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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第十四章 楽園村の戦い編
478/518

その475 メス豚とホモォ話

 バリケードの上からクロコパトラ歩兵中隊(カンパニー)の隊員達が身を乗り出すと、私達を手招きした。


「クロ子! こっちだ! 早く!」

「どうしたんだ急げ! そんなんじゃ敵に追いつかれるぞ! クロカン、クロ子達を援護するぞ! 魔法銃構え! 撃て!」


 パン、パパン!


 乾いた音と共に魔法銃の射撃が行われる。


「ぎゃっ!」

「うわっ!」

「下がれ! 後退だ!」


 どうやら私達を追っていた敵兵は足を止めた模様。

 私はその隙にヒラリヒラリと身軽にバリケードを駆けのぼった。

 そうしてバリケードの上までのぼると、私は背後のサステナに振り返った。


『【ほらほら、サステナ。何やってんのよ、あんたも早く上って! 敵は直ぐ後ろにいるんだから! ハリーハリー!】(CV;杉〇智和)』

「ヒイヒイ、ハアハア、う、うるせえ。わ、分かってるっての」


 サステナは息も絶え絶えになりながらバリケードに手を掛けた。

 その情けない姿に私はブヒッとため息漏らした。

 襲撃の際には大活躍だったイケオジも、退却時にはとんだお荷物。

 私の手厚い介護がなければ、退却する部隊に付いて来られずに、敵中に置き去りにされていた事だろう。

 そんなサステナをフォローしているうちに、いつの間にか私は一人で(一匹で?)殿(しんがり)を務める羽目になってしまったのだ。


『ま、苦労をかけられた分、サステナには明日からもバリバリ働いて貰うけどね。それはそうとクロカンの分隊長達は?』

「クロ子、お疲れ。ここにいるのは俺だけだ。ついさっきまで他のヤツらもいたけど、ウンタの指示で今は各自、分隊の隊員達を連れて自分の持ち場に戻っているぜ」


 私の問いかけに、線の細い感じの青年亜人――第七分隊隊長のハリィが答えた。

 どうやら私がサステナを連れて逃げ回っている間に、ウンタが指示出しをしてくれていたようだ。助かる。


『分かった。こちらの被害はどうだった?』

「それなら全員無事に戻って来てたぜ。何人かはケガをしていたが、戦えない程の酷いケガを負った者はいなかったみたいだ」


 味方の犠牲者はゼロか。これはちょっと予想外。随分と嬉しい誤算だ。

 正直、義勇兵辺りは、戦場の恐怖と興奮でパニック状態になり、はぐれてしまう者が出るんじゃないかと心配していたのだが。

 それが全員戻って来られたという事は、余程クロカンの隊員達が彼らに気を配ってくれていたのだろう。


「ヒイヒイ、し、死ぬかと思ったぜ」


 サステナがクロカンの隊員達に支えられながらこちらにやって来た。

 そういえばいつの間にか周囲が静かになっている。どうやら敵は追撃を諦めて引き上げたようだ。

 辺りもすっかり暗くなっているし、こちらの伏兵を警戒しているのかもしれない。


『【サステナもお疲れさん。この様子だと今日はもう戦いはないと思うから、後は私達に任せて休んで頂戴】』


 もしも今日の襲撃におけるMVPを決めるのなら、間違いなくサステナが選ばれるだろう。

 それ程サステナの上げた戦果は圧倒的。中でも敵軍のエース、【ベッカロッテの二鳥槍】をたった一人で討ち取ったのは大きかった。(【(とび)色の】マルテールに関しては私のサポートもあったけど)

 これをサッカーで例えるならば、敵チームは試合開始直後に主力選手が負傷退場、ないしはレッドカードを貰って一発退場したようなものである。

 チーム全体としての戦力ダウンはもちろんの事、残されたメンバーが受ける動揺もバカにならない。

 私達にとっては理想的。いや、想定以上の成果と言えるだろう。


『【あ、そういえば――】』


 二鳥槍と言えば。私はふと思い出した事を彼に尋ねてみた。


『【戦いの前に、二鳥槍から逃げた逃げたと煽られてたけど、あれってどういう事だったの?】』

「ん? ああ、あれか」


 サステナは苦虫を噛み潰したような表情になった。


「以前にヤツらからかなりしつこく挑戦を受けていたのは事実だ。まあ、全部シカトしてたんだがな」


 サステナが言うには、彼の流派、サッカーニ流槍術はこの国の王家に公式に認められた武術流派なんだそうだ。つまりはヒッテル王家御用達槍術、という訳だ。

 ペドゥーリ伯爵領は【西の王都】を自認する程、王家に対して愛憎入り混じる複雑な感情を抱いている。

 誤解を恐れずにザックリ言ってしまえば、『勝手にライバル視している相手』といった所だろうか?


