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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第十二章 亜人の兄弟編
407/518

その404 メス豚と2EZ

 ザボの店に襲撃を掛けて来たアゴストファミリーの実行部隊約三十人。

 彼らはロイン達亜人兄弟の身柄を確保するため、三四人ずつのグループに分かれて建物内を調べ始めた。


『そーいや、体育とか発表会の時の班分けで、先生から「四人グループに分かれろ」って言われるのって苦手だったわぁ』


 襲撃者達を尾行しながら、私はふと呟いた。

 いや、別に私がボッチだったとか、クラスでハブられてたとかそういうのじゃないから。私にだってクラスに仲のいい友達ぐらいいたから。

 だから二人組なら問題なかったし、三人組もギリオッケーだった。けど四人組って微妙じゃない? 自分以外に後三人だぞ? 流石に多くね?


『ねえ水母(すいぼ)はどう思う? コンピューター同士って仲が良いの?』

沈黙(ツーン)


 私は背中のピンククラゲに声を掛けたが、彼はわざとらしく無視を決め込んだ。

 てか、口でツーンって何だよ。リアルでそんな事を言うヤツ初めて見たわ。アニメか。このアニメクラゲさんめ。

 アニメクラゲこと水母(すいぼ)は、先程私に散々こねくり回された事を根に持っているのか、すっかりへそを曲げているようである。

 いやいや、コンピューターだから感情がないって設定はどこに行った? もっと自分のキャラ付けには気を使おうな。


『そろそろこの辺でいいわね。このくらい建物の入り口から離れたら大丈夫でしょ。ほらほら、水母(すいぼ)。いつまでも拗ねてないで始めるわよ』

拗ねる否定(すねてない)。情報収集にリソースを割いていただけ』


 水母(すいぼ)の言い訳にツッコミを入れたい所だけど、時間がないのでここはスルーで。

 襲撃者達は暗い部屋の中を見回している。背後の私に気付いている様子はない。

 私は三人組襲撃者の中で、一番私に近い位置にいる最後尾の男に狙いを定めた。


酸素飽和度(オキシメーター)


 ゴンッ。


 魔法が発動すると同時に、男は意識を失い昏倒。

 男の頭が床にぶつかって大きな音を立てた。痛そう。


「何だ? どうした?」

「分からん。俺の後ろを歩いていた仲間が急に倒れた。おい、どうした? しっかりしろ。気を失っているのか?」


 前を歩いていた男が倒れた男の側にしゃがみ込んだ。

 酸素飽和度(オキシメーター)の魔法は、一定範囲内の空気中の酸素濃度を下げるという効果を生む魔法である。

 大気中における酸素の割合は21%。

 この数値が16%を切ると、人間は頭痛、めまい、吐き気を覚え、6%を切ると瞬時に昏倒。じきに死亡すると言われている。

 近年でも水道管工事等で作業員が倒れる事故が起こっているが、これは地下に硫化水素のような重いガスが溜まったことによる酸素不足が原因である。

 そう。男はただ倒れた訳ではない。酸欠になって意識を失って倒れたのである。

 ちなみに空気が停滞している地下とは違い、開けた空間(※いかに部屋の中とはいえ)内では、酸素飽和度(オキシメーター)の魔法で酸素濃度が低下した空気は、直ぐに周囲の空気と撹拌されて元の濃度にまで戻ってしまう。

 そのため襲撃者達は、なぜ急に仲間が倒れたのか分からず、混乱していた。


『お前達も仲間の後を追うがいい。酸素飽和度(オキシメーター)


