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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第二章 修行編
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その47 メス豚、秘密を打ち明ける

 前人類の対人インターフェースを名乗るピンククラゲ。

 彼(彼女?)の語る先史文明の最後に私はショックを受けていた。


 あれ? 実はそれほどショックじゃないかも。

 地球にそんな歴史があったら人類史がひっくり返る程の大ニュースだったと思うけど、ここは子豚に生まれてまだ半年も経っていないろくに馴染みも無い異世界だ。

 せいぜい「へえ、こっちの世界では過去にそんな事があったのね」と思うだけだったりする。

 そもそも、人類の成り立ちがどうのこうのと言われても、今の私はメス豚だし。

 ぶっちゃけ他人事だよね。




 さて。こうしてこの惑星に残されたのは、DNAレベルで魔核の削除処置を受けて誕生したデミ・サピエンス。ショタ坊達今の人類である。

 魔法を失った彼らには既に魔法科学文明を維持していくだけの能力はなかった。

 やがて栄華を極めた魔法科学文明はこの惑星から静かに消滅していったのだった。


 こうして長い文明の黄昏の時代に入った人類だったが、彼らの中に極まれに先天的に魔核を持つ者達が誕生した。

 これは完全に当初の想定外。本来ならあり得ない現象であった。

 彼らは遺伝子改造を受ける前、魔核が肥大化する前の前人類の特徴を色濃く受け継いでいた。

 中途半端なサイズの魔核や鼻から下が突き出した顔がそれにあたる。

 ある種の先祖返りを遂げた彼らは、集落の中で大切に保護され、次第にその数を増やしていった。



 その後、一度都市国家レベルまで衰退した人類は徐々にだがその数を増やしていった。

 やがて都市国家は争いの中で成長、統一国家――国が生まれ、人類は新たな文明を築き始める事になる。

 今の人類社会の誕生である。

 こうして前人類の記憶は完全に歴史から忘れ去られていくのだった。


 さて。前人類の特徴を残す者達は最初は手厚く保護されていたが、人類の中で前人類の記憶が薄れる中、次第に扱いが変わっていった。

 彼らは異分子として人間から差別を受けるようになっていったのだ。


 彼らは人間とは異なる存在、”亜人”と呼ばれて虐げられた。

 そう。彼らこそがパイセン達亜人のご先祖様なのである。

 亜人の正体は前人類に先祖返りしたデミ・サピエンスだったのだ。

 つーか、どっちかといえば彼らの方が本来の人類に近いんだけどな。


 そこからはお約束の展開だ。

 彼らは自分達の集落を追われ、仲間達で集まって隠れ住むようになる。

 血は濃くなり、彼らはより前人類へと近付いていく。

 その姿がさらに今の人類の差別意識を助長していく。

 負のスパイラルの誕生である。



 ちなみにこの施設、”魔核性失調症医療中核拠点施設”は、現在はほぼ全ての施設の機能が死んでいる。

 まともに残っているのはピンククラゲが管理する、この”魔力増幅機能開発部”だけである。


 ”魔力増幅機能開発部”は、文字通り魔力を増幅する機能を開発する部署だ。

 具体的には、外科手術で脳から魔核を部分的に切除。

 弱った魔核の力を補うために増幅機能を移植して従来通りの力を取り戻す。

 そんな研究と開発を目的として作られた部署だったようだ。


 魔法生物達の頭に埋め込まれていた角は、ここで研究中の”魔力増幅機”だったんだな。


 ちなみに外科手術で魔核を取り除いても”魔核性失調症”は発症してしまう事が判明していた。

 どうやらDNAレベルで魔核を取り除かないと意味が無いらしい。

 そのため研究の有用性は割と初期に否定されてしまったんだそうだ。

 とはいえ、これはこれで学術的には有意義な研究だったらしい。そのため研究自体はプロジェクトを縮小して細々と続けられる事になった。


 研究施設がことごとく死滅した今、辛うじて残ったのがここだけっていうのも何だか皮肉な話だな。




 さて。ここまでがピンククラゲが語ったこの施設の目的と前人類の末路だ。

 後、ついでに今の人類と亜人の成り立ち。

 この世界の人間達が知ったら到底受け入れられないような内容だろうな。

 特に新興神アマナを奉じる人間至上主義の宗教国家、アマディ・ロスディオ法王国なんかは黙っちゃいないに違いない。


 お前は信じるのかって?


 まあ、壮大なスケールの話だとは思うけど、別にどっちでもいいっていうか。

 だって私はメス豚じゃない?

 それにホラ、ここって魔法が存在するような異世界だし。何があってもおかしくないっつーか。

 ぶっちゃけ何でもアリのアリアリなんじゃね?


