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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第十二章 亜人の兄弟編
395/518

その392 メス豚、ガチムチと戦う

 ここはショタ坊村の中央広場。

 詰めかけた野次馬達の見守る中、私は村の村長のガチムチと一対一で対峙していた。

 クロコパトラ歩兵中隊(カンパニー)の副官ウンタが、騎士団風のゴツい鎧を着たガチムチに声を掛けた。


「本当にやるのか? クロ子は今まで何人もの人間を殺しているんだぞ?」


 おい。人の事を連続殺人犯か何かみたいに言うんじゃない。

 確かに私は今生の豚生では何度も人を殺めているが、基本的にはそれらは戦いの中での話。止むを得ない状況での話だからな。


「構わん。噂の魔獣の力、とくと見せて貰おう」


 ガチムチは鼻息も荒く槍をしごいた。

 そしてお前は何でそんなにやる気になっているんだか。

 クロカンの大男、カルネがウンタの肩を叩いた。


「相手がこう言ってんだ。俺達が気にしても仕方がねえって。なあに、クロ子なら適当に上手くやってくれるさ。なっ? クロ子」


 お前は少しは気にしろ。

 ウンタは能天気なカルネの笑顔に眉をひそめると、諦め顔で私に振り返った。


「クロ子。分かっていると思うが、模擬戦闘だからな。殺したりはするなよ」


 ンなモン、言われなくても分かってるっての。

 てか、何で私がガチムチ相手に勝負をしなきゃいけないんだか。

 私はブヒッと小さくため息をつくのであった。




 話は前日に遡る。

 私と村長代理のモーナ、それにクロカンの副官ウンタが話している所に、ノックの音が響いた。


「――どうぞ」


 ドアを開けて入って来たのは、雰囲気イケメンのロインと、弱気ショタ坊ことハリスの兄弟。

 二人の話し合いはどういう結論になったのだろうか?

 我々は黙って彼らが口を開くのを待った。


「難しい事を頼んでいるのは分かっているが――」


 そう言って話を切り出したのは兄のロインの方だった。


「もし可能なら、村に帰るための手助けをしてくれないだろうか?」

「それは、二人共楽園村に戻るという事でいいのかしら?」


 モーナの問いかけに、ロインとハリスは揃ってコクリと頷いた。


「それが難しい事は分かっている。だが、俺達はこの国ではお前達以外に頼りに出来る者が誰もいない。今はこの通り何も持っていないが、もし村に帰れたらその時は十分な礼をする。だから頼む」

「それに追手が麓の村まで来ている以上、僕とロイン兄さんがいてはいずれあなた方の迷惑になるはずです。この村を守るためにも僕達は村から出て行った方がいいでしょう。そのためと思って協力してはくれませんか?」


 二人は相談の結果、自分達の村に帰る事に決めたようだ。

 それ自体は予想していたので驚くような事ではない。その際に我々に協力を求めて来るというのも想定済み。てか、右も左も分からない外国で、二人だけで何が出来るのかって話でもあるわな。

 モーナは私に振り返った。


「それはクロ子ちゃん達にお願いする事になるわね。どうかしら? クロ子ちゃん」

『オッケー。身元を引き受けた以上、面倒を見る責任もあるしね。いいわよね? ウンタ』

「なんでそこで俺に振る。クロ子がそう決めたのなら、俺達クロカンの隊員達はそれに従うだけだ。それにロインとは一緒に狩りをした仲間だ。誰も文句は言わないだろうよ」


 ウンタは仏頂面で私から顔を逸らした。

 お人好しのお前らがロイン達兄弟を見捨てられないのは、最初から分かっていたけどな。


『ツンデレね』

「・・・言葉の意味は分からないが、その妙な目つきでこっちを見るな」


 私から注がれる生暖かい視線に、ウンタは犬でも追い払うように手を振った。


「――恩に着る」

「どうもありがとうございます」


 ロインとハリスも、我々なら断らないと考えていたのだろう。

 とはいえ、それはあくまでも自分達の見立て。多分、そうなるだろうという予想に過ぎない。

 こうやって協力を明言された事で、二人はホッと安堵の笑みを浮かべたのだった。


「それで、具体的にはどうするの? クロ子ちゃん」

『そうねぇ。水母(すいぼ)は隣の国に行く方法について何か分かる?』

情報ナシ(ムチャ言うなし)


 ですよねー。

 いくら水母(すいぼ)が前魔法科学文明の作り出したスーパーコンピューターでも、人間の国の事までは分からない。

 こんな時、スマホとネットがあればググるか、ネット質問箱に投稿すれば済むのにのう。


「う~ん。私達だけで分からないなら、誰か知ってそうな人に聞くしかないわね」


 人それを他人任せと言う。


「知っていそうな人間・・・ひょっとしてランツィの町のザボの事を言っているのか?」


 そう、それや。

 ザボは亜人村の御用商人である。ランツィの町に店を構える前は、この辺りの村々を渡り歩いていた行商人だったそうだ。

 彼ならこの辺の地理にも詳しいはずだし、隣国の商人との付き合いもあるだろう。ひょっとしたら、彼本人も、何度か国境を越えて隣国に行った事があるかもしれない。

 彼なら我々の相談に快く(※個人の感想です)乗ってくれる事だろう。


『だったら早速、明日にでもランツィの町に行こっか。ロイン達は留守番で』

「なんでだ? 俺達も行った方が話が早いだろうに」

『ん? そういやそうか。なら二人も一緒で。ウンタ、彼らがここに来るときに使った例の輿(こし)? お神輿(みこし)? あれってまだあるわよね?』

「ああ。どこかに置いたままにしていたはずだ。後で探しておこう」

「ま、またアレに乗るんですか?!」


 ハリスはイヤそうに目を見張ったが、君らが劣化・風の鎧(ウインドスプリント)の「いや、俺達の魔法(ウインドスプリント)だ」(※ウンタのツッコミ)いや、どっちでもいいっての。その身体強化の魔法を使えない以上、お神輿(みこし)で運ばれるのをガマンして貰うより他に仕方がない。

