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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第十四章 楽園村の戦い編
462/518

その459 メス豚と長老会

 私がクロコパトラ歩兵中隊(カンパニー)の隊員達から作業の進捗状況を聞いていると、人の良さそうな中年男性がやって来た。

 亜人兄弟の父親、この村の村長、ユッタパパである。

 村人との話し合いは済んだのだろうか?


「みなさん、ちょっとよろしいでしょうか? クロ子ちゃん、あなたに是非お礼を言いたいという人を案内して来ました」


 私はブヒッと振り返った。


『ブヒッ? じゃなくて、私に?』

「やっぱり! あんたあの時の子豚だね?!」


 ユッタパパを押しのけるようにして姿を現したのは、ちょっとお歳を召されたオバサン。

 はて? どこかで見た事があるようなないような・・・

 私の背中でピンククラゲがフルリと震えた。


該当者(アレだよ)第一村人(アレアレ)

『んっ? ああ、火事の中から赤ん坊を助けていたあのオバサンか!』

「そうともさ。アンタのおかげで私も孫も助かったよ。クロ子だっけ? どうもありがとうよ」


 オバサンはそう言うとペコリと頭を下げた。


『いえいえ。無事だったのならなにより。それよりあの時は時間が無くて安全な場所まで送れなくてゴメンね』

「何を言っているんだい。他の者達を助けに行ってくれていたんだろ? あんたが謝るような事じゃないよ」


 そう。実はあの時、私が略奪兵から助けたのは、このオバサン以外にも何人かいたのだ。

 とはいえ、わざわざお礼を言いに来たのはこの人だけ。

 こちらも、村が人間の軍隊に襲われていてそれどころじゃない、というのは分かっているので、気にもしていなかったのだが。


「んな訳ないだろ。そいつらにも礼を言いに行くよう言っといたからね。そのうちここに来るだろうよ」


 なんと。わざわざそんな事してくれなくても良かったのに。

 律義と言うか、妙に義理堅いオバサンである。

 オバサンは次にクロカンの隊員達に向き直った。


「それとメラサニ村の面々。アンタ達にも、ユッタの息子達を無事に連れ帰って来てくれた事、長老会を代表して礼を言うよ。そちらの二人は人間のようだが、アンタ達のお仲間なら私らの客だ。歓迎するよ」

「あ、ありがとう」

「おうよ」


 女戦士マティルダは戸惑った顔で慌てて、槍聖サステナはいつものようにふてぶてしい態度で、それぞれオバサンに返事を返した。


「本当なら村をあげてもてなしたい所だが、申し訳ないが今はそういう状況じゃないからね。窮屈な思いをさせる事になってしまって済まないね」

「そんな事気にするなって。悪いのは全部カロワニーのヤツらだ。アンタやこの村の人間のせいじゃねえよ」

「カルネの言う通りだ。それよりクロ子。この人は話が通じそうだ。こっちの作戦を説明して協力して貰ったらどうだ?」


 ふむ。ここはウンタの言う通りかも。

 こっちで全部やるつもりだったのは、あの時は説明している時間がないと思ったからで、今となっては今日中には敵の攻撃がなさそうだという事が分かっている。

 オバサンが所属している長老会とやらが何なのかはサッパリだが、字面の印象では村でも権威がありそうな組織のようだ。

 だとしたら協力して貰うのもやぶさかではない。いや、むしろ協力して貰うべきだろう。こちらとしても動き易くなる訳だしな。

 よし、決めた。説得して味方に引き入れよう。


『そういや、まだ名前を聞いてなかったわね? 長老会のオバサマ』

「な、なんだい急に妙な猫なで声なんて出して。気持ち悪いね。私の名前かい? エノキだけどそれがどうかしたのかい?」

『エノキのオバサマ。オバサマは今、お困りの事があるんじゃありません? 大きな問題に頭を悩ませていますよね? ならば是非、我々にご協力を。ご心配はいりません。オバサマに必要なのは我々を信用し、全てを任せる事だけ。我々はあなたにベストなアイデアをご提案致します。経験豊富。実績バツグンの我々クロコパトラ歩兵中隊(カンパニー)にお任せを。今なら黒い猟犬(ブラック・ガンドッグ)隊もセットと大変お求めやすくなっていますよ』

「ちょ、この子一体どうしちまったんだい? ちょっと、誰か! 誰かこの子を止めとくれ!」


 グイグイ迫る私に、エノキおばさんは助けを求める悲鳴を上げたのだった。




「クロ子。調子に乗り過ぎだ」

『ムグムグムグ(うっす。サーセン)』


 私は副隊長ウンタから口にお芋を詰め込まれ、ようやくお喋り(セールストーク)を止めた。

 第一分隊の分隊長、大男のカルネはドヤ顔で荷物の中からお芋を掴み出した。


「ホラな。出発前に館の調理場から芋をくすねておいて正解だっただろ? て、コラ! クロ子、テメエ!」


 私は『風の鎧(ヴォーテックス)!』。身体強化の魔法をかけると、カルネの手からお芋を奪い取った。


「んなコトのために身体強化を使ってんじゃねえ!」

『ムグムグムグ(てへぺろ)』


 私は可愛く舌をチョロッと出すと食事に戻った。

 なんだろう。今日はいつもよりやけにお芋が美味く感じるんだが。

 って、あっ! そういや村を襲った略奪兵と戦ってからこっち、何も食べてなかったわ。

 マジかよ。結構、あちこち走り回ったし、魔法もバンバン使ったのに。

 カロリーが、カロリーが足りひん。体が燃えるようなカロリーを私に。


「分かった分かった。焦るなホラ。これで全部だ」

「ブヒーッ! ブヒーッ!」

「・・・遂に言葉も忘れたか。哀れなヤツ」


 小山となったお芋を前に、豚のように(いや、豚なんだが)興奮する私。

 呆れ顔のカルネにちょっとだけカチンと来たがスルー。今の私はカルネに文句を言うよりもお芋。お芋が私を呼んでいるのだ。


「ふう、やれやれ・・・だがまあ、言いたい事は大体分かったよ。まあ、大枠の所は事前にそこにいるユッタから聞いていたんだけどね」


 エノキおばさんは小さくため息をつくとウンタに振り返った。

 

