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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第十五章 楽園崩壊編
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その515 メス豚と眼下の光景

今回で第十五章も終わりとなります。

 ゴウンゴウンと小さな音を立てて大きな扉がスライドした。

 一瞬、通路の明かりが外に漏れるかもと警戒したが、空からは星の光が消え、薄っすらと青いグラデーションがかかっている。

 長い夜がいつの間にか明けていたようだ。

 これなら光が外の注意を惹く事もないだろう。私はホッと安心した。

 施設の外に一歩足を踏み出すと、早朝の冷たい山風が肺を満たす。

 辺りはまだ薄暗く、空に太陽は登っていない。静かで平和な山そのものである。

 湿った土の匂いと青臭い草の匂い。そしてチチチという小鳥の鳴き声が耳朶をうった。

 

「ワンワン! ワンワン!」


 黒い猟犬(ブラック・ガンドッグ)隊の犬達が、待ってましたとばかりに走り出す。

 あちこち匂いを嗅いでは、せっせと縄張りの主張を始める。犬だしな。しゃーなし。


「なんか代わり映えのしねえ景色だなぁ。俺達って本当にそんな長い距離を移動したのか?」


 クロコパトラ歩兵中隊(カンパニー)の大男、カルネがキツネにつままれたような顔で辺りを見回した。

 振り返ると他の隊員達も似たり寄ったりな表情をしている。

 私はブヒッと鼻を鳴らした。


『施設の外に広場もないし、山の景色だって全然違ってるでしょ』

「ンな事言われても、あの時は暗かったし、景色なんて全然覚えてねえよ。大体、ピカッと光ったと思ったらもう別の施設に来ているなんて言われて、ピンと来ないのも仕方がねえだろう?」


 カルネの言葉に隊員達もそれぞれ頷いた。


「こっちの施設もほとんど変わらない部屋だったからな。周りで見ていた楽園村の連中が消えてなければ、何かの理由で失敗したんじゃないかと思ってた所だぜ」

「何とかえんじんだっけ? 離れた場所まで一瞬で移動出来るのってスゴイよな」


 何とかエンジンじゃなくてコントロール・エンジンな。

 全く、何度言えば覚えるんだか。


 青い鳥(ロワゾブリュ)ことロワからの説明を聞き終えた私は、一度施設の外に出てクロカンの隊員達と合流した。

 そうして元の場所まで戻ると、ロワに頼んでこっちの施設まで送って貰った。

 転送自体はさっきカルネが言っていたように一瞬で終わった。

 別位相に送られた物質が安全に存在していられるのは0.07mm/秒だけで、その時間が過ぎれば、あちらの物質とぶつかって爆発してしまう。むしろ一瞬なのが必然なのだ。


 とまあ、そういった訳で我々は無事、こちら側の施設――楽園村のご先祖達がもともと住んでいた山へと到着した。

 ここにいるメンバーは私とクロカン。そして黒い猟犬(ブラック・ガンドッグ)隊の犬が十匹程と、槍聖サステナと女戦士マティルダである。つまりはいつもの顔ぶれという訳だ。

 ロイン達義勇兵と二等兵(プライベート)には村人達の護衛を任せている。

 施設の中にさえいればカロワニー軍には決して見付からないのだが、戦える人間が全員いなくなってしまえば残された者達の間に不安が広がってしまうかもしれない。

 村人達のメンタルケアのためにも、彼らには残って貰う事にしたのである。




 さて。楽園村のご先祖の故郷に着いたはいいが、ここは一体どこなんだろう?

