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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第十四章 楽園村の戦い編
457/518

その454 メス豚、呆れられる

 私はクロコパトラ歩兵中隊(カンパニー)のみんなより、一足お先にロイン達亜人兄弟の故郷、楽園村に到着した。

 ようやく来たぜ楽園村!

 しかし、村には人間の兵士達が侵入し、略奪に励んでいる最中だった。

 私は村に飛び込むと、出会い頭に彼らに攻撃魔法を叩き込んで行った。

 そうこうしているうちに、見るからにこの部隊の指揮官と思わし集団を発見。

 私はこれ幸いと彼らをまとめて始末し、ついでにちょっとばかり調子に乗っていた事を反省したのだった。




 そんな訳で現在。

 私は村の中を走り回り、略奪中の敵兵を見つける度に彼らに攻撃魔法を叩き込んでいた。

 反省前とやってる事が全く変わらないって? だったら他にどうしろと?

 おっと、そんな事を言っているうちに敵兵発見。


最も危険な銃弾(エクスプローダー)!』

「えっ?! ぎゃっ!」


 何というか、コイツら揃いも揃って同じリアクションなんだよな。

 まるで無警戒というか。

 自分が反撃を受けるとは思っていなかったんだろうか?

 この様子からすると思っていなかったんだろうな。

 所詮、相手は山野に隠れ住む獣のような原人達。そんな劣った生き物が、我々人間様に敵うはずがない。逆らうなんて考えるはずもない。

 そんな風に亜人達の事を見下していたに違いない。

 確かに亜人は数の上でも装備の面でも人間には敵わない。それは事実だ。

 だが、一寸の虫にも五分の魂。戦場ではその手の思い込み、自軍への過信、敵への侮りが兵士を死に(いざな)うのだ。


最も危険な銃弾(エクスプローダー)!』

「ギャアアアア! 腹が! お、俺の腹が!」


 お腹の破れた兵士が、腹圧に押されて飛び出して来た内蔵を、血まみれになりながら必死に手で押さえている。

 グロ注意。

 お前がやったんだろうって? まあそうなんだけどさ。


 その時、村のどこかで、ブオー、ブオー、と角笛の音が鳴り響いた。

 これは村のお昼の時間――じゃなくて、この世界の軍隊で使われている合図である。

 私は素早く周囲を見回すと、適当な木のてっぺんまで駆け上がった。

 そのどこか物悲しい角笛の音色に誘われたのだろう。村の外ではアオーン、アオーンと野犬達の遠吠えが重なっている。

 マサさん達、黒い猟犬(ブラック・ガンドッグ)隊の犬達か。てか、みんな案外、村のすぐ近くまで来ていたんだな。


『・・・やっぱり今のは撤退の合図だったか』


 私の視線の遥か先。村からバラバラと兵士達が現れると、山の中に消えて行く所だった。


『おそらく、さっき私が殺した指揮官達の死体を誰かが見つけたって所か。で、連絡係の兵士が慌てて撤退の合図を出した、と。大体そんな感じかしらね』

概ね同意(せやな)


 私の背中でピンククラゲがフルリと震えた。

 あ、しまった。

 私は去っていく敵兵を見つめているうちにふと気が付いた。

 あの時はついカッとなって、後先考えずに略奪兵達を攻撃してしまったけど、今頃ウンタ達、クロコパトラ歩兵中隊(カンパニー)の隊員達も、この村を目指して近くまで来ているに違いない。