 ロインは自分の足で私らについて来ようとして、全然追いつけずに倒れてしまった時の事を思い出したのだろう。

 苦虫を噛み潰したような表情で沈黙を守った。


「それよりクロ子ちゃん、いいの?」

『何が?』

「グジ村の村長の息子の話よ。ロイン達から話を聞いた後で、グジ村の村長にも報告するって言ってたじゃない」


 あ~、そういや、ガチムチの息子にそんな事を言ったんだっけ。


『まあいいや。じゃあランツィの町に行く前に、ショタ――グジ村に寄るって事で。簡単に事情を報告するだけだし、大して時間もかからないでしょ』


 この時の私は軽く考えていた。

 だがそれは大間違い――いや、それ程でもないかな? それは()間違いだったのである。




 てなわけで翌日。

 我々はロインとハリスを乗せた神輿(みこし)を担ぐと、ショタ坊村ことグジ村――ん? 逆だったか? まあどっちでもいいや、へと向かったのであった。

 道中については特に話す事も無いので省略。で、我々はお昼前には無事、ショタ坊村へと到着したのだった。


「あ、相変わらずデタラメな速度だな、お前ら」

「お、落ちるかと思いました」


 死にそうな顔をしているロイン達兄弟については、まあ、止むを得ない犠牲だったという事にしておこう。死んだみたいに言うなって? サーセン。

 てか、ぶっちゃけ、二人があまりに怖がるものだから、クロコパトラ歩兵中隊(カンパニー)の隊員達が調子に乗った所もあったと思う。

 みんなそこはかとなくドヤ顔だし、白黒で言ったら黒と見てほぼ間違いないんじゃないかな。

 村に入った我々は、速度を落とすとそのまま村長(ガチムチ)邸へGO。

 ワシやぞー。ドンドン、おるかー。


「メラサニ村の亜人達か。良く来たな」


 そこで我々は驚きのあまり言葉を失くした。

 私達を出迎えたガチムチは、体のあちこちに包帯を巻いていたのであった。




 ガチムチの痛々しい姿に、我々は一瞬言葉が出なかった。

 驚きの表情で立ち尽くす我々に、ガチムチは「ああ、コレの事か」と、忌々しそうに包帯が巻かれた腕をさすった。


「俺も実戦から遠ざかって腕が鈍っていたようだ。たかが数名を相手にしただけでこの有様だ」


 どうやらガチムチは、ロイン達の追手とやり合った際に負傷した模様。

 そりゃそうか。なにせ追手は五人もいたという話だからな。むしろこんなケガだけで済んだだけ大したものである。

 お前なら五人相手でも平気なんじゃないかって? 殺していいならそりゃあね。けど、全員生かして捕らえるとなると難しいかな。

 私の知っている中で、そんな芸当が出来るのは、大モルトの五つ刃や七将のような達人クラスの剣豪。それと目の前にいるガチムチくらいじゃないだろうか?

 ガチムチは私達を自宅(ガチムチ邸)へと招き入れた。


「それで? 今日は事情を聞かせに来てくれたんだろう?」

「ああ。捕らえた男達からある程度話は聞いているかもしれないが――」


 クロカンの副官、ウンタは事前に打ち合わせをしていた通りに、ロイン達の事情をザックリと説明した。

 具体的には、彼らが隣国ヒッテル王国のペドゥーリ伯爵領から来た事。そこに彼らの村がある事。村の名前や規模、村のある場所なんかの具体的な情報は伏せておく。人間達に広めて良い事など何もないからだ。

 要は今回の事情さえ伝われば良いのである。


「なる程。当主交代の際に良くありがちなゴタゴタという事か・・・」


 ああ、ペドゥーリ伯爵のお家事情については、私らが知ってる限りの事をバッチリ伝えたぞ。こっちは秘密にしておく意味なんて別にないからな。

 捕らえた男達の言葉や態度からも、何か察する所があったのだろうか? ガチムチは難しそうな顔をして唸り声を上げた。


「やはりこれは、いち村長の手にはあまる用件だな。ヤツらの身柄は東サンキーニ卿か大モルト軍に預けるしかないか・・・」


 ガチムチはそう言うと私らの方をチラリと見た。

 この目、この表情、出来れば追手の護送を我々に引き受けて貰いたいとか考えていそうだな。

 けど残念。悪いけど、ンな面倒はまっぴらゴメンだ。ここは何も気付かなかったフリをしてスルーで。

 ガチムチは黙ったままの我々に、諦めたようにため息をついた。

 こっちでは今のやり取りが分からなかったカルネ(脳筋)だけが、不思議そうな顔をしていた。


「事情は大体分かった。それはそれとして――」


 ガチムチはそう言うと、私の事をジッと見つめた。

 なんぞ?


「そこの魔獣と、一度戦わせては貰えないだろうか?」


 は? なんで?

次回「メス豚vsガチムチ」

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