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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第一章 異世界転生編
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その2 メス豚、脱柵を試みる

 私は水場の近くの柔らかくなった地面に鼻面を突っ込んでいた。

 もりもりと地面を掘り返していた私の鼻が、土の中に動くモノを捉えた。


 おっ、やった。ミミズ見ーつけ。


 良きかな良きかな。私はプリプリ動くミミズを丸のみすると、再び鼻で地面を掘り返す作業に戻った。



 私達子豚七匹兄弟がママ豚から引き離されて既に十日。

 今では食事も離乳食から家畜用の飼料へとシフトしていた。


 質問、豚は何を食べるのか?


 答えは何でも。


 草があれば草を。草が無ければ掘り返して草の根を。

 我々は麦のような穀類から、昆虫やミミズまで、口に入る物なら大抵の物を食べる超雑食生命体なのだ。


 いやー、しっかし自分が昆虫を食べる日が来るとは思わなかったわー。

 前世では虫とか大大大嫌いだったのよね。

 名前の頭文字にゴキ(・・)の付くヤツとかなんて特に。

 殺虫剤で息の根を止めたゴキを、捨てられずにママに泣きついた事もあったっけ。

 今なら捨てるどころか普通に口にできる自信があるわ。

 タフになったもんだわ私。


 虫なんて美味しいのか? と聞かれれば、「別に」と答えるしかない。

 だったら何で食べるの? と聞かれれば、「何となく」としか答えられない。


 食べられるものなんだから食べたっていいんじゃない?


 そんな感覚だ。

 スナック感覚とも言う。

 実際、虫なんて食べたって別にお腹の足しにもならないからね。


 全く、私も心身共にメス豚になったもんだよ。

 あっ。またミミズ見っけ。パクリ。ゴクン。ご馳走様ブヒー。

 さあ穴掘りの続きにかかるとするか。


 私は別にミミズを探して土を掘り返しているわけじゃない。

 おっと、またまた発見。パクリ。ゴクン。

 ミミズはあくまでも副産物。これも全て来るべきプリズンブレイクに備えての事なのである。


 私ら豚一家の居住区は忌々しい柵で取り囲まれている。

 豚の脚力ではこの高さを超えて逃げるのは不可能だ。

 いやまあ可能だったら何のために作られた柵なんだ、って話になるわな。


 で、だ。押してもダメなら引いてみな。上がダメなら下があるじゃない。

 パンが無ければケーキを食べればいいじゃない的なアレだ。いや違うか。

 そう、脱走といえばトンネル。現在私は脱走用のトンネルを掘っている最中なのである。


 流石に豚一匹通れるトンネルを掘るのは無理でも、根気よく柵の根元を掘り返していけば、柵を倒す事なら出来るんじゃない?

 気が長いって? まあ幸い時間だけはたっぷりあるからね。

 授業も無ければ部活動も無い。食っちゃ寝、食っちゃ寝の、正に豚そのものな生活ですから。


 私は掘る! ひたすらに掘る! 自由という名の明日に向かって!




 ハイ、私です。

 先日の計画ですが、早速終了のお知らせとあいなりました。

 なんとルベリオことショタ坊が――ん? 逆か? まあいいか、ショタ坊で。

 ショタ坊が私の計画を邪魔しやがったのだ。


 今では柵の周りには私が掘り返せないように石が積まれておりまする。トホホ。


「ダメだよクロ子。掘り返すなら柵の近くじゃない場所をね」


 などと屈託のない笑みでのたまうショタ坊。

 このスマイルでどんだけショタ好きお姉さんを殺してきたのだろうか?

 だから私にショタ趣味はないんだっつーの。

 そもそも柵の近く以外を掘り返したって意味がないんじゃーい!


 くそう。白昼堂々隠すことなく掘り返していたのがマズかったか。

 ましてや私のやっている事を遊びと勘違いした豚兄妹達が、ずっと私の周囲にまとわりついていたからな。

 そりゃショタ坊の目にだって留まるわ。


 このクロ子、一生の不覚。


 だがまだショタ坊は私の事を疑ってはいないはずだ。

 可愛い子豚ガールの無邪気なお遊びとしか思っていないに違いない。

 今ならまだヤツの隙を突ける。はずだ。


 ワテはこんくらいで諦めたりはしまへんでー。

 



