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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第二章 修行編
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その26 メス豚、亜人の村を訪れる

 私は狩場で出会った亜人の男――ククトと山の中を移動していた。

 ククトの提案で彼の村に案内してくれる事になったのだ。


 彼に前を歩かせて、私は少し離れた後ろを付いて行っている。

 ちなみにククトからは「抱きかかえて行こうか?」と言われたが、断固として断った。

 もちろんいざという時にすぐに逃げ出せるようにである。用心は怠らないのだ。


 自分でもいささか疑り深過ぎる気がしないでもないが、これって出会ってすぐの男性の家に行く感じじゃない?

 乙女としてはそういうのやっぱり抵抗あるわけよ。ブヒッ。 


 退屈しのぎに私達は、道すがら前世の四方山話に花を咲かせた。


「マジか・・・ いや、そりゃそうだよな。15年もたてばPS5が出ていても当然だよな」


 ククトは「PS3買ったばかりだったんだがなあ・・・」と、ショックを受けている。

 彼は15年前に地球からこの世界に転生したらしい。

 だから前世の記憶も15年前で止まっているのだ。


 しかし、この世界で生まれて15年か。

 いわば私の大先輩だな。

 日本のアニメオタクのフランス人という、何ともキャラの濃い先輩(パイセン)だな。


『それにしてもパイセンは15歳には見えませんな』

「パイセンって何だよ、パイセンて。勝手に人に妙なあだ名を付けるなよ。亜人は成長が早いのかもしれないな。同い年の連中の中でも俺はガキな方だぜ? デカいヤツになると大人と見分けが付かないからな」


 マジか。15歳で大人ってスゴイな。

 日本で言えば中学卒業の時には既にオッサンみたいになってるってことだもんな。


「いやいや、見た目は流石にオッサンじゃないから。体の大きさ的な話な」


 そりゃそうか。15歳でオッサン、オバサンなら亜人の恋愛事情が悲しすぎるわな。


「なあナ〇トって観てる? あれどうなったのか続きが気になってんだけど」

『ナ〇ト? 何年か前に連載が終わって、アニメも終わったんじゃなかったっけ』

「マジで?! ナ〇トは火影になれたのかな?!」


 だから知らないって。

 何で女子に少年漫画の事を聞くかな。


「くそう! せっかく日本人転生者に会えたっていうのに、世代が違い過ぎて会話が通じねえ! こういうの日本では何て言うんだっけ? 二階から目薬? 隔靴掻痒(かっかそうよう)?」


 また、やたらと日本語に詳しかったりするのだ、このパイセンは。

 ちなみに隔靴掻痒(かっかそうよう)とは、『靴を隔てて痒きを掻く』という意味の四字熟語らしい。

 そっちは何となく聞いた事があるような・・・ って、日本人の私より日本語に詳しいっておかしくない?


「俺、大学の第二外国語は日本語を専攻してたから。将来は日本の田舎で農業をやりながら、ネットとアニメ三昧のスローライフを送るのが夢だったから」


 また何とも具体的にアレな夢だな。

 まあ日本でも地方の過疎化が進んで、限界集落が問題になってから随分経つからな。そういう土地ではパイセンみたいな人も案外喜ばれたりするのかもね。


「フランスでもパワーレ〇ジャーが放送されていたけど、俺は断然オリジナル派なんだよな。ポリコレ先進国の手が入ったパワーレ〇ジャーよりも本家が作った戦隊がやっぱ至高。日本じゃ日曜日の朝に戦隊と仮面ラ〇ダーが放送されてて、日本人は子供の頃から毎週観ているんだろ? クールだよなあ」