「この件についてだけど、アンタ達から直接村の者達に話をして貰えないかい? 正直、私もユッタから聞かされてもピンと来ていなかったし、似たような顔をしていた者達も多かったからね」

「俺達は別に構わないが・・・構わないよな? クロ子」

「フガッ、フガッ、フガッ」

「ええと、多分、構わないと言っているんだと思う」

「そうかい? 私には食事の邪魔をするなって言っているように聞こえたけど?」


 惜しい! 正解は『食べ終わったら行く!』でした。

 おっと、今ので五秒のタイムロス。急いで口に詰め込まねば。


「仕方がないな。おい、カルネ」

「おう、分かった。クロ子、お前はそのまま食ってろ。俺が運んでやるからよ」

『モグモグ、モグモグ(頼んます)』


 カルネは私のお腹に手を回して抱き上げた。その拍子に私の口からポロリ。お芋の欠片が転がり落ちる。

 おっと勿体ない。パクリ!


「痛っっってえーっ! テメエ、クロ子! 俺の手まで噛んでんじゃねえよ! 見ろよコレ! 血が出てるじゃねえか!」

『モグモグ(ごめんごめん)。ペロペロ』

「あ~! 芋だらけの舌で傷口を舐め回すな! 汚ねえだろうが!」

「騒ぐなカルネ。痛むようなら後で誰かに治療して貰え。ほら、行くぞ」

「くそっ。覚えてろよクロ子」


 カルネはぶつくさ文句を言いながらも、それでも私を落とす事なく運んでくれたのであった。




 我々が案内されたのは村の南端。険しい斜面に建てられた大きな建物だった。

 何でもこの村で最も昔に建てられた建物で、昔は村人全員でこの家に住んでいたんだそうだ。


『築七十年か。モグモグ。日本で言えば立派な古民家よね。モグモグ』

「クロ子お前、食べるか喋るかのどっちかにしろよ」


 じゃあ食べる事にするわ。モグモグ。

 ちなみにこの建物。今は村の共同施設、いわゆる公民館のような使われ方をしているそうで、住んでいる者はいないとの事だ。

 建物を見上げる我々(それとお芋を食べる私)に、エノキおばさんは振り返った。


「誰も住んでいないと言っても、全部の家具が片付けられている訳じゃない。という訳で、アンタ達にはここに泊まってもらう事になるが、構わないかい?」


 亜人の隠れ里である楽園村に宿屋なんて物があるはずもなく、しかも我々は四十人からの大所帯。どうしても寝泊まり出来る場所は限られて来る。

 多少、建物は古かろうが、立派な屋根があって壁もある。これ以上の待遇を求めるのは贅沢というものだろう。


『モグモグ(おっけー)』

「いや、いつまで食べる気だい、アンタは」


 いつまで食べる気かと言われると、その気になればいつまででも、と答えるしかない。

 なぜなら豚には満腹中枢が存在しないから。

 とはいえまあ、とりあえずは満足したかな。


『モグモグ、ゴクン。じゃあ次がシメの一個で』

「・・・まだ食うのかよ」


 カルネは呆れながらも、律義に私の口までお芋を運んでくれた。ありがと。モグモグモグ・・・

 その時、公民館の中から、ヒゲ面のいかついオヤジが現れた。


「おいユッタ! そいつらは余所者じゃねえか! この大変な時にそんなヤツらを連れて来るなんて、お前一体何を考えてやがるんだ!」

「うるさいよジャド。この人達は私が案内して来たんだよ」

「エノキ婆さ――いや、エノキさん。あ、あんたが案内って、それは長老会の決定なんですかい?」


 ユッタパパに食って掛かったヒゲ面のオヤジことジャドは、エノキおばさんに睨まれてタジタジになった。

 ここで長老会の名前が出る辺り、結構、権威のある集まりなのかもしれない。

 やっぱり味方に付けとくべきだな。こりゃ。


「・・・クロ子。あんたのその目、何か(よこしま)な事を考えているんじゃないだろうね?」


 エノキおばさんはジト目で私を睨んだ。

 (よこしま)な目って、信用ないのね私。

 エノキおばさんが「どきな」と前に進むと、ヒゲ面のジャドは渋々道を空けた。


「ユッタ。お前には後で話がある」


 しかし、目の前を通り過ぎようとするユッタパパに、誰にも聞こえないよう、小声で凄むのだけは忘れなかった。

 誰にも聞こえない声なのになんで分かるのかって? ノンノン。豚の聴覚を甘く見て貰っちゃ困るぜ。私にだけはバッチリ聞こえていたっての。

 ここでエノキおばさんはチラリと背後を振り返ると、「ふん」と鼻を鳴らした。


「ジャドのヤツめ。釘を刺しとかないといけないかもね」


 ああ、うん。私にだけ聞こえていたっていうのは言い過ぎだったみたいね。

次回「メス豚、見限る」

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