 くそう。手ごわい。ショタ坊思っていたよりも手ごわい。


 私は短い豚足で地団太を踏んだ。

 あの後、私は思い付く限りのありとあらゆる方法を試したが、その全てがショタ坊によって阻まれていた。



 出入り口の近くに身をひそめておいて、柵を開けて入って来た横を駆け抜ける作戦。


 ・・・普通にキャッチされてしまいました。

 コイツ坊ちゃん面した見かけによらず、ビックリするくらい素早いのだ。

 アカン。こやつの手をかいくぐって逃れるビジョンが全く浮かばないわ。失敗。


 ショタ坊の持ち込んだ桶の中に身をひそめて、外に運び出して貰う作戦。


 ・・・桶を持つ前に普通に見付かりました。ですよねー。当然失敗。


 隙を突いてショタ坊に一発食らわして出入り口の鍵を奪って逃げだす作戦。


 いやいや相手がまだ子供とはいえ、ムリムリ。今の私は小型犬以下のサイズだし。ケンカなんてしたことのない女の子だし。

 失敗以前に試す度胸すらないわ。



 いやもうこれ無理ゲーじゃね?

 しかも腹立たしい事に、私がこんなに必死に努力しているのに、ショタ坊は私が遊んで欲しがっていると勘違いしているのだ。

 コンチクショー。憎い。お前のその爽やかスマイルが憎過ぎる。


 ・・・このまま正攻法(?)を続けていてもダメだ。

 何かイレギュラーなチャンスが訪れるのを待つしかないのか。


 例えば突然村に大火事が起こるとか?


 ・・・う~ん、それはちょっと望み薄かなあ。


 村の家と家の間には十分な距離が空いているように見えるし、仮にどこかの家から火の手が上がっても延焼はし辛いんじゃないかだろうか。


 だったら地震?


 う~ん、これもどうなんだろう。


 確かに、日干しレンガの家は地震には弱いんだろうけど、逆に言えばそんな建材で家を作るくらいだから、地震なんて滅多に起こらないお土地柄なんだろう。

 絶対に起こらないなんて言えないけど、それを待つのはどうだろうか?

 まぐれ当たりに自分の命をベットするような事はしたくないよなあ。


 ヤバい。段々どうにも出来ないような気がして来た。

 このままズルズルとエックスデーを迎えてしまいそうな気がする。

 何かチャンスが欲しい。もしくは脱走のための何かヒントを。豚の神様プリーズお願い。


 この時、私は完全に行き詰まっていた。


 しかし、私が求めて止まないそのヒントは、ひょんな形で目の前に現れる事になるのだった。




 ある日の夕方。

 聞き慣れない足音に私は柵の外に目を凝らした。


 何じゃアレは?!


 私はメス豚転生をしてから一度だけ、馬に乗った旅人がこの村に立ち寄ったのを見た事がある。

 前世では動物園でくらいしか馬を見た事が無かった私は、仰ぎ見る馬の巨大さと迫力に驚いたものだった。

 まあ自分が小さな子豚だから、余計にそう思っただけかもしれないけど。

 

 しかし、今日、見るからに騎士の恰好をした男が乗っているのは馬では無かった。

 一言で言うなら恐竜?


 それは2m程の二足歩行の小柄な恐竜――ジュラシックな映画に出て来るヴェロキラプトルを可愛くしたような、恐竜的な何かだった。

 てか何でわざわざ恐竜に乗るわけ? 普通に馬に乗ったんじゃダメなの? こっちの方がカッコイイから?


 不思議そうに見つめる私を恐竜ちゃんはジロリと見た。


 ヤバい。捕食対象としてロックオンされちゃった?!


 焦る私だったけど、恐竜ちゃんは大して興味も無さそうにすぐに視線を外した。

 後で知った事だけど、恐竜ちゃんは草食竜だったのだ。


 掘っ立て小屋から出て来た村長ことガチムチが、騎士にヘーコラし始めた。

 日頃は村人相手にふんぞり返っているくせに、偉い相手にはその態度か。見苦しい男よのお。

 私は「イヤな物を見たぜ」とぼんやりと眺めていたが、とある光景に目を見張った。


 騎士が恐竜ちゃんから降りて空の樽の前に連れて行くと、突然樽の中が水で満たされたのだ。


 恐竜ちゃんは樽に口を突っ込んで喉を鳴らして飲んでいる。

 目の錯覚じゃない。本物の水だ。


 ――魔法。


 そう。この世界には魔法が存在したのだ。

次回「メス豚、魔法に目覚める」

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