その50 メス豚とアプデされた魔法
ピンククラゲの手術を受けた私。
無事に手術を終え目が覚めた私だったが、こんな話は聞いていなかった。
『だからなんで四本も生えているのよ!!』
そう。私の頭には黒い四本の角が生えていたのだ。
どうりでさっきから妙に頭が重いと思ったよ!
『必要だったから?』
コマの頭の上でプルリと震えるピンククラゲ。
ピンククラゲの説明によると、私の魔力を受け止めるには角の耐久値では容量が足りなかったんだそうだ。
『否定。一本でも物理的には可能。ただしその場合クロ子の体長と同等の長さが必要となる』
自分の体長と同じ長さの角って。何その生物。怖っ!
ピンククラゲの試算の結果、私の桁外れの魔力を増幅するには数本の角に分けて負荷を逃がす必要があったらしい。
『・・・だったら仕方が無いのかな。けど本当に四本も必要だったの?』
『・・・曖昧な返答』
『おい、今お前なんつーた』
私に凄まれてピンククラゲは慌てて言い訳を始めた。
どうやら私のようなケースは今まで前例がないらしく、ピンククラゲとしても最適な増幅装置であるという自信が持て無かったそうだ。
そこでピンククラゲは試行錯誤を重ねて、この四本の角でどうにか満足のいく結果が出た、という事らしい。
『なっ・・・ それってアンタ手術中に試行錯誤してたって事?』
『肯定』
普通に角を移植するだけの手術なら、本来、五分もあれば終わるそうだ。
つーか、十倍も時間をかけて私の頭を弄っていたのかお前は。
『肯定』
『全く人の頭をなんだと・・・ ハア。まあいいわ』
こうして無事に手術も終わった事だし、最初にちゃんと確認しとかなかった私も悪い。
それに何も考えずに体長と同じ長さの角を移植されるよりはずっとマシだ。
そんなの考えただけでゾッとするわ。
それに四本角ってのもこれはこれでカッコ良いんじゃね?
私は顔の角度を変えながら自分の姿に見惚れていた。
まあ、いくら角がカッコ良くても顔は豚なんだけどな。ブヒッ。
さて。そんなこんなで私達は施設の中の一室にやって来た。
私の魔法の検査をするためだ。
『さっき点火の魔法を使ってみようとしたら、今までにない変な感じがしたのよね』
「ワフワフ」
コマは早速辺りを嗅ぎまわってマーキングをしている。
てかここって私達が最後に戦った角ペリカンのいた部屋じゃん。
まあ角で言ったら今では私も角メス豚になるんだけどな。
角ペリカン先輩ちーす。お部屋に失礼しまーす。
コマが食い散らかした角ペリカンの残骸は綺麗に片付けられて跡形も無い。
水も入れ替えられたみたいで、水面には鳥の羽根一つ浮かんでいなかった。
早速コマが口を付けて水を飲み始める。
どれ私も。
うん。冷たい水が美味しい。
そういや私一週間飲まず食わずだったわ。
特に体が衰弱した感じも無いし、点滴でも打ってくれてたのかな?
そして水面に映ったカッコ良い角に密かに悦に入る私。
『この部屋もモニターしている。異常があればリアルタイムで判明する。いつでも始めて構わない』
ピンククラゲがコマの頭の上で器用にバランスを取りながら私の行動を促した。
私が魔法を使うのが待ちきれない様子だ。
そしてコマの頭の上はもう定位置なのね。コマがいいなら私は別に構わないけど。
さて、どうするか。
やはり最初は初歩的な魔法から始めるべきだろう。
となればさっき使いかけた点火辺りが妥当だな。
私は慎重に魔力を操作した。
来た!
さっき感じたうねりだ!
むっ。待てよ。これって・・・
『じゃあ行くよ。点火』
私の足元に小さな火が付いて――直ぐに消えてしまった。
何の変哲もない点火の魔法だ。
今まで通りとも言える。
ピンククラゲから少しガッカリした様子が伝わって来た。
まあ待ちたまえ。本番はこれからだよ。
『もう一度やるから良く見てて。点火!』
ボッ!
目の前に大きな火柱が上がった。
「キャイン!」
突然の炎にコマが驚いて逃げ出した。
落ちないように慌ててしがみつくピンククラゲ。
『やっぱりそうだったんだ・・・』
派手な結果に呆然とする私。
予想通り、あのうねりはマナの流れだったんだな。
今までも自分で魔法を使ったり、誰かに使われたりした時にはこの流れを感じていたけど、今回のあまりに桁違いな流れにまるで別物のように感じてしまったわけか。
しかし今のはスゴイな。
まるでキャンプファイヤーみたいだったぞ。
私は部屋の隅に避難中のコマに声を掛けた。
『他の魔法も使ってみるから、念のためにそこを動かないで』
「ワンワン!」
さて、ここはやはり私の一番の得意魔法、最も危険な銃弾を試してみるべきだろう。
先ずはいつもの流れを思い出して――こんな感じか?
『最も危険な銃弾!』
私の眉間の前方に空気の渦が発生。渦の中央から見えない弾丸が射出される。
パアン!
弾丸は水面に着弾するとエネルギーを解放。大きな音としぶきを上げた。
よし。成功。
次はさっきと同じく限界まで魔力を込めてみるか。
むむっ。さっきの点火の時よりも格段に操作難易度が高いぞ。
何というか、拳に握り込んだ鉛筆で文字を書いているような感じ?
今まで当たり前に出来ていた細かい操作が出来ないもどかしさに、私の眉間に皺が寄った。
けど・・・よし。行ける。
『最も危険な銃弾!』
その瞬間。私の前面に大きな空気の渦が発生した。
地面の砂や細かな浮遊物が渦の流れに吸い込まれる。
この時点で十分にヤバイのが分かった。
私の毛が恐怖に逆立った。
ドバン!
空気の渦から巨大な空気の塊が飛び、水面を消し飛ばした。
なんつー威力だ。あれだけあった水が跡形もなく弾き飛ばされたぞ。
銃弾っていうよりまるで砲弾だな。
「キャイン! キャイン!」
コマが怯えて腰を抜かす。
てか、あまりの炸裂音に耳が痛い。
狭い部屋の中で使う魔法じゃないなコレ。
角イタチの使ったスタングレネードの魔法並みの音がしたんじゃないか?
まさかこれ程のものとは。
確かにスゴイ威力なのは間違いないけど、使いどころを選ぶなコレは。
その後、私は何度か込める魔力を変え、最も危険な銃弾を放ってみた。
おかげで大分コツは飲み込めたものの、散々試し打ちした部屋の床と壁はボロボロになってしまった。
私は「この部屋の次の住人に悪い事をしたかな」と思いつつ、ひとまず魔法の実験を終えたのだった。
次回「メス豚と新たな仲間」