 ドサッ。


「? お、おい、今度はお前か?! 急にどうしたんだ?!」


 私は再び酸素飽和度(オキシメーター)の魔法を発動。今度は仲間の介抱をしていた男が意識を失って床に倒れた。

 最後まで残ったヒゲの男は、ついさっきまで元気だった仲間が次々と倒れる怪現象に、完全に気が動転している。


 そう怯えるなって。直ぐにお前も仲間の所に送ってやるから。


 私が三度(みたび)、魔法を発動させようとしたその時であった。

 この騒ぎ声を聞きつけたのか、別の襲撃者グループがこの部屋を覗き込んだのだった。

 ちいっ。余計な邪魔が入りおったわ。


「どうした? 何をそんなに騒いでいるんだ?」

「! ――ハッ! て、テメエ! そうか、さてはこれをやったのはテメエだな?!」

「は? お、おい、一体何を言っている?」


 ヒゲの男は急に怒気を漲らせると、入り口にいる男へと詰め寄った。

 おっと、コイツは予想外。なんだか面白い展開になって来たぞ。

 どうやらヒゲの男は仲間をやられて完全に頭に血が上っているらしく、たまたま顔を見せただけのこの男を仲間殺しの犯人だと思ったようだ。

 冷静に考えれば、男が部屋を覗き込んだのは、仲間の二人がやられた後の事。犯行は不可能だったはずなのだが、周囲の暗闇がヒゲの男の判断力を奪ったようだ。

 自分の場所からは暗くて何も見えなかったが、多分、この男が何かしたのだろう。いや、そうに決まっている。そうでなければ筋が通らない。

 ヒゲの男は勝手にそう思い込んでしまったようである。

 ならばこの場で私のやる事は一つ。

 そう。この混乱に手を貸して助長してやるのである。


酸素飽和度(オキシメーター)


 バタッ。

 ヒゲの男に詰め寄られて、戸惑いの表情を浮かべていた男が、突然意識を失ってその場に倒れた。

 男の後ろにいた仲間達が気色ばむのが、暗闇の中でも分かった。


「は? お、おい、急にどうした?! テメエ、今コイツに何をしやがった!」

「知るか! 先に俺達に手を出して来たのはそっちの方だろうが!」

「はあ?! テメエふざけた事を言ってんじゃねえぞ! 俺の仲間に手を出してタダで済むと思うなよ!」


 彼らは犯罪組織の人間。それも他の人間よりも血の気の多いであろう実行部隊の男達である。

 目の前で仲間がやられて(ホントは私がやったんだけど)、落ち着いていられるはずもない。

 先に襲い掛かったのはそっちだ、いいやそっちだとの言い争いから、武力行使に移るまでに大して時間はかからなかった。


 ガキーン!


 鋼と鋼が打ち合う甲高い音と共にパッと火花が散った。

 こうして暗闇の中、アゴストファミリーの襲撃者達の同士討ちが始まったのであった。




『いやぁ、しかしこんなに上手くいくとは思いませんでしたわ。楽勝、楽勝。ネトゲで言うトコロの2EZ(トゥーイージー)ですわ』


 私はホクホク顔で、同士討ちを続ける襲撃者達を見つめた。

 あれから私は襲撃者達のグループを見かける度に、いい具合に同士討ちが起こるように仕向けていった。

 これがまた面白いくらいに上手くはまったのである。


『私は一人一人チマチマ殺していく手間が省ける。襲撃者達は自分達の手で仲間の敵討ちが出来る(ホントは彼らの仲間は私が殺したんだけど)。ついでに社会のゴミも片付くと、正に言う事なし。三方良しとはこの事ですな』


 すっかり悪役(ヒール)ムーブにご満悦の私の背中で、ピンククラゲが呆れたようにフルリと震えた。


超悪辣(えぐいて)


 三十人からの襲撃者達で、実際に私が魔法で倒したのは六~七人だろうか?

 後は敵同士、勝手に殺し合いをやっている。さっきまで部下達を止めようとしていた敵のリーダー、顔に火傷の跡のある男も、先程怒り狂った男に背後から切りかかられ、今は返り血で体をどす黒く染めながら相手をめった刺しにしている。


「クソが! 死ね! 死ねコラ! テメエごときがこの俺に歯向かいやがって! このザコが! 死ね!」


 うわっ、グロ注意。

 4ねとか、氏ねとか、これがY〇uT〇beならNGワードに引っかかって動画削除されてしまいますのん。いやまあ、そもそもこんなゴア映像を公開(アップロード)出来る訳がないんだけど。

 この世界に転生してからこっち、色々な経験をして来た私だが、流石にこの光景にはドン引きである。

 こんな狂犬みたいなヤツには、死後の世界に引退しといて貰った方が、世の中のためになるのではないだろうか?