 人の手の入っていない山というのは、基本、足場が悪くて見通しも良くない。


『ここがどこなのかはロワも知らなかったのよね。こういう時こそ、スマホのGPS機能が欲しい所なんだけど』

「クロ子、あそこからなら下を見下ろせそうだ」


 クロカンの副隊長ウンタの声に振り返ると、彼の指差す先に地面の切れ目が見えた。

 どうやらあの先が崖になっているようだ。

 黒い猟犬(ブラック・ガンドッグ)隊の犬が一匹、嬉しそうにワンワン吠えて私達を呼んでいる。


『どれどれ――って、アレは何だ?』


 崖の上から見下ろすと、下に整地された地面と建物が見えた。

 イメージとしては寺院? 広い土地の中に整然と建物が立ち並んでいる。

 一瞬、砦かとも思ったが、それにしては堀や防御壁が見当たらなかった。


「どれどれ? 確かに村にしては変だな。家の向きがキレイに揃い過ぎてやがる」

「それに畑も少な過ぎるんだよな。あんな風に土地を余らせている理由なんてないよ」

「あ、人が歩いている。一応、住んでるヤツらはいるんだな」


 確かに。薄暗くて細かい所までは見えないが、住人らしき人間が歩いているのが見えた。

 住人――つまりあそこには人間がいるという訳だ。

 副隊長のウンタが私に振り返った。


「クロ子、どうする?」

『人がいるなら、ここの情報を得るためにも接触したい所だけど・・・今のあんた達の姿じゃそれも無理よねえ』


 そうでなくても、全員いかつい(・・・・)傭兵スタイルだというのに、この一ヶ月の戦いの間に、傷だらけのボロボロになっている。

 こんな集団が山から降りて来たら、山賊が襲撃しに来たのかと思われそうだ。


『面当てを失くしちゃっている者も多いし。亜人ってバレるのも面倒だしなあ』


 最近忘れがちになっているが、亜人は人間から迫害を受けている。

 いきなりのトラブルは避けたい所である。

 ウンタは思案顔になった。


「となると、あそこに向かうのは人間であるサステナとマティルダか」

『それと私もな。水母(すいぼ)、いつものボイチェンお願い。【おーい、サステナ! そんな所でご飯食べてないで、ちょっとこっちに来てくんない!?】(CV:杉田〇和)』