『【サステナが鬱陶しがる気持ちも分かる気がするけど、そんなにしつこく挑戦されてたのなら、いっそ要求を受けて黙らせてやろうとは思わなかった訳? 別に命懸けの決闘を挑まれていたって訳じゃないんでしょ?】』

「あーまあ、普通ならそれでもいいんだがよ。試合で叩きのめしてやりゃあ、どんなバカや跳ねっ返りでも格の違いってのが分かるもんだしな。だが、今回は相手があの(・・)二鳥槍だぜ? 何せヤツらはカロワニーと、ホラ、コレ(・・)だからよ」


 サステナはそう言うと、左手の人差し指と親指で輪を作り、そこに右手の人差し指をスポスポと出し入れした。

 え? あれ? それってひょっとして・・・

 つまりはそういう(・・・・)意味って事?

 ええっ? マジで?

 男同士でくんずほぐれつ、ベッドの中でアレをコレするような。つまりはそういう関係だったと?

 私は思わず二鳥槍の二人の、2・5次元系の耽美な容姿を思い出した。


『【ホモォ・・・】』

「ま、そういうこった。普通にブチのめすだけならともかく、もしも試合で相手の体に傷でも残そうものなら、しかもそれが顔だったりした日にゃあ、ヤツらの恋人に――この土地の最大の権力者に――いらん恨みを買っちまう。ンな面倒しかねえ試合、誰がやるかっつーの」


 なる程。サステナが二鳥槍を毛嫌いしていた訳である。

 そして二鳥槍がサステナを「逃げた」と批判していた理由も分かった。

 サステナ的には権力者の私怨を買うのがイヤで試合を避けていただけだったのだが、それが二鳥槍には理解出来ていなかったのだ。

 それどころか二人はサステナが自分達に負けるのを恐れて試合から逃げているものと思い込んでしまった。

 どうりで、二鳥槍が一対一でサステナに挑んだ訳である。

 戦場なんだから別に二人がかりで戦えばいいのに、あくまでも彼らは一対一の戦いにこだわった。それはサステナが自分達を恐れている――自分達の方がサステナよりも強い、という大前提が彼らの中にあったからではないだろうか?

