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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第十四章 楽園村の戦い編
460/518

その457 メス豚と戦いを忘れた人々

◇◇◇◇◇◇◇◇


 ここは楽園村の奥にある古い大きな建物。

 昔は何世帯もの家族が住む共同住宅――いわゆる長屋のようなものだったが、村の生活が豊かになるにつれ、村人達は次第に自分の家を持つようになり、ここを離れていった。

 こうして誰も住む者がいなくなった建物は、今では村の集会所として使われるようになったのであった。




 いつもは閑散としている集会所が、今日に限っては多くの村人でごった返していた。

 突如、楽園村を襲撃した人間の軍隊。

 この村が設立して以来、最悪、最恐の大事件。

 この場に集まった誰もが不安も露わにしながら最新の情報を求めていた。

 そんな中、危険を押して現場の様子を見に行っていた者達が、村長のユッタと共に戻って来た。


「人間は?! 人間の軍隊はどうなったんだ?!」

「村は大丈夫なの?! 私達はどうなっちゃうの?!」

「みなさん! みなさん落ち着いて下さい! 今分かっている事をこれから説明しますから!」


 村長のユッタは、必死の形相で詰めかけた村人達をなだめると、背後の男衆達に振り返った。


「君達。先ずは君達が見て来た事をみんなに説明して貰えるかな?」

「分かった、村長。人間の軍隊だが、俺達が村はずれに到着した時はもう誰もいなかった」

「ああ。家はヤツらに荒らされていたし、焼けてしまった家もあったが、人間の姿はどこにもなかった。この目で見て来たから間違いない」

「クロ子が人間の軍の指揮官を倒したと言ってたから、多分、慌てて引き上げたんじゃないかな」

「「「クロ子?」」」


 村人達は初めて聞く奇妙な名前に戸惑いの表情を浮かべた。

 ヒゲ面のいかつい中年男性がここにいる者達を代表して周囲を見回した。


「お前らはそいつが人間の軍を追い払ったって言うんだな。おおい、誰かそのクロ子ってヤツの事を知っている者はいるか?!」


 村長のユッタは慌てて男の言葉を遮った。


「いや、待ってくれ。クロ子ちゃんは村の者じゃない。山の外から来たんだ。メラサニ村の人達が連れて来た黒い子豚の名前だよ」

「黒い子豚?! 黒い子豚だって?!」


 声は野次馬の列の後ろ、村の年寄り衆の中から聞こえた。

 人混みをかき分けて現れたのは、矍鑠(かくしゃく)とした印象の初老の女性だった。


「人間達の軍を追い払ったのは、黒い子豚で間違いないんだね?」

「エノキ婆さ――ジロリ――おっと、エノキさん。そういや、さっきアンタとアンタの孫娘を助けてくれたのは、頭に角を生やした喋る子豚だって言ってたっけか」

「角が生えた喋る子豚? それなら間違いない。クロ子ちゃんだよ」

「やっぱり! ホラ見た事かい! 喋る子豚はいたんだよ! アンタ達、さっきはよくも人の事を、頭を打ったんじゃないかとか、煙で意識が朦朧としていたんじゃないかとか、寄ってたかって散々言ってくれたもんだね! 私の言った通りじゃないかい! 人間達を倒した子豚はやっぱりいたんだよ!」


 初老の女性――エノキは、まるで鬼の首を取ったかのように勝ち誇った。

 気まずそうにしているのは、彼女の話を馬鹿にしていた者達だろう。彼らは一様に顔を背け、エノキの目に入らないよう、人影に隠れた。


「そ、そんな事よりユッタ。山の外から来たってどういう事だ? それに、メラサニ村って何だ?」


 ヒゲ面の村人は慌ててユッタに尋ねた。

 男の魂胆は――どうにか話を誤魔化したいという思惑は――見え見えだったが、実際、ユッタとしてもいつまでもエノキ婆さんの自慢話に振り回されている訳にも行かない。

 とはいえ、どう説明すれば上手く伝わるのだろう?

