右上と左上の二か所。村人のテントはやや左下になる。

 右上のテントを焼けば、敵は左下の村人のテントから遠ざかる事になる訳だ。

 正にうってつけの場所だな。


『あるいは敵の中枢を叩くか』


 キャンプの中央やや上。

 ひときわ大きなあのテントは敵の司令部のはずだ。

 あのテントの周りの、他より大き目のテント群は、きっと将校の居住区に違いない。

 あそこに攻撃を仕掛ければ、敵の混乱はより大きな物になるだろう。


「それは分かるが ・・・危険すぎやしないか?」


 パイセンの心配も分かる。

 重要人物が集まっている場所は、キャンプで一番警備が厳しい場所でもある。

 騒ぎを起こすどころか、何も出来ずに捕まる危険性も高い。という事だ。


 安全策なら輜重(しちょう)用テント。

 リスクを冒してでも効果を得るなら将校居住区。


 ローリスク、ローリターンか、ハイリスク、ハイリターン。

 果たしてどっちを選ぶべきか・・・ いや。


『いや。ここで決めるような物でもないか。実際に現場に行かないと分からないし』


 まずは私が単独でキャンプ地に潜入する。その上でやれそうなテントを決めてそこを襲う。

 パイセンは事前にギリギリまでキャンプ地に近付いて、騒ぎが起こったら潜入。

 マサさん達野犬の群れはパイセンのサポートと陽動をよろしく。


 パイセンは村人達を解放したら、キャンプの左から脱出。そのまま山まで駆け抜ける。

 上手くいったらマサさんが遠吠えして知らせる。それを聞いた私は逆方向――キャンプ右から逃げる。


 逆にもし失敗した場合、コマが遠吠えして知らせる事にしよう。

 その場合は私が助けに向かうから。

 その時の状況にもよるけど、可能なようなら村人を助けて全員で強行突破を図る。


『――てな感じでどうかな?』

「・・・分かった」


 ゴクリ。パイセンが緊張で喉を鳴らした。


 こうして私達の村人救出作戦がスタートしたのだった。

次回「メス豚、盗み聞きする」

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