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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第一章 異世界転生編
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その3 メス豚、魔法に目覚める

 村を訪れた騎士。彼が跨っていたのは、全長2m程の二足歩行の小柄な恐竜ちゃんだった。

 騎士が恐竜ちゃんを空の樽の前に連れて行くと、突然樽の中が水で満たされた。

 私の目の錯覚じゃない。本物の水だ。


 ――魔法。


 そう。この世界には魔法が存在したのだ。



 なぜ私がその不思議現象を魔法と思ったのか?

 樽の方に何か仕掛けがあるんじゃないかと疑う方が普通かもしれない。


 しかし、この時私はこの不思議現象が魔法だと分かったのだ。

 感覚的にピンときたというか、力の流れ? 魔法の動きが感じられたのだ。


 ちなみに目に見えた訳じゃない。

 空気は目に見えない。けど風を肌に感じる事で、周囲に存在しているって分かるじゃない。つまりはそんな感じ。


 う~ん。やっぱりこの感覚を口で説明するのは難しいかも。

 生まれて一度も甘いモノを食べた事が無い人間に、チョコレートの美味しさを上手く伝える事が出来るだろうか?

 私は全く自信がない。相手の知らない知識を正確に伝えるのはそれくらい難しいと思う。


 まあともかく、私は今の現象が魔法によって起こされた事を直感で理解したのだ。


 この世界には魔法が存在する。


 私はパッと目の前が開けたような気がした。


 この数日、私は脱柵作戦はそのことごとくが失敗していた。

 正直「もうダメなんじゃないか」と絶望しかけていた。


 けど魔法があれば――魔法を使いこなす事が出来れば事情は変わって来る。


 豚に魔法が使えるかどうかは分からない。

 けどどうせダメで元々だ。

 ていうか是非一度魔法を使ってみたい。

 折角異世界に転生したのに、今までは柵の中で豚のように(豚だけど)食っちゃ寝しているだけで、ちっとも異世界っぽい経験をしていなかったからだ。


 これは神が私に与えたもうたチャンスなのかもしれない。

 神は言っている、ここで死ぬ運命(さだめ)ではないと。

 



 騎士はガチムチに案内されて家の中に入って行った。

 ガチムチの家のオジサン(ガチムチの家族ではなくて、使用人みたいな人)が、おっかなびっくり恐竜ちゃんの手綱を引いて厩に連れて行った。

 恐竜ちゃんは大人しくオジサンの誘導に従っている。

 どうやら従順な性格の生き物みたいだ。


 私はオジサンが家に帰ると、恐竜ちゃんに近付いて行った。

 幸い厩はすぐ横にある。間近で観察するのに何の問題も無かった。


 私は何も好奇心でこんな事をしている訳じゃない。

 実はさっき魔法を使ったのは騎士ではなく、この恐竜ちゃんの方だったのだ。

 こうして見張っていれば、また魔法を使う所が見られるかもしれない。


 何かの格闘アニメで言ってた。武道には 「見取り稽古」 といって、直接教えて貰うのではなく、相手の使っている技を「見て覚える」稽古方法があるという。

 門前の小僧習わぬ経を読む。というヤツだな。


 さっき私は魔法の発動を感じる事が出来た。

 良く見ておけば、今度はひょっとしたら魔法の使い方のヒントくらいは掴めるかもしれない。


 私は目を皿のようにして恐竜ちゃんをジッと見つめるのだった。




 魔法使わないかな。というか魔法を使え。早く使え。使え。使え・・・


 私の念が通じたのだろうか? いや、単に私の視線が鬱陶しくなったのだろうか。

 恐竜ちゃんはイヤそうにこっちを向いた。


『あんまり見ないでくれる?』


 ・・・おやっ?


 今のはどなたのお言葉なのかな?


 いやいや待て待て。

 私はコテンと小首をかしげた。


 ここには私と恐竜ちゃんしかいない。

 いやまあ正確には私の周囲には兄弟豚達がいて、私が何をしているのかが気になるのか、さっきから散々まとわりついて来て鬱陶しいったらないのだがそれはそれ。

 ママ豚といい兄弟豚といい、私は豚が喋った所を聞いた事は無い。

 つまりこの場に人間がいない以上、言葉をしゃべる生き物はいないはずなのだ。


『そうやって見られていると落ち着かないんだけど』


 今度もハッキリ聞こえた。というか言葉は恐竜ちゃんが発していた。


 ええっ?! 恐竜って喋れるの?!




 私はショックを受けて立ち尽くしていた。


 兄弟豚達は恐竜ちゃんの言葉が分からないのか、我関せずと私の周囲をブヒブヒと歩き回っていて大変うるさい。


 え~と、ブヒブヒ。じゃなかった、こ、こうかな?