 ユッタは思わぬ難題に頭を抱えるのだった。




 ユッタはどうにか説明を終えた。

 見回した感じでは、一応、村人達も納得した様子である。


「じゃあ、人間の軍隊は村から出て行ったんだな?」

「村はもう安全なのね?」


 外から来た別の村の亜人達にも興味はあるが、それよりも今は自分達の安全確保が先である。

 村人達の疑問に、ユッタは慎重に答えた。


「クロ子ちゃんは、人間の兵が村から逃げて行くのを見たとは言っていた。だけど僕は人間達がまだ村の周囲にいる可能性は十分に高いと思っている。だから安心するのは早いんじゃないかな」

「そ、そんなぁ・・・」


 泣きそうな顔になる女性達。

 中には実際にすすり泣いている者もいる。

 それはさておき、村長のユッタは一見、線が細くて頼りなさそうな印象にも関わらず、楽観的な希望に逃げずにちゃんと厳しい現実に向き合えているようだ。

 この辺り、こう見えても指導者としての資質があるのかもしれない

 それでもクロ子辺りに言わせれば、敵が目の前にいるというのに、まだこんな風に話し合いをしている時点で、周回遅れ感も甚だしいのかもしれないが。


「それでユッタ。これから俺達はどうすればいいんだ?」

「そうだね。それなんだけど――」


 それについては、ユッタもここに来るまでにずっと考えていた。

 そして彼は、クロ子達メラサニ村の亜人達に相談に乗って貰うべきだ、と決めていた。

 ユッタは村人達にもそう説明したが、この場の反応は芳しいものではなかった。


「だがよユッタ。確かにそいつらも俺達と同じ亜人なのかもしれないが、所詮は他の土地で生まれ育った余所者だろ? そんなヤツらにこの村の事を相談しても大丈夫なのか?」

「そうとも。それに人間の軍隊が現れたその日に、他の村の亜人達まで現れたなんて、ただの偶然にしてはちょっと出来過ぎなんじゃねえか?」

「? 偶然じゃなきゃどうだって言うのよ?」

「ひょっとしたら人間達を呼び込んだのはそいつらかもしれないって事さ。そいつらは人間に協力してこの村を乗っとるつもりかもしれんぞ」

「そんな! 酷いわ!」


 差し迫った危機が目の前から去ったせいだろうか。全体的に村人達は保守的な方向に心が傾いているようだ。

 だがそれらは全くの的外れと言える。まだこの村から危険が去った訳ではないのだ。


 現代の日本でも、大雨や台風の際、農家の人が田んぼや畑、水路を見に行って事故で亡くなるという例が後を絶たないという。

 増水した水が田んぼに流れ込むと稲が根腐れをおこす。それに大雨の後、水路に流れ込んで来た砂や泥、木くずなどのゴミを撤去するのも大変な作業となる。

 彼ら農作業のプロはその苦労を良く知っているため、「今のうちに処理出来るなら」と考え、雨の中、田んぼや水路に確認に行ってしまうのだ。

 彼らは大雨の中、外に出るのが危険な事は分かっている。そのつもりでいる。

 だが、彼らは農業のプロ――自分達の生活に関わる件については詳しいのかもしれないが、事故に関しては全くの素人。

 ましてや命に係わる危険に関しては、経験すらした事のない者がほとんどなのである。


 楽園村に住む亜人達は、何世代にも渡ってペドゥーリ伯爵家の庇護下で安全に暮らして来た。

 彼らは命の危険を知らない。

 人間による迫害を経験した世代は既にこの世を去り、今、この村には戦いを忘れた人々しか存在していなかった。

 

