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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第十一章 冬休み編
368/518

その365 メス豚、家探しする

 雪に覆われたメラサニ山。

 私は木の枝の上に身を潜めていた。

 こうして大自然と一体化する事、約一時間。


『むっ。ようやく出て来たか』


 遂に対象に動きが現れた。

 私の視線の先。斜面にポッカリと空いた穴の中から、亜人の男衆が出て来たのだ。

 彼らの最後に姿を現したのは、額に小さな角を生やしたキズだらけの大男。

 クロコパトラ歩兵中隊(カンパニー)の小隊長カルネである。

 カルネは一度だけ名残惜しそうに背後を振り返ると、上機嫌で仲間達に合流した。

 こうして彼らは雪の山の中に消えて行ったのであった。




『・・・行ったか』


 私はしばらく木の上で辺りの様子を窺っていたが、誰も戻って来ないのを確認すると地面に降り立った。


『さてさて、それじゃあ始めましょうかね』


 何を始めるのかって? んなモン、穴の調査に決まってるだろうが。

 楽しい楽しい家探しタイムの始まりである。

 そのためにわざわざこのクソ寒い雪山の中、彼らが立ち去るまでジッと待ってたんだからな。

 私は足取りも軽やかに洞窟? 洞穴? とにかく、先程までカルネ達亜人の男衆が籠っていた穴へと向かったのだった。


『一体何が出て来るかしらね。別にさっき乱入しても良かったんだけど、それじゃ面白味がないってもんだし』


 それはそうと、私は誰に向かって説明してるんだ?

 いやまあ、いつもは水母(すいぼ)がいるから、つい、そのノリで独り言を言っちゃうだけなんだけど。


 ちなみに私はカルネ達からこの洞穴の話を聞いた事が無い。

 逆に言えば、あそこには彼らが大ぴらに出来ない何かがある、という訳だ。

 彼らが一体あの洞穴で何をしていたのか?

 あるいはあそこに一体何を隠しているのか?

 これって退屈しのぎには持って来いの題材とは思わないかい?

 カルネ達が秘密にしている以上、こちらもコッソリ探索するのがマナー。

 乱入してアッサリ暴露するのは野暮というもの。

 とはいえ、男があんな風にコソコソする事なんて、大体想像が付くんだけどな。


『きっとエロ本ね。間違いないわ』


 決めつけが酷過ぎるって?

 いやいや、前世でも、クラスの男子が教室の隅に集まって嬉しそうに盛り上がっている時って、大抵そういうエロネタだったから。

 ああ勿論、ガチのエロ本や18禁のアダルト動画じゃないぞ。さすがに学校でそんなのを見てたら私ら女子はドン引きだからな。

 要はアレだ。アイドルの水着写真や、漫画のエロ場面、あるいはアニメのエッチシーンばかりを纏めた動画とか、そういったソフトエロ系のネタ? そういった物で盛り上がっていたのだ。

 そりゃまあ、女子だってエロい物を見ない訳じゃないけど、見るなら一人でコッソリ見るというか、仲間内で大盛り上がりをするような事はないっていうか。

 素直に、男子ってスゲエな、とか思うわ。

 別に羨ましくはないけど。


『亜人村の文明レベルを考えると、エロ本は作られていないと思うけど、春画だっけ? エロい絵くらいはあるかもしれないし』


 あるいは地球からの転生者、パイセンがエロ画を描いて残している可能性もワンチャンある。

 つまりはアレだ。エロ同人誌。パイセンってアニメオタクだったし。

 こういうのも知識チートに含まれるのかな?

 いや待った。亜人の村の技術では製本されたエロ本は作れなくても、人間の町では普通にエロ本が作られて、店で売られているかもしれない。

 我ら亜人村の御用商人・・・ええと、何て名前だっけ?