 うん。そうだ。きっとそうに違いない。


『という訳で、世のため人のため、何よりも私のために〇んでくれ。酸素飽和度(オキシメーター)


 私は今夜何度目かになる酸素飽和度(オキシメーター)の魔法を発動。

 しかし、私が魔法を発動しようとしたその瞬間。狂犬男はハッと顔色を変えるとその場から素早く飛び退いていた。

 たったそれだけの動きで、酸素飽和度(オキシメーター)の魔法によって発生した低酸素の大気はかき乱され、その効果を失う。

 狂犬男は、警戒するように姿勢を低くすると、素早く周囲を見回した。


「誰だ?! 今、俺を狙ったのはどいつだ?!」


 驚いた。どうやら狂犬男は、殺気を感じて私の魔法を回避したようだ。

 てか、いくら何でも、ちょっと勘が良過ぎない?

 実は私が知らないだけで、この世界には人間だけが固有で持つ回避スキルとか探知スキルとかそういうのがあったりする?

 私の背中でピンククラゲがフルリと震えた。


該当する現象は(そんなの)観測出来ず(ないよ)

『真面目か。いやね、武道の達人相手ならともかく、マフィアにまで魔法を躱された訳じゃない。その事にちょっと萎えたっていうか』

「! なんだ? 今のは動物の鳴き声? どこだ?! どこに隠れていやがる?!」


 狂犬男は私の姿を捜してキョロキョロと辺りを見回している。

 しかし、今の私は闇夜のカラスならぬ、闇夜の黒豚。そう簡単には見つかるまいよ。


「待てよ・・・亜人・・・動物・・・ひょっとして魔獣とかいうヤツじゃねえだろうな? 町のヤツらがそんな噂をしていたが・・・下らねえホラ話だとばかり思っていたが、まさか――」

『おっと、そこまでだ。最も危険な銃弾(エクスプローダー)


 せっかく彼らがいい感じに同士討ちをしてくれているのだ。ここで身バレはつまらない。

 私は咄嗟に最も危険な銃弾(エクスプローダー)の魔法を発動した。


「!」


 男は今度も私の殺気を感じ取ったようだ。咄嗟に身を屈めて体の前に大型ナイフを構えたが、今回の魔法は先程の酸素飽和度(オキシメーター)ではない。

 そんなもので高速で飛翔する不可視の弾丸を防げるはずはなかった。


 パンッ!


 乾いた音と共に、狂犬男の腹部がザクロのように弾けた。


「なっ! 何だこれは?! バ、バカ・・・な・・・」


 狂犬男は驚愕に目を見開くと、床の上に前のめりに倒れた。


「・・・お・・・俺の腹が・・・ハア、ハア・・・ど、どうなってやがる・・・い、一体何が起きて・・・」

最も危険な銃弾(エクスプローダー)


 私は再び魔法を発動。

 血だまりの中でもがき苦しむ狂犬男に止めを刺した。

 男が動きを止めると同時に、家の中がシンと静まり返った。どうやらいつの間にか敵の同士討ちも落ち着いていたようである。


『みんな困るなあ、勝手に止めて貰っちゃ。水母(すいぼ)、生き残りの場所と人数は分かる?』

『生存者九名。そのうち、早期に治療を受けなければ助からない重傷者四名』


 ふむふむ、敵の生き残りは九人。その内の四人は虫の息と。

 つまりは実質、残っているのは五人という訳か。あれだけの騒ぎだった割には、案外無事なヤツが多いな。


『そいつらを始末しに行くわ。水母(すいぼ)、案内ヨロシク』

了解()


 【り】って、若者言葉か・・・って、このくだりはさっきやったか。

 私は背中のピンククラゲに案内されながら、生き残りの襲撃者達を始末しに向かうのであった。

次回「宵闇の戦い」

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― 新着の感想 ―
[良い点] いやぁ素晴らしいですね エクスプローラーだけじゃなくオキシメーターも使って 謎死を連発して混乱を加速させていく手腕 敵もボス格ともなると殺気に気付くちょうど良さ スイボは油断しきってるクロ…
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