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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第三章 対決・亜人狩り部隊編
61/518

その59 メス豚とパイセンの覚悟

 亜人の村人達をさらった武装した奴隷商人共。

 その正体はアマディ・ロスディオ法王国の法王庁。

 人間至上主義を唱える排他的な新興宗教国家だ。

 先ずはヤツらエセ宗教団体にさらわれた村人達を取り戻す。

 その後に実行犯共には然るべき報いをくれてやる。


 彼らは今、雨の中を全力で山を下りているはずだ。


 パイセンの取引先の商人の話では、騎士団は山の麓に大きな陣地を敷いているらしい。

 私が敵の指揮官なら、多少の無理をしてでも今日中にそこまで引き上げる。

 この土砂降りの中、山で野宿をするのはゴメンだからだ。

 数名程度なら適当な岩陰にでも潜り込んで雨風をしのげば良いだろうが、彼らは何百人もの大所帯。しかも捉えた亜人達を率いての野宿なんて、避けるに越したことはないからだ。


 こちらにある程度の数の戦力があるなら、山道を下りる敵を背後から攻撃するのが一番だろう。

 つまりはゲリラ戦だ。視界の悪い山の中では戦力の差が生かし辛い。

 攻撃側が断然有利となるからだ。


 けど残念ながら今、この村に残っているのは子供とお年寄り、それと大きなケガをして置いて行かれた数名の男達、後パイセンだけだ。

 この中でまともに戦力になるのはパイセンくらいか。

 いくらなんでもこれじゃ、戦いにはならない。

 ゲリラ戦は却下である。


 だったら私の取る案はただ一つ。


『私は今からヤツらを追うから。山を下りた所にあるというヤツらのキャンプ。そこを襲って村人達を取り返す』


 そう。なにも真正面からヤツらとやり合う必要は無い。

 私の目的はさらわれた村人達を助け出す事であって、敵のせん滅じゃない。

 もちろんヤツらを相応の報いをくれてやるつもりではいる。が、それは村人の安全を確保した上での話だ。

 優先順位のトップはあくまでも村人の救出。そこだけは譲れない。


 ヤツらが山を下りるころには夕方か夜になっているはずだ。

 それに雨で私らの接近は気付かれ辛いはず。

 襲撃には絶好の条件と言える。


 作戦は単純だ。


 ヤツらが陣地に戻ってホッとした所を襲撃。その混乱に乗じて村人達を脱走させる。

 村人達はそのまま山に逃げ込んでもらう。

 ヤツらの人数がどれだけいるのかは知らないが、夜の山に逃げ込んだ人間を見つけるのは決して容易くないはずだ。




 私の話を聞いても、パイセンは無表情な顔をこちらに向けるだけで何も言わない。

 もう何をしても無駄。さらわれた村人達は戻って来ない。

 そんな風に諦めてしまっているようだ。


 感情の抜け落ちたパイセンの顔を見ているうちに、私は次第に怒りがこみ上げて来た。


『お前、悔しくないのかよ! 村を壊され、家族をさらわれ、恋人もいいようにされて、それでも立ち上がらないなんてお前それでも男か?!』


 パイセンは辛そうに顔を伏せるだけで何も言わない。

 その女々しい態度が更に私の怒りをかき立てた。


『モーナは今でもきっとお前の助けを待っているんだぞ! なのにここで膝を抱えて震えているのかよ! モーナはこんな腑抜けを好きになったのか?! お前あの子に恥ずかしくないのかよ!』


 モーナの名前が出た事で、パイセンは初めて感情を露わにした。

 それは怒り、後悔、焦り、悔しさ、それら全てが混ぜこぜになった、パイセンを突き動かす感情だった。


「お前に何が分かる! 俺は――俺はモーナを助けられなかった! 彼女を見捨てたんだ!」

『違う! まだ彼女は助けられる! お前は目の前の現実から目を反らしているだけだ!!』


 パイセンは勢い良く立ち上がるとテーブルの花瓶を掴んだ。

 それを私に投げつけるのか? いいだろう、やってみせろよ。

 お前のような負け犬の、へなちょこ攻撃が私に当たるもんかよ。


 パイセンは私を睨み付けるだけで何もしない。

 何だ? その花瓶は投げないのか? だったらそれでもいいさ。


『あんたはモーナを助けられなかったんじゃない。助けようとしてもいない。まだそのスタートラインにすら立ってもいないんだよ。もし、彼女を助けたいという気持ちが僅かでも残っているなら私に付いて来い。私の手助けをさせてやるよ』


 私は踵を返した。

 無防備な背中を見せた私に、しかし、パイセンからの攻撃は飛んで来なかった。


 この救出作戦にパイセンは来るだろうか?