『そうそうザボ。ザボ辺りから貰ったって可能性もあるわね』


 ザボは元々はこの辺りの村を回っていた行商人。パイセンとも取引をしていたそうだ。

 今では王都の金融界を牛耳る大商会、オスティーニ商会のロバロ老人から出資を受け、この辺一帯のハブ都市ランツィに店を構えている。

 我々は彼のお得意様――というよりも、一方的に投資して貰ってばかりの関係だが、どうせそのお金の出所はロバロ老人だ。

 この程度の金額、オスティーニ商会にとってははした金(・・・・)だろうし、私は割り切ってジャンジャンおねだりする事にしている。

 ロバロ老人にはネクロラの使徒達から息子一家を、そして大モルト軍の工作員にさらわれた孫娘を助けてやった恩もあるしな。

(※第七章 混乱の王都編 より)


 てなわけで、私は洞穴に潜入した。


『流石に真っ暗ね。発光 (ルミネッセンス)!』


 魔法が発動すると、空中に光の球が現れ、辺りを照らした。

 穴の大きさは人一人がしゃがんで歩ける程度。

 子豚の私には十分な大きさだが、大男のカルネ辺りになるとかなり窮屈だろう。

 洞穴は少し進んだ先で木の板で塞がれていた。


『いや、違う。あれはドアね』


 木の板に見えたのは木のドアだった。つまりは目的地はあの先にあるという訳だ。

 私は洞穴の先へと進んだ。




 幸い、ドアには鍵はかかっていなかった。


『へえ、結構広いわね。十畳くらい? まあ、さっきまでカルネ達が全員入っていたんだからそれもそうか』


 ドアの先にあったのは、十畳程の広さの空間だった。

 天井までの高さは二メートルないくらい。一番低い場所だと、背の高いカルネなら頭を打ちそうだ。

 下は板葺きの上にゴザまで敷いてある。床に直接座ったり、寝転がったり出来るようにしているらしい。

 中央にはポッカリと穴が開いていて、その中には大き目の素焼きの壺がズラリと並んでいる。

 ゴザの上にもいくつか同じ壺が転がっているが、そちらの方は蓋が空いていて空っぽだ。

 試しに匂いを嗅いでみると、発酵食品独特の酸っぱい匂いがした。

 念入りに部屋を探索してみたが、どこにもエロ本らしき物は見つからない。

 余程巧妙に隠してあるのか、はたまた彼らが持ち帰ったのか――


『――てか、普通に考えたら、ここでみんなで何か食べてただけなんだろうけど』


 実はその事自体はドアを開ける前から――なんなら洞穴に入った時辺りからハッキリと分かっていた。

 だってホラ、私って優れた嗅覚を持つメス豚だから。

 洞穴の中には、男達が残した体臭に混じって食べ物の匂いが立ち込めていたのである。

 なんで分かっていたのに言わなかったんだって?

 だってそれを認めちゃうと面白くないじゃない。


『あ~、つまりここは狩りの際の休憩所であり宿泊所。つまりはベースキャンプみたいなもだったのか。そりゃまあ夏場はともかく、冬は外で野宿をする訳にもいかない訳だしね。マジかあ~、ガッカリ』


 カルネが妙に思わせぶりな態度を取るもんだから、変に期待してしまったわい。

 なんだよ、この世界のエロ本が見て見たかったのに。

 あ~もう止め止め、馬鹿らしい。私はゴザの上にゴロンと横になった。

 てか、寒い思いをしてまで見張りをしていたあの苦労をどうしてくれる訳?