『私に話しかけたの?』

『あら驚いた。あなた豚なのに喋れるのね』


 恐竜ちゃんは無表情に驚いた。器用だなー。

 ていうか私の言葉が通じた事に自分でもビックリだよ。


『魔法は知能の高い生物にしか使えないはずなのに。あなた随分と賢い豚なのね。こんな豚初めて見たわ』 


 人の事を豚豚と失礼な恐竜ちゃんだ。いやまあ豚なんだけどな。


『私、魔法を使っているの?』

翻訳(トランスレーション)の魔法を使っているじゃない。自覚してなかったの?』


 これって魔法だったんだ!


 いやね、見ず知らずの異世界に転生したっていうのに、この世界に住んでいる村人の言葉が分かるのが不思議っちゃあ不思議だったのよ。

 ぼんやりと、異世界転生ってそういうものなのかもしれないなあ、なんて思ってたけど、初めて理由が分かったわ。

 私、ずっと無意識に魔法を使ってたんだ。

 そうだったんだー。へーっ。


『それで何でさっきからずっと私を見ていたの? 気になって休むことも出来ないわ』


 どうやら恐竜ちゃんは見かけによらず繊細な神経の持ち主らしい。

 視線が気になってゆっくり出来ないですと? 私なんて豚に生まれてこの方、六匹の兄弟豚達とずっとひとつ屋根の下で食っちゃ寝しておりますぞ。

 あなたがもし私だったら、今頃ノイローゼになっていたと思いますぞ?


 まあ今はそんな事はどうだっていいや。

 まさか恐竜ちゃんと言葉が通じるとは思わなかった。この幸運を生かさない手はないぜ。


『さっき水を出しましたよね? あれ、どうやったんですか?』

成造マニュファクチャリングの魔法よ』


 ・・・


 えっ? それだけ?


 いやいや、そんな言葉だけで分かる訳ないでしょうよ。もっと具体的に教えてプリーズ。


『面倒だわ』

『そんなこと言わずに。チョットだけ。先っちょだけでいいから』


 そういや今気が付いたけど、恐竜ちゃんは女の子なのかな?

 喋り方が何となく女の子っぽい。

 いやまあ、オネエの可能性もゼロではないんだけど。


『・・・失礼ね。私はメスよ』

『サーセン』


 恐竜ちゃん、おこである。

 哺乳類の私に爬虫類のオスメスの見分けは難易度高いっス。


『はあ・・・ まあいいわ。教えてあげるから、それでもう放っておいてよね。後、疲れているから教えるだけで魔法は使わないわよ』

『ブヒッ! おありがとうございまするぅぅ』


 喜びのあまり変な声が出ちゃった。

 



 あの後私は恐竜ちゃんから魔法の使い方を教わった。

 目下思い出しながら練習中である。


 身をよじりながら懸命に魔法を発動させようとする私。そんな私がよっぽど気になるのか、さっきから兄弟豚達がまとわりついて離れない。

 お前らホントにウザイな。ちょっとあっちに行ってろ。


 まあ豚は基本的に一日中ヒマしてるからね。

 誰かが偶然新しい遊びを発見したら、ずっと全員でそれをやってるくらいだから。

 どんな遊びかって? 幼稚園児もやらないような他愛無い遊びですよ。

 石を蹴っては追いかけたりとか、誰かのお尻を追い回したりとか。

 ホント何が面白いんだろうね。


 恐竜ちゃんは「魔法は知能の高い生物にしか使えない」って言ってたけど、コイツらには無理だろうなあ。

 豚って意外と頭が良い、とか聞いた事がある気がするけど、魔法を使える程じゃなかったみたいだね。


 生まれながらにして無意識に翻訳(トランスレーション)を使っていた魔法の天才、ナチュラルボーンマスター・クロ子をもってしても、魔法の発動は骨が折れるものだった。


 何というか、ひたすら頭の中で暗算をしていく感じ?


 私、理数系の科目って苦手だったんだけどなあ。

 恐竜ちゃんが魔法を使うのを嫌がったのも分かるわ~。

 疲れている時にこの作業はきっついと思うわ~。


 むっ! 来たぞな!


 頭の中で何かが弾けた気がした。今なら私、何でも出来そうな気がする!


 成造マニュファクチャリング(ウォーター)


 ポチャンと音がして、私の生み出した水が水桶の中に落ちた。


 おおっ! 今の見た?! 私、本当に魔法を使ったんだけど!

 ええと、大体コップ一杯分くらい? ショボ! 私の魔法ショッッボ!!


 いやまあ確かに、初めて魔法を使ったし最初は嬉しかったけど、いくらなんでもこの量はショボすぎでしょう。

 あれだけ苦労してこの程度じゃあ、取れ高低すぎですわ。


 厩の中でうずくまっていた恐竜ちゃんが、私の方をチラリと見てまた目を閉じた。


 さっきの私もそうだけど、魔法を使える生物は、他人の魔法の発動も感じ取ることが出来るみたいだ。

 つまり恐竜ちゃんは私の魔法を感じて、『うるさいなあ』とこっちを睨んだのだ。

 サーセン。

次回「メス豚、密かに特訓を重ねる」

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[良い点] すげー がんばれクロ子!
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