 こりゃマズイな。たまたまみんなが撤退中の敵兵と鉢合わせしてしまったらどうしよう。


『ねえ水母(すいぼ)。ここからみんなのいる方向って分かるかな?』

『要請受諾。捜索中――捜索中――捜索中――』

『あ、うん。ダメそうならあまりムリしないで』


 私は水母(すいぼ)が処理落ち中のスマホみたいになっているのを見て慌てて彼を止めた。

 まあ、あっちにはマサさん達、猟犬ブラック・ガンドッグ隊もいるし。人間ごときに見付かるような事もないだろう。信じているぞ、マサさん。




 そのままぼんやりと木の上で待つ事三十分ほど。

 いい加減焦れて、こっちから捜しに行くべきかと考え始めた頃、私は遠くに人の声を聞いた。


「――大丈夫だ。人間達の姿は見当たらない」


 声のした方向を見下ろすと、手斧や棍棒を手に持った亜人の男達の姿があった。

 武器と呼ぶにもショボイ装備。見るからに村人でございといった感じの素朴な服装。彼らはこの楽園村の住人で間違いないだろう。

 第一村人発見。といった所か。

 男達はおっかなびっくり。ビクビクと辺りを警戒しながら村の中を探索し始めた。

 彼らのいかにも腰の引けた情けない姿に、私はブヒっとため息をついた。


『そんなにビビらなくても大丈夫よ。兵士達ならとっくに村から逃げちゃったから』

「だ、誰だ!」


 私の声に男達は文字通りビクリと飛び上がると、慌てて周囲を見回した。


「女の声?! 人間か?! ど、どこだ! どこに隠れている!」


 ではご要望にお応えして。私は木の上からヒラリと屋根の上に飛び降りた。

 地面に降りなかったのは念のため。急に目の前に現れた私に驚いて、攻撃して来られでもしたら困るからだ。

 それに私の魔法は殺傷力が高い。

 うっかり反撃でもしようものなら、村人達との関係が取り返しのつかないものになってしまう。

 お互いの安全のためにもソーシャルディスタンスは守らないとな。


『俺だよ俺。オレオレ詐欺かっちゅーねん』

「角の生えた子豚? えっ? ひょっとしてこの黒豚が俺に話しかけているのか?」


 人の事を豚豚と、レディーに向かって失礼な。

 まあ実際、豚なんだけど。

 私はメス豚に転生しました。今更、言うまでもないか。

 目を丸くして私を見上げる男の周囲に、仲間の男達が集まって来た。


「一体どうした? 何があった?」

「黒い子豚? どこかの家の庭から逃げ出したのか? 誰かコイツを知っているヤツはいるか?」

「ていうか、そもそも何で豚が家の屋根の上に上っているんだ?」

『私はクロ子よ』

「「「ぶ、豚が喋った?!」」」


 私の言葉にギョッと目を剥く男達。

 なんかちょっとだけ面白くなって来たわ。ブヒヒ。この感覚、癖になりそ。

 男の一人が叫んだ。


「喋る黒い子豚――長老会のエノキ婆さんが話していた豚ってコイツの事だったのか?! けど、まさかそんな生き物が本当にいたなんて!」


 エノキ婆さん? 誰やそれ――と思ったら、あ。村に入ってすぐに見かけた、人間の兵士に襲われてた、赤ちゃんを抱いたおばちゃんの事か。

 そういや、おばちゃんにも会ってたんだっけ。さっきは、第一村人発見、とか言ってたけど、全然そんな事なかったわ。


「それにしても豚が喋るって。女の声だし、メス豚か?」

『誰がメス豚じゃい! いやまあ、実際にメス豚なんだけど。けどそれだと罵倒されているみたいでイヤだから、名前で呼んで欲しいんだけど。さっきクロ子だって言ったわよね? あれって私の名前――』

『ボス! ボス! クロ子ボス!』

「うわっ! うわわっ! な、なんだこの犬コロ共は!」


 ここで額に角を生やした犬達が現れると、ワンワンキャンキャン吠えながら男達の足元を走り回った。

 マサさん達、黒い猟犬(ブラック・ガンドッグ)隊の犬達である。


『黒豚の姐さん! 命令通り、人間達に見付からないようにウンタ達を案内して来やしたぜ!』

『そう、ありがとうマサさん。みんなもご苦労様』

『『『応!』』』

「な、なんだこの犬達は! コイツらも言葉を喋るのか?!」


 突然現れた喋る犬達に、楽園村の男達は目を白黒させて驚いている。

 それはそうと、マサさん達が到着したという事は――


「あっ! あんな所にいやがったぜ。おおい、クロ子!」

「待てカルネ。村の様子がおかしい。人間の軍隊の事も気になるし、うかつに大声を出すな」


 ぞろぞろと現れた四十人程の武装した傭兵達。


「へえ、コイツが亜人の住む村ねえ。パッと見、俺達人間の村とあんま変わらねえんだな」


 そしてサッカーニ流槍術師範、槍聖サステナは、興味深そうな顔で無遠慮に村の中を見回している。

 どこにいてもふてぶてしいと言うか、本当にマイペースだな、お前は。


「に、人間の兵士達?!」

「ひ、ひいいいっ!」


 楽園村の男達はサッと顔を青ざめさせると、震える手で武器を構えた。


「待て、みんな! その武器を降ろすんだ!」

「みなさん、落ち着いて下さい!」


 傭兵達の――クロコパトラ歩兵中隊(カンパニー)の隊員達の間から、小柄な少年兵が二人、慌てて飛び出した。

 二人は兜を外すと、怯える村人達に向かって素顔を晒した。


「ロイン?! お前、ロインじゃないか! それにそっちはロインの弟のハリスか?! 二人共どうしたんだ一体! お前達どうして人間の兵士達と一緒にいるんだ?!」

「おっと、お仲間はロイン達だけじゃないんだぜ。なあウンタ」

「ああ。クロカンの隊員達。全員、兜を取るんだ」


 副隊長のウンタの命令で、クロカンの隊員達は兜を取った。

 亜人の特徴となる、鼻から下が前に突き出した顔が露わになる。


「あ、亜人だって?! こ、コイツら俺達と同じ亜人だ! ロイン、一体どういう事だ?!」

「待て、コイツら額に角が生えているぞ! 俺達、楽園村の住人とは違う種族の亜人なんじゃないか?!」


 怒涛の展開の連続に、村の男達はもうどこからどう理解すればいいかすら分からなくなっている。

 中には目ざとくクロカンの隊員達の額の角に気付いた者もいるようだ。

 村人達の目は忙しくロイン達とクロカンの隊員達の間を行ったり来たりしている。私は急に蚊帳の外に置かれてしまい、手持ち無沙汰で困っていた。


「それはそうとクロ子。ここで一体何があったんだ? 焼けている家もあるようだが」


 クロカンの副隊長ウンタが屋根の上の私を見上げて尋ねた。

 ああ、うん。それな。

 私は一連の事情をかいつまんで彼に説明した。

 ウンタとクロカンの隊員達は、話が終わると呆れ顔で私を見上げた。


「クロ子、お前・・・一人で先走って人間の軍隊と戦うとか。一体何考えてんだよ」


 ごもっとも。

 私は居心地の悪さに思わずブヒっと鼻を鳴らしたのだった。

次回「カロワニー・ペドゥーリ私設部隊」

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