 パイセンは日本人は全員観ているみたいに言ってるけど、さすがに特撮番組を観ているのは子供とパイセンみたいなマニアだけなんじゃないかな。

 そんな無駄話をしているうちに、どうやら私達はパイセンの村に到着したみたいだ。




 パイセンの村は山の盆地に作られた質素な村だった。

 ショタ坊村と作りはよく似ているけど、こっちは木造の家が立ち並んでいる。

 土地柄野生生物が多いせいか、村の周囲はぐるりと木造の柵で囲まれている。

 そりゃそうだ。

 柵も作らずにこんな場所で畑を作ったら、収穫前に鹿やイノシシに食い荒らされてしまうだろう。


 おっと、第一村人発見。

 パイセンと同じく、鼻から下が前に突き出した犬面の亜人だ。


「おい、ククト! お前の後ろに丸々太った子豚がいるぞ!」


 村人はパイセンの後ろを歩く私を見つけて驚いた。

 てか初対面の人間から、丸々太っているなんて言われる覚えはないんですけど。私は決して太っていない。いないったらいない。


 パイセンは笑って彼に手を振った。


「コイツは俺の客なんだ。そうだな、ちょっとゴメンよ」


 パイセンは腰に巻いた布をほどくと私の首に巻いた。

 丁度スカーフのような感じだ。

 黒い子豚にワンポイントが入って、私の可愛らしさがより引き立ったんじゃないだろうか?


 ・・・決して全裸にスカーフとか考えてはいけない。


「これで周りからも野生の豚じゃないと分かるだろう。これは俺からのプレゼントって事で。じゃあ行こうか」


 パイセンはスカーフの形を整えると立ち上がった。


 プレゼントか。


 サラッと渡されたけど、実は私はパパ以外の男性からプレゼントを貰ったのは初めてだったりする。

 まさかメス豚に転生してプレゼント童貞を卒業する事になるとは思わなかった。

 何だろうかこの胸の高鳴りは。

 どうしよう。私、妙にパイセンを意識しちゃってるかも。

 さっきまで何とも思ってなかったはずなのに・・・


「クロ子? どうした?」


 ドキッ!


『な、何でもない』

「そうか? 村の中に入ったし、やっぱり抱きかかえて行こうか?」


 ななな、なんつー事を言い出すんだお前は!

 抱きかかえるって、アレか?! お姫様抱っこをするつもりか?!


『いいからサッサと行けよ!』


 私がブヒッ! と怒鳴ると、パイセンは肩をすくめて歩き出した。

 彼の背中を追いながら、私はドキドキとうるさい心臓を抑えられずにいた。




「お帰りククト!」

「ただいまモーナ」


 少女がパイセン駆け寄ると二人は熱い抱擁を交わした。

 そのまま互いの頬にキスをする。

 どこからどう見ても恋人同士だよねコレ。

 でも、一応念のために聞いてみる事にする。


『そちらはどなたでしょうか?』

「キャッ! 今の声は誰?!」

「彼女はモーナ。俺の恋人だよ」


 クソッ! やっぱ恋人かよ! そうだろうと思ったわ!

 私の胸の高鳴り終了のお知らせである。

 早かったな!


 ワンチャン漫画みたいに「彼女は俺の妹なんだ」という展開を期待したのだが、現実はフィクションに非ず。

 私はブヒッと鼻を鳴らした。舌の上にしょっぱい鼻水の味がした。


 人知れず勝手に盛り上がって勝手に沈み込む私に、モーナは興味津々の様子だ。


「この子豚、スカーフをしているのね。オシャレだわ」

「それは俺が巻いてあげたんだ」


 自分のセンスを彼女からオシャレと言われて、まんざらでもない様子のパイセン。

 ケッ! バカップルめ。昼間っから天下の往来でイチャコラしてんじゃねえよ。


 モーナはしゃがみ込むとヒョイと私を抱き上げた。


「待ってモーナ、彼女は――ええっ?!」

「どうしたのククト?」


 何の抵抗も無く抱き上げられた私にパイセンは目を丸くして驚いている。


「俺が抱こうとしたらあんなにイヤがったのに・・・」


 ああ、あの時はあの時。なんだかもう何もかもどうでも良くなったから。

 抱き上げたければ好きにすればいいさ。モフりたければ好きにモフれば? 私、剛毛だけどな。


 私はぐったりとしたままモーナに抱かれて、パイセンの家に案内されるのだった。

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