 私は石に腰かけて謎メシを食べていたサステナに声をかけた。


「モグモグ。なんでいクロ子。メシくらいゆっくり食わせろって」

『【何食べてたの? 美味しいモノ?】』

「ん? コレか? ただの干し芋だぜ。二等兵(プライベート)のトコの家族から貰ったモンだよ」


 サステナは抜け道での防衛戦で二等兵(プライベート)達を助けて大活躍しらしい。その話を聞いた家族から、お礼にとくれた物なんだそうだ。


「モグモグ。欲しいなら半分やるぜ」

『【え? ホントにいいの? ありがと。モグモグ】』

「・・・サステナ。そんな事よりアレを見てくれ」


 仲良く干し芋を頬張り出した私とサステナに、ウンタは呆れ顔で建物を指差した。


「あそこに行って情報を集めて貰いたいんだが――って、おい、どうしたんだ?」

「おい・・・マジかよ。俺は頭がどうかしちまったんじゃねえか?」


 サステナは手に持っていた芋をポロポロ落とすと、身を乗り出して謎の建物を見つめた。

 おいよせ、勿体ない。


『【モグモグ。お芋落ちたわよ。いらないんなら私が貰うけど? モグモグ】』

「信じられねえ。だが俺が見間違えるはずはねえ。だとするとここは――」


 サステナは私の言葉も耳に入らないのか、夢中でブツブツ呟きながら建物に見入っている。


「――どけ! 邪魔だ!」

「サステナ!? おい、どこに行く! 一体何に気付いたんだ!」


 サステナは周囲を見回すと、不意に走り出した。

 その勢いに、落ちたお芋を拾おうと寄って来ていた犬達が蹴散らされる。


『【サステナ! お芋! モグモグ。だからお芋を落としてるって! モグモグ】』

「うるせえ! ンなモン欲しけりゃ好きなだけ勝手に食ってろ!」

「サステナ! 一体どうしたと言うんだ!?」


 突然の出来事に隊員達が驚く中、サステナは藪をかき分けながら、一直線に走った。

 やがて彼は立ち止まると「はははっ!」と乾いた笑い声をあげた。


「はは、コイツは悪い冗談だぜ。転送とかなんとか、正直言って眉唾物だと思ってたんだが・・・実際にこうして見えている以上、もう信じるより他ねえよな」

「見えているって何がだ?」


 隊員達が集まって来ると、サステナは山の向こうを顎でしゃくった。

 そこには定規で引いたような白い直線が――人工建築物と思わしき物が見えた。


『【モグモグ。モグモグモグモグモグモグ】』

「いや、クロ子。飲み込んでから喋れよ」

『【モグモグ――ゴックン。あれって多分、砦か町の市壁(しへき)か何かなんじゃない】』


 直線の先にピョコピョコと建物の尖塔らしき物が見えている事から、多分間違いないだろう。

 サステナはニヤリと笑うと「惜しいぜ」と言った。


「あれは市壁(しへき)じゃねえ、城壁だ。そしてあの先にあるのは砦でも町でもねえ。この国の王都ケッセルバウムだ」


 王都ケッセルバウム!?

 サステナの落とした爆弾に、我々は一瞬、頭の中が真っ白になってしまった。

 てか王都ってマジで?


「マジもマジ、大マジよ。そしてここはバルドリド山。そこの崖から見えた建物はサッカーニ流槍術の中心地。サッカーニ流の総本山だ」


 サッカーニ流槍術の総本山。以前サステナから、王都近くの山にあるとは聞いていたけど、まさかあれがそうだったなんて。


「確か七十年くらい前に、王家の所有していた山を拝領してそこに総本山を建てたとは聞いていたが・・・まさかその山ん中に亜人の村があって、それが今回の件に関わっているとはな。世の中何がどこでどう繋がるか分かったモンじゃねえな」


 サステナはそう言って口元を歪めたが、いやお前、全然笑い事じゃねえから。

 王都のすぐ近くって、こんな所を誰かに見付かりでもしたら――


「ひいいっ!」


 小さな声に振り返ると、粗末な服を着た少年が、我々に驚いて逃げ出す所だった。

 少年の向こうには、彼と全く同じ恰好をした少年達の集団が見えた。


「ああ、ありゃあウチの門下生だな。朝稽古で山登りをさせられてたって所か」


 ウンタは私に振り返った。


「クロ子」

『【・・・見付かっちゃったモノは諦めるしかないんじゃない? ここはサステナを信じて、交渉を彼に任せる他ないでしょ】』


 まさかカロワニー軍から逃げた先が、この国の王都のすぐ近くだったとは。

 なる程。カロワニーがあそこまでトンネルを求めた訳である。

 この時の私は立て続けの戦いと驚きの連続に、神経が少しガバになっていたのかもしれない。

 私は「なるようになれ」という開き直りにも似た気持ちで、逃げて行く少年達の後姿を見つめるのだった。

 クロ子達が新たな舞台に到着した所で、『第十五章 楽園崩壊編』は終了となります。

 次の章ではサッカーニ流の総本山と関わったクロ子が、新たな戦いに巻き込まれる予定です。

 それと同時にイサロ王子と狂騎士ドルドの戦いも書く事になるでしょう。

 長かった楽園村を巡る攻防もようやく決着がつきましたが、この国でのクロ子の戦いはもう少しだけ続きそうです。

 今回で『メス豚転生』の更新はしばらくお休みしますが、別作品の更新がキリの良い所に到達し次第、再び戻って来ますので、それまで気長にお待ち頂くか、その間、私が書いた他の小説を楽しんで頂ければ幸いです。

 後、まだブックマークと評価をされていない方がいらっしゃいましたら、この機会に是非、よろしくお願いします。

 それと、作品感想もあれば今後の執筆の励みになります。「面白かった」の一言で良いので、こちらもよろしくお願いします。

 いつも『私はメス豚に転生しました』を読んで頂きありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
15章執筆お疲れ様でした。 今回もとても楽しく拝読させていただきました。 また続きを読める日を楽しみにしています。
15章お疲れ様でした 村を焼いたり人間の軍隊とやりあったり、大変でしたな 裏切り者のおじの方は語られなかった?けど、何かしらの制裁は受けたのかしらん そして攻め込んできたほうはざまあ どのみち手を出…
十五章お疲れ様でした。 今回もなかなか苦しい状況の中なんとか乗り切った感じですが、果たして楽園村の皆の安息の地はあるのか? トパーズの姫とは? 次も楽しみにしてます。
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