 それは彼の気持ち次第だ。

 だが、私には彼の決意が固まるのを待っていてやるだけの時間的余裕がない。

 来るなら来るでいいが、来なくても別に構わない。

 今、救うべきなのは、モーナ達さらわれた村人達であって、パイセンの傷付いた心じゃない。


 私は、何事かと部屋を覗き込んでいた野次馬達を押しのけて、部屋の外に出るのだった。




 村人救出作戦。

 その困難なミッションに果敢に挑む、一騎当千のつわもの達が私の前に集まっていた。

 彼らを代表してぶち犬のマサさんが私に告げた。


『黒豚の姐さん。逃げ出していた(・・・・・・・)群れの者達を集めて来ました』

「ワンワン!」


 そう。集まっているのは、私が群れを率いていた例の野犬共。

 彼らは大量の人間の接近にビビって全員山の上まで逃げていたのだ。

 何とも頼りないつわもの(・・・・)達もあったものである。


 とはいえ、今は致命的に人手が足りない。

 猫の手も借りたい状況な以上、犬の手があればそれを借りるのは当然だ。

 彼らには敵をかく乱する”囮部隊”として役立ってもらおう。


 我が精鋭部隊を見守る村のジジババ達は微妙な表情だ。

 気持ちは分かる。

 ぶっちゃけ頼りない事この上ないからな。

 見るに見かねたのか、家の奥からケガ人達が声を上げた。


「クロ子。今から村のみんなを助けに行くんだろう? だったら俺達も行くよ」

「力になりたいんだよ」


 いやいや、気持ちは有難いけど、君らは寝て無きゃダメなケガ人だからね。

 足なんてフラフラだし、連れて行ったら、山を下りる前にぶっ倒れるに決まってるから。


「! おい、ククト!」


 男の声に振り返ると、ケガ人を押しのけるようにしてパイセンが前に出て来た所だった。

 パイセンはチラリと私を見ると、降りしきる雨の中を村の外へと歩いて行った。


 なんだアイツ?


「ククトあの野郎・・・」

「俺達がケガさえしてなければ」


 歯噛みして悔しがるケガ人達。

 その場合アンタ達も騎士団に連れて行かれてたと思うけどね。


「クロ子、気を付けてな」

「クロ子頑張れ!」


 パイセンのお爺ちゃんと子供達の声援を受けて、私は大きく頷いた。


『任せて! 必ずみんなを連れて戻って来るから!』


 そんな自信は全く無い。大言壮語もいい所だ。


 だが、私の言葉に、残された人達はパッと笑みを浮かべた。

 彼らだって不安だ。人間に村を襲われ、息子や娘、親や兄弟達がさらわれ、人間の国のどこかに連れ去られようとしている。

 みんなもう十分に傷付いている。これ以上の心配も悲しみも必要ない。

 私の言葉で僅かとはいえみんなが希望を持てるなら、私はいくらだって大風呂敷を広げてやるさ。


『さあ、みんな出発よ!』

「「「「「ワンワン! ワンワン!」」」」」


 私は残された村人達に見送られながら村を後にするのだった。

 ていうか、お前らうるさすぎ。みんなの声援が聞こえないんだけど。




『黒豚の姐さん。お待ちを』


 村を出てすぐの所で、マサさんが私を呼び止めた。

 彼の視線の先には雨の中、跪いて頭を下げる後ろ姿の男がいた。

 パイセンだ。


 彼の前にはまだ新しいこんもりと盛られた土の山。

 どうやらパイセンはその土の山に頭を下げているみたいだ。


『パイセンそれは?』

「・・・もう行くのか」


 パイセンは私の言葉には答えずに足元の(げき)を手に取った。

 槍というにはあまりにも短い。

 どうやら襲撃者が捨てていった折れた武器を、パイセンが見つけて持って来たようだ。


「作戦を聞かせてくれ」

『――いいけど時間が無いから移動しながらね』


 細かい作戦なんて決めてないっての。兵は拙速を(たっと)ぶ。

 要は行き当たりばったりとも言う。

 あそこまで大見得を切った手前、カッコ悪いから言わないけどね。



 パイセンは歩きながらポツポツと語ってくれた。

 彼が頭を下げていた土の山。

 あの下には騎士団の襲撃で命を落とした村人達が埋葬されているんだそうだ。


「違う。埋葬じゃない。ただ埋められているだけだ」


 戦いがあった以上、犠牲者も出る。

 圧倒的な戦力差であっさり負けたのが逆に幸いしたのか、死亡した者の数自体は少なかったが、それでも十人以上の犠牲者が出たそうだ。

 その中には村長――モーナのパパもいたという。


「ヤツらは村の外に穴を掘ると死んだ村人をそこに埋めた。死体を放置しておくと疫病が発生するからな」


 どうやら彼らを埋めたのは襲撃者達だったらしい。

 その理由は死体が腐って疫病が発生するのを防ぐため。

 戦場では割と当たり前に行われる行為なんだそうだ。

 この土砂降りの雨の中ご苦労な事だ。


「ヤツらは俺達亜人を言葉を喋る獣としてしか見ていないからな。疫病が流行って亜人という天然資源が減るのを防ぎたかったんだろうさ」


 うわあ。そっちの理由かよ。まあそんな事じゃないかと思ってはいたけどさ。

 ここまで徹底されると、乾いた笑いしか出て来ないね。


「俺はモーナの父親に誓った。必ず彼女を助けると」


 そう言い切るパイセンの顔は、さっきまでの怯えた負け犬のものではなかった。


 私達は降りしきる雨の中、山のふもと――襲撃者のキャンプを目指すのだった。

次回「メス豚、襲撃計画を練る」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] パイセンが助けにいっても死体が一つ増えてただけだけど、どうしたら豚は納得したんだろ 豚が戻る前に起こってた事だから、見捨てず助けに行って死んでたらよかったのか。
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