 どこかピントの外れた議論を繰り広げる村人達。

 村長のユッタは、直感的にこれが良くない傾向だと気付いているものの、どうすることも出来ずに見ている事しか出来なかった。

 あるいは彼にもどうすれば良いか、具体的には分かっていなかったのかもしれない。

 指導者の資質があるとはいえ、彼もこの楽園村に生まれ育った村人。村の外の世界を知らないという点では、周囲の者達となんら変わりがなかったからである。

 空回りするばかりで答えの出ない話し合い。そんな空虚な時間を吹き飛ばしたのは、集会所に駆け込んで来た村の中年女性の叫び声だった。


「大変! 大変よ! 村に私達以外の亜人がやって来たの! 人数は四~五十人くらいかしら? それも全員が全員、まるで人間の軍隊みたいな恰好をしているの!」


 それがどうした、という目を向ける村の者達。

 ここにいる者達は正に今、その件について話し合いを続けている真っ最中だからである。

 だが続く女性の言葉に、彼らは顔色を変えた。


「その亜人達があちこちで私達の村を壊しているの! 止めようにも全く話を聞いてくれなくて! 誰かどうにかして頂戴!」

「なんだって?!」


 村長のユッタは慌てて男衆を率いて集会所を飛び出したのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


「おおい、クロ子。こんなもんでどうだい?」

『ああうん。いいんじゃない』

「なんだよ、随分といい加減なんだな」


 私の適当な返事が気に入らなかったのか、クロコパトラ歩兵中隊(カンパニー)の魔法使いハリィこと第七分隊の隊長ハリィが不満顔を見せた。


『そう言われてもねえ。私の目にはガラクタを積み上げただけにしか見えないし』

「そりゃまあ、実際にその通りなんだけどさ」


 ハリィの背後。そこには小屋を潰した廃材が、大体、背の高さくらいになるまで積み上げられていた。


「うぉら! どっこいしょーっと! おい、ハリィ! てめえサボってんじゃねえぞ! ホラ、材料を運んで来たぜ! ここに置けばいいんだな?!」


 クロカンの大男カルネが大きな柱を担いで来ると、適当な場所にえいやと放り投げた。

 その衝撃で廃材が破壊されると、ガラクタの一部がバラバラと崩れ落ちた。


「うおっ、危ね! カルネ! 乱暴に投げるんじゃねえよ! 折角積み上げた物を壊すつもりかよ!」

「おっと、悪ィ、悪ィ」


 カルネは仲間の非難の声に、慌ててこの場から逃げ出した。

 全く、カルネめ。考えなしな事をしおって。

 カルネと入れ替わりに槍聖サステナがやって来ると、青い壁の家を指差した。


「おう、クロ子。ここが終わったんなら、あの辺。あの家とそっちの家の間の細い通り。あそこも塞いどいた方がいいぜ。大通りからの抜け道になってやがる」

『おっけーおっけー。ハリィ、今の話を聞いたわよね? 次はあっちをシクヨロ』

「へいへい。全くウチの隊長は人使いが荒いぜ。おおい、みんな行くぞ」

「「「おー」」」


 ハリィは分隊の仲間に声をかけると、サステナの指示した通りに向かった。

 私達は何をやっているのかって?

 見ての通り。ガラクタを積み上げて即席のバリケードを作っているんだよ。

 なにせ楽園村の周囲には、堀もなければ柵すらもない。

 完全な丸裸。剥き出し状態である。

 戦う以上、村に被害を出さないのがベストだが、流石にこれでは無理ゲー過ぎる。

 だったら村の外で戦う? んなアホな。

 そんな戦力があったら最初から苦労してないっつーの。

 という訳で、我々は敵が村に侵入してくるのは諦める事にした。村の一部を占拠されるのは、防衛上、必要なコストとして許容する事にした。

 その上で市街地戦(村だけど)を仕掛ける。このバリケードはそのための舞台作り。敵に制限無しに自由に動かれると、普通に数で圧倒されてしまうからな。


『てか、もう少し時間に余裕がありゃなあ~。そしたらメラサニ村の防衛戦で培ったノウハウを生かして、色々作ってやったのに。大体、村に到着した途端、敵の先遣隊が襲撃して来た所にバチコリ遭遇とか、ンなモン、ハードモードにも程があるだろうが』


 なんかこの世界っていっつも私に対して理不尽過ぎやしない?

 これが異世界転生モノなら、転生したらチート盛りでイージーモードってのがパターンなのにさ。

 現実はフィクションに(あら)ず。

 ホンマ、現実はクソゲーだわ。

次回「メス豚と楽園村の地理」

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