 それもまあ、二人が死んでしまった今となっては確認のしようもないのだが。


「ん? だが黒髪の方は・・・いや、あの深手で無事で済むとも思えねえ。多分、俺の気にし過ぎだろうな」


 サステナは奥歯に物が挟まったような物言いで、最後は言葉を濁してしまった。


「まあそれは別としても、俺はああいうヤツらが苦手なんだよ。男同士でチ〇コをしゃぶり合うとか、マジで頭の中身を疑うぜ。気色悪いったらありゃしねえ」


 サステナは眉間に皺を寄せると、心底イヤそうに吐き捨てた。

 おい、流石に今のはいかんぞ。現代は多様性に配慮する事が求められる時代。私のSNSが炎上したらどうしてくれるんだ。




 一部サステナの不適切な発言はあったものの、概ね事情は分かった

 二鳥槍は自分達の力量を見誤り、格上の相手に挑んで敗れた。

 最初から二人でかかれば、サステナだって倒せたかもしれないのに。

 己惚れダメ。絶対。後、舐めプもダメ。

 人の振り見て我が振り直せ。二鳥槍には是非、私の反面教師になって頂こう。

 神妙な面持ちになった私の背中で、ピンククラゲがフルリと震えた。


『着信報告――「クロ子、戻っているか? こちらウンタだ。無事に戻っているなら話がある。物見やぐらの所まで来てくれ」』


 クロカンの副隊長ウンタからの連絡である。

 私は彼に『了解。今から向かう』と返事をして通話を終えた。


 てな訳で物見やぐらに到着。

 そこにはウンタの他には亜人兄弟の弟ハリスと、兄弟の父、この楽園村の村長ハリスパパが待っていた。


『ハリスパパ否定(じゃない)、ユッタ』

『そうそうユッタね、ユッタパパ』


 私は水母(すいぼ)の指摘に適当に相槌を打つと彼らに声を掛けた。


『それで何? ひょっとして通信では話せないような事でもあったの?』


 ウンタはハリスに振り返ると、彼に発言を促した。


「あ、あの、クロ子! さっきここで、気になる事を見つけて! それで父さんにも話を聞いて、ええと、それでクロ子達にも知らせておかなきゃと思って!」

『ちょ、落ち着いて。気になる事って何?』

「先ずは見て貰った方が早いだろう。やぐらの上に上ろう」


 私達はえっちらおっちら。粗末な梯子を伝ってやぐらの上に上った。

 暗闇の中、敵陣で焚かれているかがり火が、煌々と周囲を照らしている。

 こんな状況でなければ、なかなかに郷愁を誘う、風情溢れる光景と言える。

 ウンタが私に尋ねた。


「人間の陣地で気になる所はないか? 敵の偏りというか、そういった点で」


 敵の偏り? ああ、そう言えば三か所程、不自然に明るい場所があるな。

 明るい、イコール、そこだけかがり火が多い。つまりはこちらの襲撃に備えている場所、という事になる。

 それらは全て、川を挟んで東側。東側と言えば、昼間、敵の攻撃が不自然に激しいと感じた場所だが――


『そうか! そういう事だったのか!』


 そこまで考えて私はハッと目を見開いた。

 私はバカか。てか、なんでこんな簡単な事を思い付かなかったんだ。

 急いでハリスに確認しなければ。いや、違う。ハリスは父親に話を聞いたと言っていた。ならば私が問いたださなければならない相手はハリスじゃない。ユッタパパだ。


『ユッタパパ! 教えて! あの場所。特に灯りが多いあの東側の三か所って、もしかして――』

「はい。多分、井戸がある場所だとおもいます」


 やっぱり。

 大軍を擁す敵軍にとって、最重要問題は飲み水の確保。

 敵がどういう手段を用いたのかは不明だが、間違いなくあの場所に井戸があるという事を前もって知っていたのである。

 昼間、川の東側だけ妙に敵の圧力が強かったのはそのため。

 三か所の井戸を――大軍が消費する水を確保するためだったのである。

 愕然とする私にユッタパパはおずおずと尋ねた。


「ハリスに聞かれた時にも思いましたが、これってそんなに大事な事なんでしょうか? 水がいるのなら村の真ん中に川が流れていますし、いくらでも使えると思いますが」

『――私が敵の指揮官なら、絶対に兵士にこの川の水は使わせない。煮沸してもダメ。上流から毒を流されたらイチコロだから』

「ど、毒って! まさかそんな事をするつもりだったんですか?!」


 村長であるユッタパパにとって、村の水に毒を流すというのは信じられない暴挙に思えたのだろう。

 毒を流すかどうかで言えば、そんなつもりはさらさらなかった。

 なぜならここは行きずりの土地ではない。カロワニー軍を追い払ったら、楽園村の村人達がそのまま生活を続けなければならない場所なのである。

 そんな場所の川に毒を流してしまっては、後々どんな悪影響が出るか分からない。

 川から流れた毒が周囲の畑の土壌を汚染し、農作物に被害を及ぼす、なんて事があってもおかしくはないのだ。


『敵に川の水を使わせないだけなら、別に毒なんて撒く必要はない。川底に腐乱死体を沈めておくだけで飲み水として使えなくする事は出来るわ』


 実際、私はそうするつもりだった。

 川の上流に位置している我々には影響はゼロだし、毒と違って環境への影響も考えなくて済む。

 戦いが終わった後、用なしになった死体を片付ければ万事解決。そう考えていたのだが・・・敵が井戸を確保した今となっては、この策が効果を発揮するとは思えなかった。


『くそっ! やられた!』


 私は悔しさに歯噛みした。

 こちらがカロワニー軍に被害を与え、【二鳥槍】という敵の切り札まで討ち取る事に成功した時、敵は飲み水の確保という最大の目的を達成していたのである。


 楽園村を巡る初日の戦い。果たして有利に終えたのはどちら側なのか。

 未だ戦いの渦中であがく我々に分かるはずもなかった。

この章も残り二話となります。


次回「イサロの東征」

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