 全部カルネが悪い。あいつめ、村に戻ったらどうしてくれよう。

 ちなみに洞穴の中は意外と居心地が良かった。

 風が入らないせいだろうか? 体感的には気温もかなり暖か目に感じた。

 いや、実際に暖かいのかも? よー分からん。こんな時水母(すいぼ)がいてくれたら良かったのに。

 水母(すいぼ)のピンククラゲボディーは各種観測機器の集合体なのだ。


『ふ~む。このまま手ぶらで帰るというのもつまんないわよね』


 私の視線は空っぽになった壺の上で止まった。元は何かの保存食が入っていたと思われる例の壺だ。

 次に私の視線は部屋の中央、大きな穴に敷き詰められた蓋のされた壺に向いた。

 その途端、私のお腹がグギュゥと可愛らしく(?)鳴った。


『・・・沢山あるし、別に一つくらい貰っても構わないわよね。よし、食べよう。最大打撃(パイルハンマ)!』


 最大打撃(パイルハンマ)は物を浮かせるという現象に特化した魔法である。

 私は適当な壺を選ぶと、魔法で浮かべて手元に引き寄せた。

 壺は亜人の村で良く使われている一般的な素焼きの壺。大きさは私がスッポリ入っても余裕があるくらい。

 私は苦労して蹄の先で蓋をこじ開けた。


『ウゲッ! なんじゃこりゃ!』


 蓋を開けた途端、発酵食品独特の酸っぱい匂いが辺りに漂った。

 壺の中は濁った水で満たされていた。


『完全に腐ってる・・・って訳じゃないわよね?』


 私はなんとなく、お漬物か何かじゃないかと想像していたが・・・だとするとこれは野菜から出た水分だろうか?

 野菜なんて漬けた事がないので、さっぱり分からんが。


『匂いは・・・食べられない感じじゃなさそうだけど』


 ブヒブヒと匂いを嗅いでみると、鼻にツンとは来るものの、ウンチのような臭い匂いはしない。

 ふむ。試しに少し舐めてみよう。


『あれ? 意外と悪くないかも』


 美味しいか美味しくないかと言われれば、特に美味しくはない。だが、別にイヤな味という訳でもない。

 何だろう。キツイ中にも発酵食品独特の旨味的な物を感じるというか。

 これなら中身も食べられそうだ。

 私は壺の中に鼻面を突っ込むと、壺の底に敷き詰められた塊? お団子? を頬張った。


『うわっ。不味っ。何コレ? 見た目はパン生地っぽい感じだけど、ボロボロだし微妙な味だし。てか不味っ』


 私は不味い塊を頑張って飲み込んだ。

 ダンゴムシも平気で食べる今生の私が不味いって感じるなんて、相当なものだと思うけど?

 カルネ達は本当にこんな物を食べていたんだろうか? いやマジで。


『なんだろう? 料理次第で美味しくなるとか? けど、こんな場所で料理とか出来ないと思うんだけど』


 部屋にはかまどどころか暖炉すらない。

 焼く事も煮る事も出来ないん以上、調理なんて出来るはずもなかった。


『たまたま出来損ないを引いちゃった? だったらもう一つ行っとく? ど・れ・に・し・よ・う・か・な、っと、じゃあ次はコレ』


 私は別の壺を選ぶと、『最大打撃(パイルハンマ)』。その壺を手元に引き寄せた。

 壺の中身は最初に開けた壺同様、濁った汁に覆われていた。


『てか、お前もか! だから何なのよこの水は?!』


 ええい、ままよ。私は壺の中に首を突っ込んだ。


『ガブガブガブ・・・うへっ。中身まで全く一緒って』


 壺の底に沈んでいたのは、先程と同じ。あの微妙な味のお団子だった。


『じゃあ何コレ? 他のも全部同じ物が入っているって事? いや、まさかそんな事はないわよね? 最大打撃(パイルハンマ)


 私は別の壺を適当に選ぶと次々に手元に引き寄せた。


 ――今思えば、この時点で私は気が付くべきだった。

 いくら後に引けない気分になっていたとはいえ、折角カルネ達が作った食べ物をこんな風に食べ散らかすのは、流石にやり過ぎだ。

 そもそも食べ物を粗末にする事自体が私らしくない。

 私が自分らしくなくなっていた理由。


 そう。この時、私は酔っぱらっていたのである。

次回「メス豚捕獲作戦」

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― 新着の感想 ―
[良い点] エロ本…は無いにしても全年齢のこの作品で娼婦小屋とかが出てくるとは思えないし… あれ?そういえば獣人たちの性欲ってどう解消…まあいいか… と思いながら読んでましたがまさかの発酵食品!O・S…
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