『クロ子は哺乳綱(ほにゅうこう)・豚? それとも人?』


 ピンククラゲが私に尋ねた。

 おっと、この質問がまだ残っていたか。


 さて、どう答えるべきか。


 適当に答えてもいいけど、正直言ってピンククラゲの話は私の想像以上だった。

 これ程の情報をくれた相手に、ウソをついたり誤魔化したりするのは流石に誠意に欠ける気がする。


 ・・・まあいいか。


 こんな場所に一万年も引きこもって研究をしているような相手だ。

 今更私の情報を与えても悪用される心配はほとんどないだろう。

 だったらここは私の精神衛生上、正直に答えるべきかもしれない。

 そもそも相手はコンピューターのプログラムのようなものだから、故意に個人情報を漏洩させる事も無いだろう。

 大体、彼を生み出した前人類が一万年も前にこの惑星からいなくなっているんだから、誰が私の情報を悪用するのかって話だよな。


 とはいうものの、話が終わった途端、「知りたい事は知ったしお前はもう用済みだ」とばかりに攻撃を仕掛けて来る可能性もゼロではない。

 なにせ相手は謎の前人類が作った謎の対人インターフェース。

 念の為に戦う覚悟だけはしておいた方がいいだろう。


『私は――どっちでもないしどっちでもある。今の私は”豚の体に人間の記憶が宿った存在”だから』


 ベチャリ。


 ピンククラゲが床に落下する音が響いた。




 どうやらピンククラゲは驚きのあまり魔法操作が途切れてしまったようだ。

 彼の様子は気になるが、中途半端なところで説明を止めると変な勘違いをされかねない。

 ここはそのまま説明を続けるべきだろう。


 こうして私はピンククラゲに今までの出来事を話した。


 私は元々別の世界で人間の女子であった事。

 向こうで死んだ際、自分でも良く分からない理由でこの世界に転生していた事。

 何故か豚の体に転生していた事と、今でも前世の記憶を保持している事。


 かいつまんで説明する私の言葉を、ピンククラゲは何も言わずに黙って聞いていた。


 こうして私の短い話は終わった。


 ピンククラゲはゼリーみたいにプルプルと震えている。

 果たしてちゃんと理解してもらえただろうか?

 何一つウソはついていないので、信じてもらえなくてもどうにもならないんだけど。


理解不能(かんがえられない)判断不能(そんなことあるの?)


 どうやら彼は強いショックを受けているようだ。

 宙に浮かぶ事すら忘れて、床の上でブツブツと呟いている。


 しかしピンククラゲのこの様子から察するに、この世界に転生して来た異世界人は余程珍しいんだな。

 私は自分とパイセンという例を二人も知っているから、ワンチャンこの世界では転生者も珍しくないのでは? などと思っていたが、どうやらそういう事もなさそうだ。


『この世界には私以外の異世界転生者は確認されていないの?』

不明(しらない)。この端末は該当するデータを取り扱っていない』

『異世界は専門外だからデータが無いって事?』


 ここが元々医療用の施設なら当然か。


否定(ちがう)。基本情報の中に異世界に関するデータは存在する。異世界の存在は観測によって既に証明されている』

『えっ?! どういう事?!』


 ピンククラゲの話によれば、前人類はこの世界とは異なる世界の存在を確認、観測する所までいっていたらしい。

 その世界には自分達とよく似た人類と文明が確認されていたそうだ。

 マジか。前人類の魔法科学スゲエな。


 それもあって、ピンククラゲ的には私が元々異世界人であった事に驚きはなかったそうだ。

 そんな事よりも彼は、豚の脳に人間の記憶が定着している事にショックを受けたようだ。


『驚いたのそっち?!』

前例無し(しんじられない)。生物の記憶のコピーは不可能。否定されている』


 どうやらSF映画とかでよくある、人間の頭脳をコピーされたコンピューターは、前人類の文明をもってしても実現不可能だったようだ。

 ピンククラゲによると、原則として生物の記憶は曖昧すぎて数値化不可能とされているんだそうだ。

 数値化――しきい値の設定が出来ない物はデータ化も出来ない。

 良く分からないが生物の記憶というのはそういう扱いらしい。


『不可能も何も、実際に私は前世の記憶を持っているんだけど?』

『・・・データ不足。検体・クロ子の観測の継続を決定』


 うぉい! アンタなに本人を目の前にしてストーカー宣言してくれちゃってるわけ?!

次回「メス豚、移植手術を受ける」

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― 新着の感想 ―
[一言] 記憶は調べようがないから、継続調査で検証するしか無いよなぁ
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